三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

思考ノート

備忘録のようなもの

昆虫と民藝Ⅱ: 虫藝(昆虫が創りし工藝)

前回以下の記事で、民藝とイラガの繭の共通項について考えた。 www.miuranikki.com 柳宗悦は民藝とは、民衆が用いる工藝品を指し、日常生活と切り離せない必要不可欠なものであると定義した。また、その美しさというのは一切の無駄を排し「なくてならぬもの…

昆虫と民藝Ⅰ: イラガの繭と柳宗悦

ある冬の日。葉のすっかり落ちた満天星(ドウダン)の枝元に、小指の第一関節にも満たない大きさのものが、ちょこんと乗っかっているのを見つけた。イラガの繭だった。イラガと言えば、幼虫時代は黄緑色の鮮やかな色をしていて、体色と同じ色のスギの葉のよう…

花蕾と残雪の卒業式

中学校の卒業式当日。2年生の自分たちは先に体育館に入り、整然と並べられたパイプ椅子に腰かける。いつもは授業や部活動で使っている何の変哲もない窓は紅白幕で覆われ、演台には荘厳な盆栽が飾られている。来賓席と教員の席のテーブルの上からは白い布がか…

失敗しない居酒屋の選び方――Google マップの口コミを読む

はじめに インターネットの大衆化は、同時にそれを悪用してやろうとする輩の増加も意味する。これはある種当然の摂理とも言えるが、飲食店においては近年その流れが特に加速化してきているような印象がある。ここでいう悪用とは、自らの利益のためにレビュー…

平成学生回想録 スクールカースト編

2011年からタイムスリップしてきた、少年M。つい先日、中学校の卒業式を終えたという彼から、スクールカーストをテーマについて色々と語ってもらった。少年Mの供述は以下のようである—―。 スクールカーストですか。なんかすごく残酷な言葉ですよね。カースト…

金木犀の香り、デモの響き――日比谷公園にて

2023年10月某日、先日までの記録的な暑さはすっかり鳴りを潜めていた。この日は用あって、霞が関某所へ行くことになっていた。朝、通勤ラッシュにもまれながら日比谷駅に到着し、待ち合わせの時間まで日比谷公園でしばらく時間を潰す。朝からテニスをやって…

石焼き芋のおじさん

「いしやーきいも、おいもー。おいもー、おいもー、おいもー――」と、石焼き芋の口上の音声が外から聞こえてきたので、久しぶりに食べることにした。外に出ると、軽トラックが徐行しながらやってきた。手を上げるとトラックが停止し、石焼き芋のおじさんが降…

平成学生回想録 ラウンドワン編

ラウンドワン 秋田店が開業したのがいつだったかと調べてみると、とあるサイトの隅の隅に、2006年12月21日と書いてあった。オープン当初はCMが頻繁に放映されており、当時一世を風靡していたお笑い芸人の長州小力が出演していた。ラウンドワンができる前は、…

諏訪に行った日のこと 後編――諏訪大社と友人A

12時20分頃上諏訪駅に到着し、レンタルしていた電動自転車を返却する。この日は友人Aがちょうど地元の諏訪に帰省していたとのことだったので、午後から一緒に回ることになっていた。Aに電話をしてみると、駐車場からAが現れた。どうやらちょうど到着したのだ…

諏訪に行った日のこと 前編――映画『怪物』のロケ地を巡る

朝6時前、家を出る。外の気温は既に上がってきていた。海の日。長野の諏訪へと行く。特急あずさが発着する新宿駅には7時過ぎには到着した。スピッツが「Sandie」で"魔境"と形容した新宿駅のことだから、もっと迷うかのと思ったが、山手線からあずさの乗り場…

金木犀と郷愁(ノスタルジア)

朝、窓を開けると、金木犀の香りが部屋に送られてきた。外を眺めてみると、隣の家に鮮やかなオレンジ色の小さな花が一斉に咲き誇っているのが見えた。部屋に掃除機をかけて、洗濯物を干してから、昼食を食べに外に出る。その途中の道でも金木犀が香ってきた…

土浦全国花火競技大会 2022 備忘録

日本の花火大会は長岡、大曲、土浦がいわゆる"日本三大花火大会"と称される。中でも大曲と土浦は花火「競技」大会であり、全国津々浦々の花火師たちが自慢の花火を空に打ち上げていく。秋田出身の筆者は決まってこう聞かれる。「秋田の出身ということは、大…

寄席に行ったある冬の日のこと

仕事が早く終わったので、神田から浅草へ行くことにする。久しぶりに寄席でも観に行こうと思った。その前に、商店街にあるやげん堀で七味唐辛子を購入する。陳皮が多めに入ったものと、山椒を少なめにしたものの二つを注文した。仲見世通りの土産屋は、17時…

親知らず抜歯ノ記 右側編

前回の抜歯から約1か月。今回は右側の上下の歯を生贄に捧げる。仕事を早いところ切り上げ、歯医者へと向かう。歯医者は平日のためか、待ち時間はほとんどなかった。また、例の外科医が処置にあたった。度の強い丸眼鏡をかけ、髪をボサボサに伸ばしたステレオ…

