三浦日記

音楽ライターの日記のやうなもの

ほぼ日刊三浦レコード

ディスクレビュー、ライブレポート、アーティスト論などなど、音楽全般のカテゴリー。

佳作になった傑作(マスターピース)——エレカシ全作レビューXXI『MASTERPIECE』

聴くに堪えないほどの苦痛――。かつて、24歳だった宮本浩次が『生活』でみせた、粗削りな音と、パッションに満ちた青い叫びからくる苦痛とは明らかに違うものがそこにはあった。2012年、世に出された『MASTERPIECE』の苦痛は、人生の折り返し地点を過ぎた衰え…

空気の振動が、宇宙になる瞬間(とき)——エレカシ全作レビューXX『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』

この作品に存在しているのはいわゆるバンドサウンドという、いくつかの楽器の組み合わせよってもたらされる音の快楽だけではない。たとえそこに、歌詞という意味付けがあったとしても(日本語を母語とする者なら尚更)、それが音と作用し合うことによって生じ…

三浦的2020年ベスト・アルバム5選——洋楽編

まったく... 何考えてんだか。2021年のGWも過ぎたってのに、今頃2020年の振り返りをしてるのはどこのどいつだ? ...まあ、10年経ってもこのページが残っていて、10年後に誰かが読んでいたら、そんなこと誰も気にしないだろう。長いスパンで考えれば、何事もそ…

三浦的2020年ベスト・アルバム5選——洋楽編 (まえがき)

日本人の筆者からしてみれば、2020年に日本以外の音楽、いわゆる洋楽に実感を伴いながら触れることができる機会というのは皆無であった。もちろん、視聴機器を通じて洋楽に触れることはできたのだが、それはあくまでもデータの集合体の表現の話に過ぎない。…

三浦的2020年ベスト・アルバム5選——邦楽編

今回のベスト・アルバムを選ぶ際に、大きく決めたテーマは2つある。一つは"ライブと分断された作品"を選ぶということだ。もっとかみ砕いていえば、ライブで演奏されることが前提になっていない作品を選定するということ。ライブやフェスという半ば当たり前に…

三浦的2020年ベスト・アルバム5選——邦楽編 (まえがき)

2020年は、あらゆるものの構造が変化した一年であった。日本の音楽業界もまた、その変化を余儀なくされたものの一つである——。 日本の音楽業界と言われるシステムの成り立ちを簡単に振り返ってみると、日本において、音楽というものが商業的なモノとして成り…

東京の人間を"演じる"——エレカシ全作レビューXIX『昇れる太陽』

エレファントカシマシと東京——この関係性は切っても切り離せないものであり、彼らの作品の中には常に東京というものが内在していた。それは何よりも、作詞・作曲の大半を行う宮本浩次が東京都北区出身であるというバックグラウンドが大きく起因しているだろ…

後世に残るクラシック——宮本浩次『ROMANCE』レビュー

原初的な音楽体験に限りなく近い感動——。 近代以降、特に20世紀初頭の音楽というのは、一回性のものであった。民衆は会場に集まり、同じ空間を共有しながら、その時限りの音に耳を傾ける。それがたとえ、以前に演奏された楽曲と同じであっても、無論、演奏に…

さあ、再出発だ——エレカシ全作レビューXVIII『STARTING OVER』

一曲目の「今はここはが真ん中さ!」の一音目、そして歌い出しの一節目から強い決意として感じられた、"STARTING OVER"、いうならば、"一からの再出発"という言葉。堅い合金のような冷たさを持ったサウンドは、磨き抜かれた金属光沢を放っていて、鋭利に尖っ…

「歴史」は敗北の産物である (後編)—エレ歌詞論考VI

前回は、「歴史」の歌詞の内容的な部分に触れた。抽象性と具体性の天秤が"森鴎外の人生"をテーマに据えたことで具体性の方に傾き、その視点は三人称で貫かれたことで俯瞰的なものになっていた。彼らの共感性が抽象と具体とのバランス感覚の良さと、私小説的…

「歴史」は敗北の産物である (前編)—エレ歌詞論考VI

エレファントカシマシの「歴史」は、2004年にリリースされた『扉』に収録されている。ドキュメンタリー映像の『扉の向こう』では、その制作風景が収録されているが、この曲の"歌入れ"はレコーディングの最後の最後まで残ったということで、歌詞に関して相当…

「友達がいるのさ」の冒頭部分の描写について—エレ歌詞論考V

東京中の電気を消して夜空を見上げてえな エレファントカシマシの『風』(2004)に収録されている「友達がいるのさ」。この楽曲は、なんといっても先に載せた冒頭部分が強烈な印象を放っている。聴くものを一瞬にして惹き込んでいく魔力を持ったようなフレーズ…

「シグナル」の"町を見下ろす丘"について—エレ歌詞論考IV

エレファントカシマシの「シグナル」は、2006年リリースの『町を見下ろす丘』に収録されている。この楽曲は、表題と同じ〈町を見下ろす丘〉というフレーズが登場する。非常に端的で、印象に残るフレーズである。そして何より、具体的な場所の名前は一切登場…

"自由気まま"な奥田民生の歌が"牙を剥く"とき

奥田民生の父、幹二氏はかつて共産党議員であった。"蛙の子は蛙"ということわざの逆には、"鳶が鷹を生む"ということわざがある。奥田民生は、そのどちらか。息子民生は、小学校6年生から上京するまで『赤旗』日曜版を配達していたという。また、父が街頭演説…

