三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 前編

今回は2000年から2009年までにリリースされた作品のオマージュについて考察していく。この頃のエレファントカシマシのオマージュに関してキーワード付与するとすれば、"同時代性"である。1966年生まれの宮本と同世代の海外のアーティストのオマージュがこの時期非常に目立っている。今回の記事でも挙げている、The Smashing Pumpkinsのビリーコーガンは1967年、The Stone Rosesのイアン・ブラウンは1963年、Radioheadのトム・ヨークは1968年生まれといった具合。宮本は彼らと同じような音楽体験をし楽曲を制作してきたが、大きく違うのは日本という島国、そして日本語という言語で歌っているということだ。そこに、単なる模倣ではない日本的な要素が苔のように付着していく。またこの時期(『STARTING OVER』以降)は、自身の楽曲に、聴きやすさを補完するためにオマージュを用いている点で、変化が見られる。そんなわけで今回も時系列順に考察していく。


1.「so many people」(2000) | The Stone Roses - Made of Stone

イントロのアルペジオの部分が、「Made of Stone」を意識したものとなっている。「so many people」は、シングルとアルバム『good morning』で、イントロのアレンジが若干異なっているが、オマージュという括りで言うならば、前者の方がその影響を強く感じる。近年の披露されるライブアレンジに限って言えば、より忠実なオマージュを感じることができる。2017年日本武道館で行われたThe Stone Rosesのライブを観に行った宮本は、涙を流すほど感動したとインタビューで発言していたが、当時から彼らの音楽性に影響を受けていたことがわかる。The Stone Rosesよりも激しさが際立った楽曲だ。

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2.「good morning」(2000) | The Smashing Pumpkins - Ava Adore

この楽曲が収録された作品『good morning』は、宮本が打ち込みを多用した、ソロワーク色が強くなっているため、キャリアの中でバンドサウンドという枠組みからもっとも離れた作品であると言えるだろう。その中のこの楽曲は、The Smashing Pumpkinsの「Ava Adore」からの影響を強く感じる。太いドラムビートの打ち込みや、雑なミックスのギターサウンドは、まさにそれである。1990年代に勃興したインダストリアルは輸入され、東京の工業団地の無機質さと融合し、土着的なインダストリアル(工業的な)サウンドを醸し出す。〈忘れちまったよ武蔵野台地〉というフレーズがパンチラインとして響く。

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3.「ガストロンジャー」(2000) | The Stone Roses - Driving South, The Doobie Brothers - Long Train Runnin'

「ガストロンジャー」で繰り返される8小節のビートは、「Driving South」のビートからの影響が色濃くでている。冒頭、ギターリフのフレーズから始まり、バンドサウンドが構築されていくところまで、しっかり踏襲されている。しかしながら、ビートアプローチがThe Stone Rosesの方が淡々と呟く感じなのに対し、宮本の方は、非常にタイトでその熱量は高い。また、開放的なサビの箇所には、The Doobie Brothersの「Long Train Runnin'」のサビの印象的な音階がサンプリングされ、曲のフックとなっている。ジャンルや時代を見事に横断させ、より力強いメッセージの塊として、昇華された楽曲である。

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4.「武蔵野」(2000) | Led Zeppelin - Night Flight

「武蔵野」の冒頭のドラムビートは、Led Zeppelinの「Night Flight」を想起させる。ところが不思議なことにエレファントカシマシのドラムビートからは、東京の風を感じる。東京の主たる移動手段と言えば、電車である。そう、このドラムビートは規則的な電車のジョイント音を想起させ、自分自身が電車の中にいるということを自覚させるのだ。〈電車にガタゴトゆられてたら〉という歌詞は、その想起をさらに容易にさせる。そんなビートに乗せられるのは、赤羽出身の宮本の無機質で冷たく掠れた歌声だ。これもまた東京を形成する一塊であり、東京の風景を立体的に構築させてゆくのである。

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5.「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」(2002) | Jesus Jones - Right Here Right Now

Jesus Jones最大のヒット作『Doubt』に収録されている「Right Here Right Now」がその影響元となっている。特にイントロや、3コードのシンプルな構成からはその影響を感じることができる。影響元の楽曲は、デモを制作する段階で、ジミ・ヘンドリックスのギターソロとプリンスの楽曲をサンプリングしていたが、プロデューサーによってボツにされ、新たに作り直してこのトラックが誕生したという逸話がある。もし、デモ音源がそのまま採用されてしまっていた場合、もしかすると「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」は作られていなかったか、こちらの方も全く違うアレンジになっていたのかもしれない。

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6.「面影」(2002) | The Smashing Pumpkins - Mellon Collie And The Infinite Sadness

かつて、雑誌rockin'onでアーティストが選ぶ名盤についての記事が掲載されていたが、そこで宮本が挙げていたのがこの楽曲が収録されている『Mellon Collie and the Infinite Sadness』であった。宮本は、有線でたまたま作品を聴き、そこで初めて知ったようである。誌面で宮本は、カート・コバーンとビリー・コーガンの名前を挙げ、自分は彼らと同じ世代であり、通ってきた音楽はLed ZeppelinやBlack Sabbathと、ヘヴィなものを聴いていた点でシンパシーを感じ、それが作品にも出ているという旨を述べていたのが、非常に興味深かった。影響元の、ピアノバラードが見事に彼らの楽曲として咀嚼されている。

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7.「秋 -さらば遠い夢よ-」(2002) | Wings - Venus And Mars

