2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧
かの三島由紀夫の遺した短編、『白鳥』にはこう書かれている。 恋人同士といふものはいつでも栗毛の馬の存在を忘れてしまうものなのである。 登場する高原という寡黙な男と邦子という女性は乗馬クラブにて、一頭の白馬をきっかけに知り合う。互いに白馬を譲…
宮本浩次の歌声はもはや楽器だ――。 Hi-STANDARDのギタリストKen Yokoyamaとのコラボレーション作品となった今作。メロコア・パンクな2ビートやギターやベースの刻み方は、まさにHi-STANDARDそのもの。それは、宮本が昨年、エレファントカシマシとしてリリー…
エレファントカシマシ9作目となった『明日に向かって走れ-月夜の歌-』は、彼らのキャリアの中で最大のセールスを記録した。本作がリリースされた1997年といえば、CDの売り上げは最盛期を迎え、テレビ番組は軒並み高視聴率を連発していた時期である。特に、テ…
1994年、エピックとの契約が切れたのち、ポニー・キャニオンから再出発を果たした8枚目『ココロに花を』。彼らと同時代のUSのグランジやパンク、あるいはUKのオルタナティブ・ロックが内包されたこれまでの作品から大きく舵を切り、エレファントカシマシは遂…
一本の映画を観たような感覚だった——。 エレファントカシマシ7作目となった『東京の空』で描かれるのは東京の空の下、繰り広げられる人間模様。一人称視点の情景はリリース当時の1990年代、あるいは現在にまで通じている。電車の窓から見えるのは密集した住…
"自己"と"世間"とのあり方は、デビュー作『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988)から6枚目となった『奴隷天国』(1993)に至るまで、エレファントカシマシの作品を貫く大きなテーマであったように思える。殊に、4枚目の『生活』(1990)以降には、自己と世間との間に…
まるで焼畑農耕で全てを焼き尽くした後に、新たな生命が再び芽吹いてきたような作品だ―。前作『生活』でみせた破滅的な情感の爆発。それから1年7か月というスパンを経て出来上がったのは、力の抜けたなんとも明快でわかりやすい作品だった。また、"メッセー…
これほどまでに聴いていて辛いアルバムは、世界的に見ても中々ないのではないだろうか。再生ボタンを押した瞬間、歪み切ったギターの音とボーカルの叫ぶ声が、ひたすら強調された凄まじい音の塊になって襲い掛かってくる。リード・ギターの音はほとんとどい…
エレファントカシマシの初期の作品はパンクである——。一般的にはそのように形容されることが多いように思えるが、1989年リリースの彼らの3rdアルバム『浮世の夢』は、世間というものに対してメッセージをぶつけるような"パンク・アルバム"ではない。ひとまず…
2作目というのは、ある種アーティストにとって一つの関門である。1作目の成功が仇となりそのまま没落していくか、Nirvanaのように『Nevermind』で爆発的なグランジ・ムーブメントを巻き起こすか。あるいはOasisの『Morining Glory (What's The Story?)』のよ…
時間がたっても古臭くならない――そんな作品があるとしたら真っ先にエレファントカシマシのファーストアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』を挙げるだろう。1988年、平成末期"バブル景気"真っただ中の日本で産み落とされた本作。ただ、好景気に浮足立ったよう…