三浦日記

音楽ライターの三浦智文が、日記のようにつらつらと書いていくブログ

ほぼ日刊三浦レコード

ディスクレビュー、ライブレポート、アーティスト論などなど、音楽全般のカテゴリー。

"死"に対する自覚の果てに見出した"生"―エレカシ全作レビューXV『扉』

派手さはないが、傑作——。 『俺の道』(2003)から『風』(2004)までのエレファントカシマシはある種、商業主義から完全に逸脱している。この時期はやはり、セルフ・プロデュースであるという点が大きいように思えるが、世間に向けて、分かりやすくパッケージン…

三浦的2019年ベスト・トラック25選―邦楽編

01. ONE OK ROCK - Head High 彼らは2019年に出したアルバムで、日本のロックシーンという括りから完全に抜け出した。そのためこれを、果たして邦楽として評価していいのかという疑問さえ浮かんでくる。その作品の中でもこの楽曲は特に、彼らの方向性を印象…

三浦的2019年ベスト・トラック25選―洋楽編

01. Billie Eilish - bad guy 2019年、1番聴いたと思う。新たなポップスターの誕生を決定づける曲。ミニマルなサウンドに際立った低音や、リリックからは1990年代のインダストリアルの香りが漂ってくる。ウィスパー・ボイスとのアンバランスさによって、何と…

「地元の朝」の帰省、その到着までの描写について―エレ歌詞論考Ⅲ

エレファントカシマシの歌詞に、フォーカスを当てていく企画。今回は、2004年リリースの『扉』に収録されている「地元の朝」について。以下に載せたのは、その冒頭部分の歌詞である。まずは、こちらを読んでみていただきたい。 ある日 目覚めて電車を乗りつ…

現代版、百鬼夜行―椎名林檎『三毒史』レビュー

デビュー20年の節目となる年にリリースされた『三毒史』は、椎名林檎のこれまでのキャリアの総括、という意味合いだけではなく、もはや日本の音楽史の一つの総括である。収録されている13曲中6曲は、ゲストボーカルを据えたもの。中でも、1990年代から第一線…

三浦的2019年ベスト・アルバム5選―邦楽編

1. ONE OK ROCK - Eyes of the Storm ONE OK ROCKは今作で、"日本の"ロック・バンド、という括りを無くすことに成功した。確かに彼らは、日本で生まれ、日本語を母語としている。だがその表現は、サウンドや、歌い方、さらにはリリックの入れ方に至るまで、…

三浦的2019年ベスト・アルバム5選―洋楽編

1. Billie Eilish - WHERE DO WE GO WHEN WE WERE SLEEP? 本作はベース、ドラム・ビート、そしてボーカルという音数の少ないシンプルな構成の中にも、「bad guy」が象徴しているように、低音が強調された楽曲が並ぶ。リリックもダークで破滅的。そんな、1990…

その歌声が最大限に生かされた作品―柴田聡子『愛の休日』レビュー

柴田聡子の歌声にはつかみどころがない。メロディーによって敷かれた"音程の道"を、正確に歩むのではなく、道草を食いながら、あっちこっち往来をする——。通算4枚目となった『愛の休日』(2017)では、そんな彼女の歌声の特徴が、見事"旨味"となって引き出され…

「so many people」の情景描写について―エレ歌詞論考Ⅱ

高速道路 朝日を浴びて ダイナミックな町は 引用したのは、エレファントカシマシ「so many people」のサビの一節。他のサビでは〈ソーメニーピープル〉から始まっている中、ここだけは〈高速道路〉から始まり、楽曲で唯一といってもいい情景描写へと続いてい…

共感ではなく、没入―エレカシ全作レビューXIV『俺の道』

エレファントカシマシ、14枚目のアルバム『俺の道』。そのタイトルが示しているように、今作では歌い手、宮本浩次自身に向けられたようなメッセージが並べられている。一人称視点、オレという言葉は、これでもかというほどに吐き出され、作品の骨組みのよう…

