三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

その喉、エフェクターあり―宮本浩次「Do you remember?」レビュー

宮本浩次の歌声はもはや楽器だ――。

 

Hi-STANDARDのギタリストKen Yokoyamaとのコラボレーション作品となった今作。メロコア・パンクな2ビートやギターやベースの刻み方は、まさにHi-STANDARDそのもの。それは、宮本が昨年、エレファントカシマシとしてリリースした「Easy Go」のように一旦バンドで咀嚼されたものではなく、"シーン"や"ルーツ"などこれまでの自身のキャリアで培われた要素が一切合切無視された、飛び級的な"メロコア"なのである。 

 

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Hi-STANDARD - Stay Gold

 

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 エレファントカシマシ - Easy Go

 

そんなサウンドに対する宮本のボーカルのアプローチは、実にバリエーション豊富であった。冒頭の節、クリーントーンのギターに乗せて清水のように澄んだ歌声を響かせたかと思えば、次の節ではそれが瞬間的に沸騰したかのごとく、がなり立てられる。Bメロに差し掛かると、雑音を含んだ"がなり"はさらに凄みを増し、水蒸気爆発をしたかのように、四方八方へと放出されていく。そして、サビの直前でみせるロング・シャウトは、そのピークを演出しているかのようでもある。しかしながら、さわり(サビ)の部分に入ると再び、抜けのいい透き通った歌声にパッと切り替わり〈Do you remember?〉というリリックが強さを持ちながら浮き彫りになってくる。サビの終盤には、限界まで張り上げられた金切り声に近いファルセットで、A・Bメロ〜サビ直前のときのような盛り上がりをみせ、いわば"第2のダイナミクス"が演出されるのだった。

 

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宮本浩次 - Do you remember?


一曲でさまざまな声色を見せるその様子は、まるで宮本の喉に"エフェクター"が搭載されているかのようである。ディストーションのように歪んだかと思えば、さらにそのギアを上げて、ビッグ・マフのように潰れたシャウトに切り替わったり、あるいは歪みをほぼ無くしたクリーントーンに切り変わったりするのだ。

 

そんな切り替えによって生まれた"抑揚"をさらに増幅させるのは、無駄がそぎ落とされたリリックの存在である。メロディー一音一音にきっちりとはめられたメッセージには、叙述的なストーリー性や、文学的な描写はない。どちらかといえば、コミックスのように状況説明を端的に、場面がデフォルメされ、目まぐるしく変化していくような印象がある。冒頭部分、

ご覧、ガードレールにうずくまる ひとりの男あり
逆光のシルエット 悲しそう 涙さえ浮かべてるのに

道ゆく人 素知らぬ顔で眺め 過ぎ去ってゆくぜ
ビルの向こうには ギラつく太陽 ヤケに不気味に街を覆う

ガードレールにうずくまる一人の男から、次の節では逆光のシルエットが浮かび上がり、道行く人々が男を素知らぬ顔で眺める描写、そして、視点はビルの向こうの太陽へと移り、街全体を"照らす"のではなく"不気味に覆う"と逆説的に表現する。視点の変化はコミックスの場面のようにスピード感があり、逆説的な表現がエッセンスとして加えられることで、登場人物の様子が誇張され"デフォルメ感"のようなものがでている。それによって、よりストレートに状況が伝わり、さらには曲が持つ疾走感を助長することにもつながっている。また、〈夢に夢見て夢から夢を抱きしめて〉や、〈流れ流れて体ひとつ ただの男が立ち上がる〉の部分は、その節の言葉自体が非常にリズミカルであり、これまた歌唱の抑揚を増幅させるのに一役買っているようにも思える。

 

「Do you remember?」は、あくまで宮本の"歌"が軸にある。この曲にはそんな歌を最大限に表現するためのギミック(といえば大袈裟だが)が、歌唱、リリック、サウンドに至るまでふんだんに取り入れられている。宮本浩次という人間の"名器"っぷりを存分に堪能することができる作品だ。

 

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