邦楽
E 「Part of the Journey is the End」2023年12月5日。チバユウスケが死んだその日、友人Eからこのようなメッセージが届いていた。旅は必ず終わる――。アメコミ映画の主人公が確かそんなことを言っていたっけ。無論それは、チバユウスケのことを指していると…
チバユウスケが死んだ。食道ガンだった。2023年4月、その病状が公表されて以来、一度も表舞台に上がることができぬまま帰らぬ人となった。あれほどのロックスターもガンには勝てなかった。しばらくの間、悲しみに暮れ、何も書くことができなくなった。療養中…
2019年2月、エレファントカシマシのフロントマン宮本浩次は、ソロデビューを果たす。楽曲はこれまでエレファントカシマシの枠にとらわれない自由な作風が軒を連ね、ソロとバンドとの差別化が顕著に見て取れた。そこで忘れてはならないのが、やはりオマージュ…
エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999) 前編 www.miuranikki.com 9.「暮れゆく夕べの空」(1994) | Pink Floyd - Breathe (In the Air) 冒頭の印象的なフレーズは、Pink Floydの「Breathe」を彷彿とさせる。だが、「暮れゆく夕べの空」の…
日曜。会場のさいたまスーパーアリーナに向かうまでの道は、コクーンシティさいたま新都心に行く人の波も相まってとても混んでいた。会場に近づいていくにつれ、指数関数的に年配者が増えてくる。他方で自分と同じ20代の姿は反比例するかのように減少してい…
コンサートが始まってから約1時間、辺りはすっかり暗くなってきた。第2部、ミドルテンポな細海魚のキーボードと宮本のギターのストロークから始まったのは「さらば青春」。ところが――、1番のサビに差し掛かろうかというところで、序盤に間違えた歌詞に納得が…
つい先日までの記録的な暑さが嘘だったかのように、この日の東京には冷たい雨が降っていた。日曜日、霞ヶ関駅周辺は閑散としている。道行く人々は傘を開き、俯き加減にそそくさ歩いている。「ピヨ、ピヨ、ピヨ……」交差点、音響信号の鳥のさえずるメロディー…
エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 前編 www.miuranikki.com 9.「なからん」(2015) | Beck - Lonesome Tears 「なからん」はアレンジからコード進行、さらにはテンポに至るまで、ベックの「Lonesome Tears」の影響が色濃い。特に冒…
エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 前編 www.miuranikki.com 11.「すまねえ魂」(2006) | The Rolling Stones - Time Waits For No One 「すまねえ魂」は、「Time Waits For No One」の冒頭のフレーズが、引用されている。全体的な楽…
1. 藤井風 - LOVE ALL SERVE ALL 2022年、彼の創り出した音楽は日本を飛び越え世界中で聴かれ、Spotifyのバイラルチャートでは日本人で最も聴かれたアーティストとなった。そのブレイクスルーには、商業的な要素を超えた、救済としての音楽という側面の表出…
2023年3月19日、日曜。快晴。太陽がやけに高い。久々に厚手のコートではなく薄手のジャケットを羽織った。それでも外を歩いていると少し汗が滲んだ。時おり吹いてくる海風が心地よい。有明テニスの森駅で降り、案内を頼りに歩いていると、独特の曲線を描いた…
想起されたのは、今、此処(ここ)にある東京の風景だった。ところがその歌詞には東京という言葉は使われていない。無論、それを連想させるような言葉も入っていない。それでも東京なるものを感じるのは、バンドが持っている強烈な土着性だろう。エレファン…
2022年、エレファントカシマシが最後に曲を出してから、4年半の歳月が経過しようとしている。この空白期間は、これまでの彼らのキャリアにおいて最長であり、今現在も更新中である。新曲をリリースしていない期間中のエレファントカシマシの活動といえば、年…
エレファントカシマシという観測史上最大級の"嵐"が去った後の会場は、すっきりと晴れ渡っていた。ある意味で最高の御膳立てである。続くステージはイベントの主催者、大トリのスピッツである。彼らの音響システムは、マイクをアンプに置いて増幅させず、ア…
