三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

エレファントカシマシ(+宮本浩次)のオマージュに関する考察 (2019-現在)

2019年2月、エレファントカシマシのフロントマン宮本浩次は、ソロデビューを果たす。楽曲はこれまでエレファントカシマシの枠にとらわれない自由な作風が軒を連ね、ソロとバンドとの差別化が顕著に見て取れた。そこで忘れてはならないのが、やはりオマージュの存在。近年の、特に2021年、カバーアルバム『ROMANCE』以降の宮本はそのインタビューにおいて、幼少期の頃の歌謡曲の原体験について語る機会が多いが、筆者的には、ソロになってからも相変わらず宮本は、洋楽からのインスピレーションを多く得ているように見受けられる。確かに、その精神的な部分こそ当時の日本の音楽から影響を受けているのかもしれないが、音楽的な要素に関しては無論、洋楽の影響が色濃く出続けている。2023年、エレファントカシマシ名義としては久しぶりの新曲をリリースする。ソロ活動を経た新しいエレファントカシマシにおいてもやはり、オマージュは当然みられた。そんなわけで今回は、宮本浩次のソロ作品と、エレファントカシマシについて併せて書いていく。なお、こちらの記事は新曲のリリースのたびに更新する可能性があるため、"2019年から現在"という期間にした。さらなる新曲を心待ちにしながらこの記事を書いてゆくことにしたい。

 

1.「going my way」(2019) | T. Rex - Solid Gold Easy Action

日本酒月桂冠「THE SHOT」のタイアップ曲としても起用された「going my way」。MV。白い背景に、ル・コルビジェの椅子。その横にはマーシャルアンプが置かれ、スーツ姿の宮本がギターを弾きながら、ときには身振り手振りしながら歌う――。そんなこの曲の随所で登場する<Hi、Hi、Hi!>という印象的な掛け声は、T. Rexの「Solid Gold Easy Action」のギターリフのフレーズの後のブレイクに入る<heh heh heh>という掛け声を彷彿させる。そのビートの乗り方や曲の構成はまったく違っているが、影響元のいわばパンチライン的なフレーズを自分自身の曲に見事に昇華している楽曲である。

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2.「Fight! Fight! Fight!」(2020) | Wings - Jet

ほとんどが既発表曲で構成された『宮本、独歩。』における、数少ないアルバム曲の「Fight! Fight! Fight!」。イントロのフレーズがまさしくWingsの「Jet」からインスパイアされている。<Jet! Jet! Jet, I can almost remember their funny faces>と"Jet"というフレーズが繰り返されるところにも影響を感じる。とはいえイントロ以降は「Jet」以上に縦横無尽に曲が展開していき、終盤はポール・マッカートニーもお口あんぐりの、凄まじいハイトーンの絶唱をみせる。2020年、コロナウイルスの流行によるツアーの中止により、ついにこの曲をライブで聴くことは叶わなかったのが何とも惜しい限りである。

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3.「sha・la・la・la」(2021) | Sublime - What I Got

「sha・la・la・la」からは、Sublimeの「What I Got」のニュアンスを感じる。インタビュー等で本人の口から言及されていないため、あくまでも推測になってしまうのだが、西海岸サウンド特有の乾いた感じが、まさにこの曲を思い起こさせる。歌い方もそうである。Aメロの<遠い星空に誓った幼き日/俺は絶対勝つってよ>という部分では、エレファントカシマシの時にはなかった、気怠く、力の抜けた感じの崩し方で歌われる。「What I Got」のいわゆるAメロに相当する部分でも、一語一語を吐き捨てるように歌われるが、そのあたりも含めて、Subimeからのオマージュを感じる一曲である。

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4.「十六夜の月」(2021) | Iggy Pop - Lust For Life, Green Day - Stray Hearts, The Jam - Town Called Malice

「十六夜の月」はいわゆる"モータウン・ビート"からの影響が感じられる。これは、1960年代興隆したモータウン・レコード所属のアーティストが頻繁に用いるようになったことから、そのように呼ばれるようになった。跳ねるようなドラムに裏拍で合わせるタンバリン、そして3連符を基調としたベースライン――。これが時代によって実に様々なアーティストの楽曲のエッセンスとして取り入れられている。ここに挙げたのはほんの一握りであるが、宮本は*1インタビューにおいてイギー・ポップの「Lust For Life」のビートを参考にしたと語っている。とはいえ個人的には1960年代以降、Green DayやThe Jamからの引用もあると踏んでいる。特にサビのラストのメロディラインは「Stray Hearts」的である。

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5.「just do it」(2021) | The White Stripes - Fell In Love With a Girl, The White Stripes - Hypnotize

