三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999) 後編

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999) 前編

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9.「暮れゆく夕べの空」(1994) | Pink Floyd - Breathe (In the Air)

冒頭の印象的なフレーズは、Pink Floydの「Breathe」を彷彿とさせる。だが、「暮れゆく夕べの空」の方は、タイトルの通り、夕方の音だ。それも、都会の喧騒の混じった音を想起させる。工業団地、夕日が建物をオレンジ色に染めている。子どもたちが家路を急ぐ声が聞こえる。電柱に括り付けられてある防災無線から、帰りの時刻のチャイムが響き渡る。「Breathe」の音からは人間臭さは感じられない、宇宙的で無機質である。別段これは悪いことではないし、それが彼らの持ち味である。他方、一度エレファントカシマシによってこのフレーズが演奏されると、たちまち現代日本の土着的な精神が宿るのであった。

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10.「真冬のロマンチック」(1994), 「穴があったら入りたい」(2012) | T. Rex - Get It On

T. Rexの「Get It On」のオマージュに関しては2曲ある。いずれも、骨子の部分を忠実にオマージュしたものであり、そこに日本語メロディーが入れ込まれるとたちまち、エレファントカシマシの楽曲として成立してしまう。T. Rexのこの楽曲は、楽曲の型として取り入れやすいのだろうか、実に様々なアーティストがこの楽曲のオマージュしているのがうかがえる。現代のポピュラー音楽には、時たまこうした特許のような型が生まれるが、個人的には「Get It On」とElectric Light Orchestraの「Mr. Blue Sky」がその双璧をなす楽曲であるように思える。後者のオマージュも、いつかは聴いてみたい。

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11.「今宵の月のように」(1997) | Teenage Fanclub - Neil Jung

エレファントカシマシ史上最大のセールスを記録したアルバム『明日に向かって走れ-月夜の歌-』収録の「今宵の月のように」であるが、この曲にもオマージュがみられる。Bメロの〈新しい季節の始まりは 夏の風 町に吹くのさ〉の部分のメロディラインに、「Neil Jung」の影響を強く感じる。ただ、このBメロから日本の歌謡曲・Jポップ的な展開に持ち込んでいく技量はさすがとしか言いようがない。影響元の楽曲よりも日本人にとっては非常にわかりやすく、ギターの弾き語りから、サビにかけてのバンドサウンドの盛り上っていく部分に関しても、よりドラマチックに仕上がっているといえる。

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12.「ふたりの冬」(1997) | The Beatles - Oh! Darling

「やさしさ」以来の登場となる「Oh! Darling」。ソロで「If I Fell」をカバーしていたように、宮本にとってThe BeatlesはLed Zeppelinと双璧のようなバンドなのだろうか。「ふたりの冬」では、イントロでオマージュされている。安心感のあるイントロであるが、こちらの方は「やさしさ」に比べて、展開から歌い方に至るまで、The Beatlesの匂いが少ないのが印象的で、飛び道具的にフレーズを用いていることがわかる。同じ影響元でも、EPIC時代とポニーキャニオン時代ではこうも違うのかと驚かされる。今、再びこの曲をオマージュしたらしたで、おそらくまた違ったものが出来上がるはずである。

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13.「おまえとふたりきり」(1998) | Radiohead - Lucky

宮本は1998年に「これが世界のビッグヒットだ!」という番組でRadioheadに対し「僕よりシリアスじゃないから、僕の勝ち」と冗談半分でコメントしていたが、「おまえとふたりきり」でのコード進行や曲の構成、リバーブのかかった浮遊感のあるサウンドは「Lucky」に寄せられている。本曲が収録されている『OK Computer』のリリースは1997年であり、1年足らずで自分のものに落とし込んだということになる。新しいものを取り入れる柔軟な姿勢は当時からあったようだ。宮本は『good morning』をRadioheadのプロデューサー、ナイジェル・ゴドリッチに依頼して断られたと話していたこともあったが、はたしてそれが実現する日は来るのだろうか。

