三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

THE 1975、ヤバすぎ!Vol. 3――AT THEIR VERY BEST JAPAN 2023 東京ガーデンシアター公演 ライブレポート

仕事を急いで終え、The 1975のライブに行く。もともと関東での公演はぴあアリーナ横浜の2日間の公演がアナウンスされていたのだが、筆者はチケットの応募をすっかり失念していた。悔しさにうなだれていると、突然追加公演のアナウンスが舞い込み、応募する運びとなった。国際展示場駅に着いたはいいものの、そこから会場の東京ガーデンシアターまでの経路が分からない。すると間もなく、The 1975のライブを観に行くであろう出で立ちをした若者が現れたので、その後をついていく。賭けである—―。予想は見事当たり、しばらく歩いていると無事会場に到着した。自分の座席は上手後方の3階バルコニー席。会場内での見え方でいえば1階席に相当する場所であった。場内は月曜日にもかかわらず、ほぼ満席になっていた。追加公演とはいえ、最終日でもなく初日ということでどのようなライブをするのか全く分からない状態で観ることになった。

 

開演時間になると、場内はまるで映画のようにゆっくりと暗転していく。上手下手それぞれのスピーカー横にある縦に細長いスクリーンと、ステージの背景を彩るスクリーンに、会場裏でお猪口を手にしているマシューの姿が映し出される。"Atpoaim"という文字がスクリーンに大きく映し出されると、舞台袖からフロントマンのマシューが登場してくる。"Atpoaim"、これは"A Theatrical Performance Of An Intimate Moment (親密な瞬間の劇場的なパフォーマンス)"の頭文字を取ったものである。まずは「Oh Caroline」の弾き語りから始まり、続く「Be My Mistake」の中盤から他のメンバーが現れ、バンドサウンドが構築されていく。真っ白なステージに、絨毯、テーブル、肘掛け付きのイス、間接照明、それから観葉植物が置かれ、リビングルームのようなセットが用意される。マシューは時折それに座りながら、また時にはモニタースピーカーの上に乗っかって観客の方に近づきながら、実に様々な表情を見せていく。相変わらず、どんな動きをしても様になってしまうのがなんとも憎い。

 

セットリストは『Notes on a Conditional Form』と最新作『Being Funny in a Foreign Language』の楽曲が半分、もう半分がそれ以前の頃の楽曲であった。いちばん聴きたかった「Looking For Somebody (To Love)」は開始早々に披露され、個人的なボルテージが一気に上昇する。「Me & You Together Song」は、昨年のSUMMER SONIC 2022で披露された時は、音響トラブルがあり消化不良だったが、今回はトラブルもなく"完全版"を聴くことが叶った。これまで彼らのことは、SUMMER SONICのMARINE STAGE、つまりは野外でしか観たことがなかった。野外の時も、あたかも室内にいるような感覚に陥るほど良い音であったが、やはりホールだと音が天井から抜けないお陰か、音像がさらに明瞭に聴こえてきて驚いた。マシューは曲の合間にお猪口で日本酒を飲みながら演奏していたが、その歌声に一切ブレがなく、特にミドルテンポのバラード曲「About You」、「Robbers」はスタジオ音源と全く違わぬほど正確なピッチであった。

 

「Chocolate」では、そのイントロの部分がエレキギターで細切れに演奏されると、会場がサビの部分を合唱し始めるというインタラクティブな一幕があった。この日は観客との距離感もより近いものを感じた。終盤「Sex」を演奏中、前方で具合が悪くなった人を発見したのか、マシューが演奏を止めるという一幕があった。会場はざわつくが次の瞬間、スタンディングの最前にいた男性が
「まってぃ、わっつはぷん?まってぃ、わっつはっぷん?」
とひらがなで起こしたかのような英語で問いかけた。会場は瞬く間に弛緩し、マシューはそれもそれが可笑しかったのか、ジョーカーのように狂気的に笑った。本物の、狂気的な笑い方というのはこういうことなのかと思った。この日のMVPは間違いなく、声をかけた彼であった。後にそれが、芸能関係者だと知るが、そういうものも含めて奇跡的な瞬間だったと思う。マシューは最後に照明の灯りを消して、名残惜しげもなさそうに帰っていくのだった。

 

The 1975は来日直前に出演した現地のポッドキャストでの日本に対する発言で物議を醸しており、多くの観客はそのことについて思いを巡らせただろう。失望した、もやもやとした気分でライブを見ざるを得なくなってしまった――。ただ筆者としては、もはや彼らに関しては、やることなすことすべてがパフォーマンスだと思うことにしている。彼は第4の壁を破っているように見せているだけで、決してそこから飛び出るような真似はしない。開演時と終演時に"Atpoaim"の文字が映し出されたように、彼らはどこまでも"劇場的"な存在なのである。以前、The 1975について"インターネットがもたらした虚無から出現したバンド"と形容したことがあったが、それに当てはめると、例えばそういう発言は5ちゃんねるのような匿名性の高い雑多な掲示板のようにも見えてくるし、あの発言に関しても、別に驚きはなかった。そして、それが彼らの面白いところだとも思っている。今、何かの発言をするたびにニュースになって話題になるいわゆるロックバンドのフロントマンというのは何人いるだろうか――。これからも世界を引っかき、物議を醸し続けてほしいものである。

 

www.miuranikki.com

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