華やかな楽曲が目立つアルバム『縦横無尽』の中で一際異彩を放つ「just do it」。全面に押し出されるのは、潰れたギターサウンドにオープンハイハットに空間が強調されたスネアが特徴的なドラムビート。本人の口から明言こそされてはいないが、この作法はThe White Stripesからの影響を強く感じる。ここに挙げた2曲は、特にそれを感じる。The White Stripesと言えば、ギターとドラムの2ピースバンドであるが、そのシンプルさに、バンドでは出来なかったソロとしての可能性を見出したのかもしれない。この曲は2022年のバースデーライブにおいて披露されたのみであったが、定番化されても差し支えない爆発力を持った曲だ。

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6.「rain -愛だけを信じて-」(2021) | The Beatles - Two Of Us, Coldplay - The Hardest Part

The Beatlesの「Two of Us」をイメージして制作したという宮本。『縦横無尽』は小林武によって全編がアレンジされているが、その際はよりストリングスが強調されたサウンドになっているため、デモ音源の方はよりアコースティックなものだったと推測される。アレンジについて宮本は、

*2やさしくて広がりを持ったデジタル感、例えばイギリスのコールドプレイのようなサウンドで洗練されたもの

という風に形容している。確かにColdplayのようなサウンドであるが、「rain -愛だけを信じて-」に近い質感を持った曲として「The Hardest Part」を挙げたい。宮本はラジオ『アーティスト・プロデュース・スーパー・エディション』にて『X&Y』を最近聴いていると話していたため馴染み深い作品であることは間違いない。

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7.「It’s only lonely crazy days」(2023) | The Rolling Stones - It's Only Rock 'N' Roll (But I Like It), The Beatles - Taxman

「yes. I. do」のカップリング曲であるが、まずはそのタイトルは、The Rolling Stonesの「It's Only Rock 'N' Roll (But I Like It)」をもじっていることは明らか。また影響元の方には<I know it's only rock 'n' roll, but I like it, like it, yes, I do>と"yes, I do"というフレーズが登場しているのも興味深い。タイトルだけではなく、ビートからサウンドに至るまで、楽曲のいわゆる骨子の影響も色濃い。そして本曲のベースラインは、まさしく、The Beatles の「Taxman」のそれである。2023年のThe Rolling Stonesの新作ではポール・マッカートニーがベースで参加したが、奇しくもそれを予見したかのような融合である。

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8.「Hello. I love you」(2023) | Aerosmith - Pink, Red Hot Chili Peppers - Dani California

「It’s only lonely crazy days」が1960年代のUKのクラシックだとすれば、「Hello. I love you」は、2000年代のUSロックをベースにした曲と言って良い。イントロのドラムフレーズは、Red Hot Chili Peppersの「Dani California」を彷彿とさせ、Aメロでの乗り方や、間奏のドラムフレーズはAerosmithの「Pink」を思わせる。カラッと乾いた"海岸サウンド"であるが、宮本の歌声が一たび乗ってしまえば、場所は一気に東京都北区赤羽へと引きずり込まれてしまう。「Pink」ではハーモニカが印象的であるが、エレファントカシマシの方は、ピアノとシンセサイザーの存在が印象的なフックとなっている。

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Track Listing (2019-現在)
1.「going my way」(2019) | T. Rex - Solid Gold Easy Action
2.「Fight! Fight! Fight!」(2020) | Wings - Jet
3.「sha・la・la・la」(2021) | Sublime - What I Got
4.「十六夜の月」(2021) | Iggy Pop - Lust For Life, Green Day - Stray Hearts, The Jam - Town Called Malice
5.「just do it」(2021) | The White Stripes - Hypnotize, Fell In Love With a Girl
6.「rain -愛だけを信じて-」(2021) | The Beatles - Two Of Us, Coldplay - The Hardest Part
7.「It’s only lonely crazy days」(2023) | The Rolling Stones - It's Only Rock 'N' Roll (But I Like It), The Beatles - Taxman
8.「Hello. I love you」(2023) | Aerosmith - Pink, Red Hot Chili Peppers - Dani California

 

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (まえがき)

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999) 前編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999) 後編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 前編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 後編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 前編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 後編

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*1:こちらに関しては、『縦横無尽』のインタビューにおいて宮本が

アルバムの最後にできたのがこの曲ですね。私が最初に作った時はこういうリズムじゃなかったんですが、小林さんいわく、「モータウンをやっているイギー・ポップ」(「Lust For Life」)のイメージで、この形になりました。

と語るように、アレンジャー小林武史のアイデアが強かったようである。

宮本浩次が明かす、ソロ3作目で到達した境地——ニューアルバム『縦横無尽』に込めたものとは

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*2:宮本浩次が明かす、ソロ3作目で到達した境地——ニューアルバム『縦横無尽』に込めたものとは

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