地方出身者の東京、幻想ーサカナクション「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」より

心地のよいダンスビートはBPM120、AM1時の恵比寿リキッドルームで——。 この曲を一聴すると、東京というアイコンが持つ、整然としていて無機質なイメージが想起されてきた。ただしそれは、東京の表層部分、もっといえばライブハウスの中での話に過ぎない。一…

軽やかさ、いまだ健在——Green Day『Father Of All...』レビュー

3年ぶりにGreen Dayの新作がリリースされた。2000年代、特に2004年、ジョージ・W・ブッシュ政権を痛烈に批判した『American Idiot』、そして、アメリカ社会を痛烈に皮肉った、2009年リリースの『21st Century Breakdown』以降の彼らは、自身の生み出した政治…

青年の老年期——エレカシ全作レビューXVII『町を見下ろす丘』

"四〇歳は青年の老年期であり、五〇歳は老年の青年期である" 詩人であり『レ・ミゼラブル』などの著書で知られる、ヴィクトル・ユーゴーはこんな言葉を遺している。40代と50代を大きな境目に前者を青年の終わり、つまり老年期に。そして後者を老年の始まり、…

その歌声、狂暴につき——宮本浩次『宮本、独歩。』レビュー

宮本浩次のデビューアルバム、その名も『宮本、独歩。』。タイトルに固有名詞が使われるのは、バンドのデビュー当時の作品を彷彿させる(『THE ELEPHANT KASHIMASHI 』、『エレファントカシマシ5』など)。無論、今回はバンド名ではなく自分の名前。ここで、あ…

52分の白日夢——エレカシ全作レビューXVI『風』

はくじつむ【白日夢】[daydream]白昼夢ともいう。夢に似た意識状態が覚醒時に現れるもの。内容は概して願望充足的である。また,単なる空想より現実性を帯びている。 『ブリタニカ百科事典』より エレファントカシマシ、16作目となる『風』。2004年リリー…

宮本浩次、「Do you remember?」について語る

『アーティスト・プロデュース・スーパー・エディション』 、2月の担当は宮本浩次プロデュース。エレファントカシマシのフロントマンであり、昨年ソロデビューを果たした宮本。2週目も引き続き、3月4日リリース予定の新作『宮本、独歩。』について語っていま…

宮本浩次、Instagramについて語る

『アーティスト・プロデュース・スーパー・エディション』 、2月の担当は宮本浩次プロデュース。エレファントカシマシのフロントマンであり、昨年ソロデビューを果たした宮本。2週目も引き続き、3月4日リリース予定の新作『宮本、独歩。』について語っていま…

米米騒動、クマの鼓動

あの子ったら一体、どこへ行ってしまったのかしら。おーい、おーい——。 はぐれ子グマを探す親グマの叫び声は、針葉樹が鬱蒼と生茂る森の中でこだましていた。その頃、束の間の家族旅行から帰る途中の車内には、米米CLUBが大音量で流れていた。聴いていたアル…

白昼一時のHEART STATION

今週の第1位は、宇多田ヒカル「HEART STATION」——。 曲紹介に被さりながら、イントロがカーステレオから流れてきた。携帯の着信音のようにシンプルな電子音に乗せられる、彼女の洗練された歌声は、不思議と近未来を予感させる。まもなく、午後の2時になろう…

宮本浩次、『ガイアの夜明け』の主題歌について語る

『アーティスト・プロデュース・スーパー・エディション』 、2月の担当は宮本浩次プロデュース。エレファントカシマシのフロントマンであり、昨年ソロデビューを果たした宮本。1週目は、3月4日リリース予定の新作『宮本、独歩。』について語っていました。そ…

宮本浩次、「冬の花」について語る

『アーティスト・プロデュース・スーパー・エディション』 、2月の担当は宮本浩次プロデュース。エレファントカシマシのフロントマンであり、昨年ソロデビューを果たした宮本。1週目は、3月4日リリース予定の新作『宮本、独歩。』について語っていました。そ…

宮本浩次、東京スカパラダイスオーケストラとの制作エピソードを語る

『アーティスト・プロデュース・スーパー・エディション』 、2月の担当は宮本浩次プロデュース。エレファントカシマシのフロントマンであり、昨年ソロデビューを果たした宮本。1週目は、3月4日リリース予定の新作『宮本、独歩。』について語っていました。そ…

宮本浩次、「獣ゆく細道」について語る

『アーティスト・プロデュース・スーパー・エディション』 、2月の担当は宮本浩次プロデュース。エレファントカシマシのフロントマンであり、昨年ソロデビューを果たした宮本。1週目は、3月4日リリース予定の新作『宮本、独歩。』について語っていました。そ…

"死"に対する自覚の果てに見出した"生"——エレカシ全作レビューXV『扉』

派手さはないが、傑作——。 『俺の道』(2003)から『風』(2004)までのエレファントカシマシはある種、商業主義から完全に逸脱している。この時期はやはり、セルフ・プロデュースであるという点が大きいように思えるが、世間に向けて、分かりやすくパッケージン…

三浦的2019年ベスト・トラック25選―邦楽編

01. ONE OK ROCK - Head High 彼らは2019年に出したアルバムで、日本のロックシーンという括りから完全に抜け出した。そのためこれを、果たして邦楽として評価していいのかという疑問さえ浮かんでくる。その作品の中でもこの楽曲は特に、彼らの方向性を印象…

三浦的2019年ベスト・トラック25選―洋楽編

01. Billie Eilish - bad guy 2019年、1番聴いたと思う。新たなポップスターの誕生を決定づける曲。ミニマルなサウンドに際立った低音や、リリックからは1990年代のインダストリアルの香りが漂ってくる。ウィスパー・ボイスとのアンバランスさによって、何と…