宮本浩次によるThe Beatlesのカバー「If I Fell」について

日本のメロコア・パンクの金字塔とも言えるHi-STANDARDのKen Yokoyamaとタッグを組み、耳目を集めたシングル『Do you remember?』。表題曲のインパクトに押されがちになってしまったが、そのカップリングはなんと、The Beatlesのカバー「If I Fell」。こちら…

THE ELEPHANT KASHIMASHI live BEST BOUT 2019―今年ライブで印象的だった楽曲 (後編)

今年のエレカシのライブで印象的だった楽曲を振り返る企画。後編は、〈新春ライブ2019 日本武道館〉の個人的ベスト・バウトです。前編では、日比谷野音について書いております。こちらの方もぜひ。 www.miuranikki.com 1.「珍奇男」 この楽曲はライブでは、…

THE ELEPHANT KASHIMASHI live BEST BOUT 2019―今年ライブで印象的だった楽曲 (前編)

2019年、エレファントカシマシが行った単独ライブは、1月の〈新春ライブ2019日本武道館〉と、7月の日比谷野外大音楽堂でのライブのみ。こんな年もなかなか珍しいと思うが、数が少ない分、密度のほうは例年以上に高かったように思えた。そんな今年の彼らのラ…

「ラスト・ゲーム」に登場する文豪"永井荷風"について―エレ歌詞論考Ⅰ

キリスト偉い孔子も偉い 俺はいったいなんだ?言い訳じゃなく誤魔化しでもないラスト・ゲーム 勝負したいよつべこべ言うな! いわば毎日がラスト・ゲーム 勝負しなよ俺は歌手ならば歌えよラスト・ゲーム 勝負しなよ そう俺は芸術家 昔の永井荷風のように日々を…

23のオレには、まだ分からない—エレカシ全作レビュー XIII『DEAD OR ALIVE』(Naked)

30という年齢。それは20代と比べ、体の衰えや死に向かっていくのがより自覚的になる時期であることは、漫然とではあるが理解できる。ただやはり、身体性をもって(実際にその年齢になって)感じることはできない以上、その指針となるような存在が必要であるよ…

2019年のソロ活動に直結する伏線作―エレカシ全作レビュー XIII『DEAD OR ALIVE』

2002年にリリースされた『DEAD OR ALIVE』は2019年になって、当時とはかなり違った聴き方ができる作品だと言えるだろう。それは本作が、前作「good morning」から続く宮本浩次のソロ作品的な流れであったことと関係する("バンド・サウンド回帰作"とされてい…

後輩に宛てた文を、ブログへ―Oasisについての雑な解説

後輩から、Oasisについて教えてほしいという連絡がきた。そこで、高校時代に、Oasis関連の雑誌を読み漁っていた頃の記憶を引っ張り出して自分なりに書いてみた。解説というほどではないが、かなり噛み砕いて書いているので、だいぶわかりやすくはなっている…

後輩に宛てた文を、ブログへ―The Beatlesについての雑な解説

先日、大学の後輩から、映画『イエスタディ』を観ました!という連絡がきた。そしてメッセージは、"自分は洋楽に疎いのでThe Beatlesについて、教えてほしい、あとOasisも聴いてます!"と続く。いやいや、そんな。そんな自分はThe Beatlesを語れるほどは… と…

今の社会が生み出して"しまった"、ダンス・ミュージック―Green Day「Father Of All...」和訳&レビュー

[Verse 1] I woke up to a message of loveChoking up on the smoke from aboveI’m obsessed with the poison and usWhat a mess? 'Cause there’s no one to trust 俺は愛のメッセージに気がついた上の方で燻ってる煙で息がつまる毒と俺ら自身に憑りつかれて…

日常の呟き―エレカシ全作レビュ―Ⅻ『ライフ』

緊張と緩和は、エレファントカシマシのキャリアにおいて度々繰り返される一つのサイクルであるといえるだろう。2ndの『THE ELEPHANT KASHIMASHI Ⅱ』のあとに見せた、『浮世の夢』でのクラシック・ロックが内包されたポップ・サウンドアルバム。そして今回は…