親知らず抜歯ノ記 左側編

親知らずを抜いたから、9月6日は抜歯の日。何のひねりもない、却下だ。俵万智も鼻で笑っている。そもそも、親知らずという名前は何とかならないものだろうか。親知らずは、人生の長さがまだ50年だったころ、子どもが20歳を過ぎたあたりで生えてくる歯の存在…

皆既月食 回想録

2022年11月8日、18時を過ぎた頃の帰り道、この日は月がきれいだった。雲一つない空に満月がくっきりと見えた。月を眺めつつ電車に乗り、乗り換えのために地上に出たところで、多くの人が空を見上げていることに気が付いた。何かアドバルーンの類でも飛んでい…

秋田の男子高校生はコートを着ない

はい、確かに。コートは着ておりませんでした——。そのように供述するのは、高校卒業まで秋田で生まれ育った筆者である。この言説は、数年前『月曜から夜ふかし』という番組で「秋田県の男子高校生どんなに寒くてもコート着ない問題」という風にして取り上げ…

コロナ禍エレジー

某日の午後、友達から突然、電話がかかってきた。喉が痛く、熱もあり、今流行りの例のあのウイルスに感染してしまったかもしれないということであった。というわけで、注文があった品々を自宅の前まで"差し入れ"を届けることにした。近所の薬局に寄る。どの…

エナジードリンクのジレンマ

雨にも負けず、風にも負けず——。ある夏の朝、とある駅の出口を出るとエナジードリンクを配っている威勢の良い女性たちがいた。黒地に緑の三本の爪痕が荒々しく刻まれたロゴが印象的な、あの由緒正しきエナジードリンクである。ドリンクの缶のパッケージを模…

東京オリンピック 回想録

2020年に延期された東京オリンピックは、その1年後の2021年、無観客で開催された。その頃の音楽業界といえば、日本国外のアーティストは誰一人として来られないという鎖国状況であった。SUMMER SONICは中止、そしてFUJIROCK FESTIVALも日本国内のアーティス…

美しい国の末路、追記

www.miuranikki.com 2022年7月8日、元首相安倍晋三が突然この世から消えた。奈良県で応援演説中、銃に撃たれ倒れ、医師による懸命の蘇生措置も虚しく、意識が再び戻ることはなかった。襲撃事件の第一報は、正午過ぎに流れてきたニュース速報で知った。当初は…

美しい国の末路

2022年7月8日、今日は、忘れられない一日になりそうだ。正午過ぎ、信じられないニュースが目に飛び込んできた。安倍晋三元首相が撃たれた――。街頭演説中、背後から銃弾を2発受け、午後3時時点、心肺停止の状態になっているという。犯行に使用されたのは散弾…

節分で鬼になるナマハゲ

秋田の節分は、他の都道府県とは少し趣が違っているのかもしれない。というのもナマハゲがベースになっているのだ。ナマハゲといえば、「泣ぐ子(ご)はいねぇがぁ~」という一度はそのフレーズを耳にしたことがあるかもしれない。というかそのフレーズや荒々…

ネオ同窓会の提案

義務教育課程の、いわゆる小・中学校の人間関係というのは、それなりに仲良くすることができても、人生を共にするような友人というのは見つけにくいのではないだろうか。なぜならそれは、閉鎖的な地域の中で、偶発的に集められた人間によって形成された社会…

東京ディズニーシーの思ひ出

東京ディズニーシーに行く——。アキ・タケン(秋田県)という山に囲まれた辺境の地に身を置く当時小学生の筆者にとって、このことはとんでもないくらいの冒険であり、ユートピアを目指す夢への旅路であった。長い長い空と列車の旅の果てに、家族一同を迎え入れ…

人間のエゴについてーオーストラリアのカンガルーから

オーストラリアでは、カンガルーが増えているらしい。そうこうしている間にもどんどんと......。その数は約5000万頭だとか。オーストラリアの人口が約2500万人なので、人口密度よりも、"カンガルー密度"の方が高いという計算になる。なぜ、こうも増えてしま…

イメージについてーCMとピラミッドとお茶石鹸

世の中の、ありとあらゆるものにはイメージが付きまとう。 たとえばCM。ビールのCMに出ている俳優が、グイっとビールを飲みつつ、「これ、美味いねぇ。やっぱり◯◯(商品名)でしょ!」と言うものがあったとする。ビアガーデンか何かの屋外で、同僚がいて、乾杯…

ガーリックバターソースの魔力

ガーリックバターソースには、人類の夢が詰まっている。やや大袈裟になってしまったが、ガーリックとバターの組み合わせ、その文字列だけで強烈に味が想起される——。それと比べて、オーロラソースの体たらくはどうだ。ケチャップにマヨネーズ。本場の作り方…

米米騒動、クマの鼓動

あの子ったら一体、どこへ行ってしまったのかしら。おーい、おーい——。 はぐれ子グマを探す親グマの叫び声は、針葉樹が鬱蒼と生茂る森の中でこだましていた。その頃、束の間の家族旅行から帰る途中の車内には、米米CLUBが大音量で流れていた。聴いていたアル…

白昼一時のHEART STATION

今週の第1位は、宇多田ヒカル「HEART STATION」——。 曲紹介に被さりながら、イントロがカーステレオから流れてきた。携帯の着信音のようにシンプルな電子音に乗せられる、彼女の洗練された歌声は、不思議と近未来を予感させる。まもなく、午後の2時になろう…