観測史上最大級の暴風雨のようなライブ——。「有明サンセット 2022」2日目の3組目は"ダークホース"、エレファントカシマシ。本イベントは、8月の初めになるまで、残り一組が誰になるのか未発表であった。例年、若手から中堅のアーティストがラインアップに軒…
2022年9月28日と29日、ここでスピッツが主催する「有明サンセット」なるものが開催された。サンセット企画なるものは例年、新木場のSTUDIO COASTにて「新木場サンセット」が開催されていた*1が、2020年限りでSTUDIO COASTが閉業してしまったために、会場の変…
池袋西口のカラオケルーム、男は「黒く塗りつぶせ」を予約していた。曲が始まる。イントロのビートが、音の割れたスピーカーから流れる。男は矢沢永吉の歌い方を意識し、しゃがれ気味でシャウトをしながら歌う。曲が終わり、すぐさま次の曲が始まる「時間よ…
1. 東京事変 - 音楽 2021年、延期されていた東京オリンピックが開催された。椎名林檎は東京2020 開会式・閉会式 4式典総合プランニングチームに就任したものの、2020年12月、新体制によるチームの解散により、開催を待たずして活動を終えることになった。チ…
2019年6月12日、男は恵比寿LIQUIDROOMのステージにて一人、ギターを持って弾き語りをしていた。宮本浩次、ロック歌手、そしてエレファントカシマシのボーカリスト。ソロアーティストとして自身初の単独ライブであった。汗でぐしゃぐしゃになった長髪の合間か…
今回は、2010年から2018年までにリリースされた作品のオマージュについてである。この時期のオマージュは、宮本自身(エレファントカシマシ)の可能性を広げるものとしての位置づけになっているように思える。宮本は、ジャンルや時代を横断した楽曲を制作して…
今回は2000年から2009年までにリリースされた作品のオマージュについて考察していく。この頃のエレファントカシマシのオマージュに関してキーワード付与するとすれば、"同時代性"である。1966年生まれの宮本と同世代の海外のアーティストのオマージュがこの…
かつて、誰かが言っていた。エレファントカシマシは日本のロックバンドではなく、日本のロックバンドはエレファントカシマシである、と。 寸分の狂いもない、見事な形容だと思った。ただ、彼らの楽曲を聴いているとどうも、海外の音楽の影響を強く感じる。別…
今回は、1988年のデビューから1999年までの時代のオマージュについて考察していく。この時期のエレファントカシマシは、1960年代から1970年代までの、いわゆるロック黎明期の時代の作品のオマージュが多い。中には「星の砂」をはじめ、当時の楽曲を大胆に引…
冬の東京は、雲一つない晴れの日が多い。澄み渡った空気は、都会特有の化学的なツンとした匂いをわずかに含み、あらゆるものをたちまち無機質にさせる。埼玉郊外から電車に乗り、日本武道館へと向かう。この日も、天気は晴れ。ぼんやりと、車窓を眺めてみる…
ある一羽の不死鳥がいた。不死鳥は、天寿を迎えると燃え盛る炎の中に飛び込み、たちまち灰と化してしまう。だがしばらくすると、灰の中から再び産声を上げ、生まれ変わった不死鳥は大空に向かって再び大きく羽ばたいてゆく——。筆者はふと、この話がエレファ…
宮本は、独歩した。これまで築き上げてきたエレファントカシマシという屋号に一旦の別れを告げ、新たな行き先で自己を表現することになった。『宮本、独歩。』、齢50を過ぎてからの挑戦であったが、いたって足取りは軽く、着の身着のまま、本能が赴くままに…
言葉の一つ一つの意味を追うことも、紡がれた言葉にどのような意味が隠れているのか考えることも要らない。これは、何かのメタファーなどではなく、あくまでも素直に受け入れるべき世界なのかもしれない。まるで子どもが絵本という空想の世界の中へ疑いなく…
聴くに堪えないほどの苦痛――。かつて、24歳だった宮本浩次が『生活』でみせた、粗削りな音と、パッションに満ちた青い叫びからくる苦痛とは明らかに違うものがそこにはあった。2012年、世に出された『MASTERPIECE』の苦痛は、人生の折り返し地点を過ぎた衰え…
この作品に存在しているのはいわゆるバンドサウンドという、いくつかの楽器の組み合わせよってもたらされる音の快楽だけではない。たとえそこに、歌詞という意味付けがあったとしても(日本語を母語とする者なら尚更)、それが音と作用し合うことによって生じ…
今回のベスト・アルバムを選ぶ際に、大きく決めたテーマは2つある。一つは"ライブと分断された作品"を選ぶということだ。もっとかみ砕いていえば、ライブで演奏されることが前提になっていない作品を選定するということ。ライブやフェスという半ば当たり前に…