三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

THE 1975、ヤバすぎ!Vol. 2——SUMMER SONIC 2022に行ってきた その5

ザ・クロマニヨンズが終わり、急ぎ足でマリンスタジアムに向かう。ちょうどシャトルバスが来ていたので、それに乗りこみ少しでも体力を温存する。バスに乗っている人からは疲れの表情がうかがえる。バスを降りると、外はもう暗くなっていた。ライトスタンド側の方の入り口へと向かう。MARINE STAGEは入場規制がされており、まだ演奏していたKing Gnuの演奏は会場の外、列に並びながら聴いた。聴いたというよりも聴こえてきたという感じだ――。彼らを選択しなくて正解だった。ザ・クロマニヨンズのライブは久しぶりに心から楽しいと思えるライブだったが、King Gnuの場合はきっとそうはならなかったような気がする。終演後、メンバーの1人のMåneskinに対する言動が物議を醸しているのを知って、それが確信に変わった。ザ・クロマニヨンズで上がったボルテージのままTHE 1975を観ることができたのは、ある意味最高の流れであったといえる。

 

King Gnuが終わり、20分ほどしたところで、場内に入ることが許された。3年ぶりのマリンスタジアムのグラウンドである。一枚隔てるとそこには芝生が隠れている。あ、この辺りで佐々木朗希が完全試合を…… などという余裕はなかった。スタジアムの外で待っている途中から雨が強くなってきたので、東京ヤクルトスワローズ山田哲人のタオルを頭に置いた。なぜ――ここは、野球場である。聖地に足踏み入れたことに対するせめてもの償いを"山田哲人"の4文字に込めることにしたのだ。なぜ、千葉ロッテマリーンズの選手ではないか――筆者は生粋のスワローズファンなのであった。雨が強まってきたせいなのか、アリーナ席は思いのほか人がおらず、Audio TechnicaのPAブースの前の方で観ることができた。これは前回の時よりもかなり幾分良い席である。足元は水たまりになっているが、そこまで気にならなかった。雨は強くなったり弱くなったりを繰り返している。雨が降っているせいなのか、海の匂いが濃く感じられた。

 

予定時刻を少し過ぎた19時40分頃、場内が暗転する。ついに、THE 1975の出番がスタート。スモークが焚かれ真っ白なステージにメンバーたちのシルエットと現れる。ボーカルのマッティは1本目のタバコに火を着けた。サックスのソロのフレーズがしばらく続いて演奏されたのは、「If You’re Too Shy (Let Me Know)」。バンドサウンドになった瞬間、照明が明るくなり、ようやくその姿が見えた。彼らは全身スーツ姿である。こ、これは…… あまりにキマりすぎているではないか。思わず「かっこいい……」という心の声がそのまま口から出てきてしまった。ボーカルのマッティは真っ黒なサングラスにオールバックのヘアースタイルであり、これもまた非常にオシャレである。前回は、スクリーンに趣向を凝らしていたが、今回はモノクロでメンバーの姿が映し出されるという非常にシンプルなものであった。白黒のスーツ姿がより際立って見えた。

 

「Love Me」、「Chocolate」が続き、音に反応して体が勝手に動いてくる。「ダンスしようぜ!」といった煽り文句をアーティスト側からされて、本当に踊りたい衝動にかられたのは、彼らとブルーノ・マーズだけである。マッティの動きがとにかく良い。ダンスというよりも、本能的に音に乗っているようなそういう動きであった。PAブースの真ん前にいたためか音はかなりクリアに聴こえてきた。開放的なスタジアムなはずなのに、箱の中にいるかような感覚があった。彼らの音にひたすら溺れていく。四方八方全てから包み込まれ、体を揺り動かしてくる。マッティは随所でタバコを吸い、時おり水筒に入れたおそらく日本酒をお猪口に入れて水分補給をするという自由なスタイルでパフォーマンスを続ける。3年前は、白鶴の一升瓶をラッパ飲みをし、ポカリスエットをチェイサーに用いていたが、今回は日本酒の作法(?)をしっかりと踏襲しているようだった。

 

「ごめん、タバコ吸わせてもらいます。君たちは吸えないけど、それがルールなんだ。それが人生。人生は辛い、人生はクソだ。オレたちさぁ、すごく緊張してるけど、みんな、すごく優しくて…… うん、すごく優しい…… ありがとう。カンパイ!」というMC(意訳あり)が、彼らしさ全開でとてもよかった。酔いが回ってきたのかライブ終盤は、ラフになっていきながらも、歌や演奏はブレるどころか、力強さを増していくのが印象的であった。まるで酔拳のようである。1曲終わるごとに、深い息を吐き、また、深く吸い込む。「Love It If We Made It」の演奏中、自分が音楽と完全に一体になったような感覚になった。身体中は汗と雨とでびしょ濡れになっているのに、不快感はまったくない。むしろすべてのものが気持ちよかった。風、雨、音、光――。音楽という快楽を受け止める行為だけにひたすら集中し続ける。周りのことなんかはどうでもいい。明日のことさえもどうでもいい――。

 

「Sex」のアウトロのハウリングの残響が流れる中、「Give Yourself a Try」でライブは終演。突然、数十発の花火がスタジアムに打ち上がり、余韻もへったくれもなしにスタジアムMCが現れ、SUMMER SONIC 2022 1日目の終わりが告げられる。その瞬間、体がフラフラになった。ライブの後に全身の力が抜けた経験は初めてかもしれない。スタジアムMCが何やらいろいろと話しているが、全く耳に入ってこない。正直もう何もしたくなかった。THE 1975の演奏に圧倒されてしまった自分は、ひたすらボーっとなっていた。海浜幕張駅までの道、もぬけの殻状態で歩く。雨は、小康状態になっていた。帰りに寄った吉野家の中でもボーっとしていた。注文した唐揚げの衣で激しく舌を切る。血の味のする口内、水を飲むたびに舌がヒリヒリする。足も痛いし、無音状態になると耳もキーンとしている。頭を揺らしすぎたせいか首も痛い。それでも、それでも――なんと心地よい疲れなのだろうか。そして思った、音楽は素晴らしい、と――。早くも来年のことが待ち遠しくなってしまうのだった。

 

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