「秋 -さらば遠い夢よ-」は、ポール・マッカートニーがThe Beatles解散後に結成したバンド、Wingsの「Venus And Mars」からの影響が色濃い。どちらも、全編を通じてアコースティックギターを中心に据えたアンプラグドサウンドで貫かれており、歌の合間に入るピッコロのような笛の音はエレファントカシマシの方では、口笛に変わっている。冒頭4小節のイントロで作り出された枯れ木や落ち葉のような寂しさを含んだ情緒は〈秋の風が街を覆いだすと 人はきっと孤独〉という歌詞によって、さらに増幅されてゆく。一方、影響元の方は宇宙船が登場し、SFテイストのある楽曲に仕上がっている。

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8.「達者であれよ」(2004) | Led Zeppelin - Houses of the Holy

この楽曲が収録されている『風』全般に言えることであるが、そのサウンドは Led Zeppelinの6作目のアルバム『Physical Graffiti』の影響が色濃く反映されている。「達者であれよ」の空間を生かしたドラムとギターのサウンドは、まさにその最たるものであると言えるだろう。Aメロでのギターフレーズのノリは「Houses of the Holy」を彷彿とさせる。サビや楽曲の後半の〈いつもの街の音 遠くにして〉から始まる箇所では、そのノリを逸脱するかのような縦横無尽なメロディーが連発され、そこにエレファントカシマシのオリジナリティが見て取れる。宮本の引用の妙といったところだろうか。

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9.「平成理想主義」(2004) | Led Zeppelin - Moby Dick, Red Hot Chili Peppers - Can’t Stop, Red Hot Chili Peppers - Give It Away, The Beatles - Come Together

サウンドチェック的な導入部分は、Led Zeppelinの「Moby Dick」を彷彿させる。そして、ギターリフはRed Hot Chili Peppersの「Can’t Stop」のギターフレーズからのオマージュを強く感じる。さらに興味深いのは、そのベースライン。同バンドの「Give It Away」のヴァース部分、あるいはThe Bealtesの「Come Together」冒頭のフレットを大きく動かす独特のベースラインのエッセンスを感じる。とはいえそのサウンドはザラついており、引用元のミックスとも大きく異なるせいか、きちんとエレファントカシマシの曲として成立しているのが見事。宮本の当時の趣向がこれでもかと9分の中に詰め込まれた楽曲だ。

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9.「化ケモノ青年」(2004) | The Rolling Stones - Jumpin' Jack Flash

冒頭、ギターのリフレインするところが、「Jumpin' Jack Flash」のオマージュであるといっていいだろう。両者は非常に似ているのだが、そのコードストロークや、そこに起因する余韻を聴き比べてみると、何かが決定的に違う。「化ケモノ青年」の方には、あっけらかんとした明るさは微塵もなく、その代わり、日本の脈々と続く歴史の風を感じるのだ。湿っぽく、陰気で鎖国的な風土特有の風。のちに続く部分で宮本は、日本の近代をテーマに高らかに歌い上げるが、何か、歌詞だけではなく音の部分にも、そうした魂のようなものが宿されているような気がする、というのは、考えすぎだろうか。

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10.「すまねえ魂」(2006) | The Rolling Stones - Time Waits For No One

「すまねえ魂」は、「Time Waits For No One」の冒頭のフレーズが、引用されている。全体的な楽曲の雰囲気も非常に近いものとなっているが、やはりボーカル、そして日本語詞によってそのアプローチの違いを感じることができる。メロディーの高低差が、影響元よりも大きいためだろうか、宮本の叫びには悲痛なものがある。他方、ミックの歌声の方は哀愁はあれど、どこか朗らかさが内包されている。この楽曲が収録されている『町を見下す丘は』の頃は「俺たちの明日」で再ブレイクを果たす前夜であり、比較的落ち着いたバンドサウンドの楽曲群で構成されているが、それを象徴するような一曲となっている。

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Track Listing (2000-2009)
1.「so many people」(2000) | The Stone Roses - Made of Stone
2.「good morning」(2000) | The Smashing Pumpkins - Ava Adore
3.「ガストロンジャー」(2000) | The Stone Roses - Driving South, The Doobie Brothers - Long Train Runnin'
4.「武蔵野」(2000) | Led Zeppelin - Night Flight
5.「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」(2002) | Jesus Jones - Right Here Right Now
6.「面影」(2002) | The Smashing Pumpkins - Mellon Collie And The Infinite Sadness
7.「秋 -さらば遠い夢よ-」(2002) | Wings - Venus And Mars
8.「達者であれよ」(2004) | Led Zeppelin - Houses of the Holy
9.「平成理想主義」(2004) | Led Zeppelin - Moby Dick, Red Hot Chili Peppers - Can’t Stop, Red Hot Chili Peppers - Give It Away, The Beatles - Come Together
10.「化ケモノ青年」(2004) | The Rolling Stones - Jumpin' Jack Flash

11.「すまねえ魂」(2006) | The Rolling Stones - Time Waits For No One
12.「今をかきならせ」(2006) | Pearl Jam - Corduroy, Pearl Jam - Spin the Black Circle
13.「今はここが真ん中さ!」(2008) | T. Rex - Children Of The Revolution

14.「Sky is blue」(2009) | Beck - Loser, Radiohead - Paranoid Android, The Chemical Brothers - Setting Sun
15.「新しい季節へキミと」(2009) | The Who - Pinball Wizard
16.「ハナウタ~遠い昔からの物語~」(2009) | Daniel Powter - Bad Day
17.「おかみさん」(2009) | Led Zeppelin - Heartbreaker
18.「桜の花、舞い上がる道を」(2009) | Roy Orbison - Oh, Pretty Woman

 

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (まえがき)

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999)

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999) 後編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 後編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 前編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 後編

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エレファントカシマシ(+宮本浩次)のオマージュに関する考察 (2019-現在)

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