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14.「君がここにいる」(1998) | Teenage Fanclub - Winter

『愛と夢』収録の「君がここにいる」はイントロこそ若干付け加えられているが、そこからすぐ心地良い"泣きメロ"が始まるところは、Teenage Fanclubの「Winter」からの影響を強く感じる。冒頭の譜面の割り当ても<The summer (町は) was out of sight (変わるけど)/We couldn't (ココロは) sleep at night (変わらない)>と、言語の違いはあるとはいえどこか重なる部分がある。「今宵の月のように」もそうであったが、1990年代のエレファントカシマシを象徴するキャッチーさや、聴きやすさのエッセンスのようなものは意外にもTeenage Fanclubにその答えが隠されているのかもしれない。

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15.「good-bye-mama」(1998) | Momma Miss America - Paul McCartney

『愛と夢』1曲目を飾る「good-bye-mama」は、テンポこそ幾分早くなっているが、Aメロのコード進行にポール・マッカートニーの「Momma Miss America」からの影響を感じる。インストゥルメンタルの影響元は淡々とした印象があるが、エレファントカシマシの方はサビへと続く展開が非常にドラマチックでポップである。また、タイトルに関しても"mama"と"Momma"と、同じ意味の単語が使われているのにもどこか意図的なものを感じる。The Rolling Stonesと重ねられるイメージの強いエレファントカシマシであるが、こうしてみるとThe Beatles(およびポール・マッカートニー)からの影響も引けを取らないほど強いことが分かる。そしてその流れはソロになった現在も続いている。

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16.「涙の数だけ」(1998) | Led Zeppelin - Out on the Tiles

「はじまりは今」のカップリング「涙の数だけ」は、Led Zeppelinの「Out on the Tiles」のギターフレーズがよりシンプルになってオマージュされている。ヴァースのメロディーやビートのタイム感も元に大きく寄せている印象を受ける。宮本はラジオ番組「SUPER EDITION」に出演した際の選曲にもこの曲を挙げていた。詳細は語られなかったが、自身に影響を受けた楽曲であることは間違いない。1970年代のハードロックを聴いて育ったカート・コバーンは、Nirvanaでグランジを確立したが、エレファントカシマシの宮本もまた、当時のロックを踏まえ、日本的なロックのスタイルを新たに確立している。それを象徴するような一曲だ。

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Track Listing (1988-1999)
1.「星の砂」(1988) | Bad Company - Rhythm Machine
2.「やさしさ」(1988) | The Beatles - Oh! Darling
3.「ゴクロウサン」(1988) | The Rolling Stones - Rip This Joint
4.「珍奇男」(1989) | Paul McCartney - That Would Be Something
5.「凡人 -散歩き-」(1990) | Led Zeppelin - We're Gonna Groove
6. 「too fine life」(1990) | T. Rex - Cosmic Dancer

7.「太陽ギラギラ」(1992) | Dave Brubeck - Take Five
8.「過ぎゆく日々」(1992) | Traffic - Dear Mr. Fantasy
9.「暮れゆく夕べの空」(1994) | Pink Floyd - Breathe (In the Air)
10.「真冬のロマンチック」(1994), 「穴があったら入りたい」(2012) | T. Rex - Get It On
11.「今宵の月のように」(1997) | Teenage Fanclub - Neil Jung
12.「ふたりの冬」(1997) | The Beatles - Oh! Darling
13.「おまえとふたりきり」(1998) | Radiohead - Lucky
14.「君がここにいる」(1998) | Teenage Fanclub - Winter
15.「good-bye-mama」(1998) | Momma Miss America - Paul McCartney
16.「涙の数だけ」(1998) | Led Zeppelin - Out on the Tiles

 

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (まえがき)

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 前編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 後編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 前編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 後編

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エレファントカシマシ(+宮本浩次)のオマージュに関する考察 (2019-現在)

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