東京インダストリアル―エレカシ全作レビューⅪ『good morning』

"エレファントカシマシ11枚目となった『good morning』はインダストリアルである"。これはもはや、この作品を語るうえで欠かせない、常套句のような言葉である。 インダストリアル(industrial)という言葉は一般的に、"工業"のという原義的な意味であるが、音…

土着性のない、シンガポールの音楽の可能性

シンガポールのロック/ポップのシーンは個性的だ。というのも、欧米人が思い浮かべるオリエンタルな"アジアっぽさ"のようなものが、楽曲から全くといっていいほど感じられないからだ。近隣諸国と繋がるというよりは、アジアを飛び越えいきなり欧米に行ってい…

夢想的で甘美なラブソング集―エレカシ全作レビューⅩ『愛と夢』

かの三島由紀夫の遺した短編、『白鳥』にはこう書かれている。 恋人同士といふものはいつでも栗毛の馬の存在を忘れてしまうものなのである。 登場する高原という寡黙な男と邦子という女性は乗馬クラブにて、一頭の白馬をきっかけに知り合う。互いに白馬を譲…

その喉、エフェクターあり―宮本浩次「Do you remember?」レビュー

宮本浩次の歌声はもはや楽器だ―。 Hi-STANDARDのギタリストKen Yokoyamaとのコラボレーション作品となった今作。メロコア・パンクな2ビートやギターやベースの刻み方は、まさにHi-STANDARDそのもの。それは、宮本が昨年、エレファントカシマシとしてリリース…

"シーンに対する迎合"によって露わになった新たな一面―エレカシ全作レビューⅨ『明日に向かって走れ-月夜の歌-』

エレファントカシマシ9作目となった『明日に向かって走れ-月夜の歌-』は、彼らのキャリアの中で最大のセールスを記録した。本作がリリースされた1997年といえば、CDの売り上げは最盛期を迎え、テレビ番組は軒並み高視聴率を連発していた時期である。特に、テ…

いつの時代にも寄り添い続けるスタンダード―エレカシ全作レビューⅧ『ココロに花を』

1994年、エピックとの契約が切れたのち、ポニー・キャニオンから再出発を果たした8枚目『ココロに花を』。彼らと同時代のUSのグランジやパンク、あるいはUKのオルタナティブ・ロックが内包されたこれまでの作品から大きく舵を切り、エレファントカシマシは遂…

東京のサウンドスケープ―エレカシ全作レビューⅦ『東京の空』

一本の映画を観たような感覚だった―。 エレファントカシマシ7作目となった『東京の空』で描かれるのは東京の空の下、繰り広げられる人間模様。一人称視点の情景はリリース当時の1990年代、あるいは現在にまで通じている。電車の窓から見えるのは密集した住宅…

日本で進化を遂げたパンクの到達点―エレカシ全作レビューⅥ『奴隷天国』

"自己"と"世間"とのあり方は、デビュー作『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988)から6枚目となった『奴隷天国』(1993)に至るまで、エレファントカシマシの作品を貫く大きなテーマであったように思える。殊に、4枚目の『生活』(1990)以降には、自己と世間との間に…

和洋クラシックの融合―エレカシ全作レビューⅤ『エレファントカシマシ5』

まるで焼畑農耕で全てを焼き尽くした後に、新たな生命が再び芽吹いてきたような作品だ―。前作『生活』でみせた破滅的な情感の爆発。それから1年7か月というスパンを経て出来上がったのは、力の抜けたなんとも明快でわかりやすい作品だった。また、"メッセー…

島国ニッポン発のグランジ―エレカシ全作レビューⅣ『生活』

これほどまでに聴いていて辛いアルバムは、世界的に見ても中々ないのではないだろうか。再生ボタンを押した瞬間、歪み切ったギターの音とボーカルの叫ぶ声が、ひたすら強調された凄まじい音の塊になって襲い掛かってくる。リード・ギターの音はほとんとどい…