三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 後編

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 前編

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11.「すまねえ魂」(2006) | The Rolling Stones - Time Waits For No One

「すまねえ魂」は、「Time Waits For No One」の冒頭のフレーズが、引用されている。全体的な楽曲の雰囲気も非常に近いものとなっているが、やはりボーカル、そして日本語詞によってそのアプローチの違いを感じることができる。メロディーの高低差が、影響元よりも大きいためだろうか、宮本の叫びには悲痛なものがある。他方、ミックの歌声の方は哀愁はあれど、どこか朗らかさが内包されている。この楽曲が収録されている『町を見下す丘は』の頃は「俺たちの明日」で再ブレイクを果たす前夜であり、比較的落ち着いたバンドサウンドの楽曲群で構成されているが、それを象徴するような一曲となっている。

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12.「今をかきならせ」(2006) | Pearl Jam - Corduroy, Pearl Jam - Spin the Black Circle

「今をかきならせ」は、冒頭のリフがPearl Jamの「Corduroy」まさしくそれである。影響元の方はリフとしてではなくメロディーに付随するフレーズとして繰り返し用いられ、そのフレーズパターンは同じであるが、コードが変化していく。一方「今をかきならせ」は用いられる3コードに変化はなくシンプル。また、テンポやノリは「Corduroy」と同作に収録の「Spin the Black Circle」を彷彿させる。サビでの高揚感やボーカルレンジはいずれの影響元を凌駕している。2000年代以降の宮本は自分自身と同年代のアーティストの楽曲をオマージュすることが多くなってくるが、これもまたその一つである。

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13.「今はここが真ん中さ!」(2008) | T. Rex - Children Of The Revolution

再出発を果たした『STARTING OVER』の幕開けを飾るにふさわしい、この楽曲には、T. Rexの「Children Of The Revolution」のフレーズが引用されている。「今はここが真ん中さ!」のBメロにあたる部分、〈ヘイヘイ ドゥダドゥダ 冷静じゃいられないような声を聴かせて〉、〈ヘイヘイ握ってた サイコロを投げるのさ ドーンと解き放て〉のリズムがそうであるが、影響元の方はというと、このフレーズの後ろで、別のメロディが歌われている点で、大きく異なっている。非常に印象的なフレーズであるが、宮本の方はサビへとつなぐ、ある種のブレイクのような形で使用しているというのが中々に面白いポイントである。

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14.「こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい」(2008) | The Beatles - I Want You (She’s So Heavy)

『STARTING OVER』に収録されている「こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい」であるが、その印象的なアウトロ、突然曲が終了する箇所はまさに、The Beatlesの「I Want You (She’s So Heavy)」である。影響元はこの"強制終了"からアコースティックな「Here Comes The Sun」へと続いているが、「こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい」についても同様、アコースティックな「リッスントゥザミュージック」へ続くところにも注目したい。何も知らなければ、オーディオ機器が故障したのではないかと勘違いしてしまう瞬間でもある。"故障"ではなく、あくまでも"オマージュ"である。

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15.「Sky is blue」(2009) | Beck - Loser, Radiohead - Paranoid Android, The Chemical Brothers - Setting Sun

「Sky is blue」は、1990年代のロック/エレクトロの総決算のような楽曲である。言わずもがな、冒頭のスライド奏法のギターはベックの「Loser」を意識したものとなっている。ドラムのビートは非常に重く、The Chemical Brothersの「Setting Sun」に近いミックスである(これに関してはアレンジャーの蔦谷好位置が明言している)。そして、アンプラグドなアウトロは、Radioheadの「Paranoid Andoroid」の中盤のフレーズを強く感じる。越境したサウンドとアレンジに呼応するように、宮本の歌い方も日本語の歌詞ではあるものの、英語的なアプローチを見せる。この当時の宮本の趣味全開の楽曲である。

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16.「新しい季節へキミと」(2009) | The Who - Pinball Wizard

この楽曲は「Pinball Wizard」冒頭のSus4(Suspended 4th)コードとメジャーコードを繰り返すギターストロークに影響を受けているように思える。ただ、Sus4コードをイントロに使用した楽曲はこれに限らず、多数存在しているため断言できないが、宮本が影響を受けたアーティストとして挙げていたThe Whoの楽曲から、いわゆる"Sus4イントロ"に該当する楽曲をセレクトした。「新しい季節へキミと」には、強烈な色彩のグラデーションを感じる。脳内に構築された都会の喧騒を彩っていき、砂のようにサラサラと色彩は広がっていく。そんな美しい世界を補完する、華やかなフレーズとして使用されている。

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17.「ハナウタ~遠い昔からの物語~」(2009) | Daniel Powter - Bad Day

なんと大胆なオマージュだろうか。楽曲のコード進行からアレンジに至るまで、「Bad Day」をそのままトレースしたかのようである。ダニエル・パウターの方はおそらくピアノで制作をし、それが楽曲にも表れているが、宮本の方はアレンジこそ似通っていても、どこかギターを軸に制作したような印象を受ける。両者を差別化している点の一つは、そこであると思う。あとは何と言っても「ハナウタ~遠い昔からの物語~」のメロディの起伏が非常に激しい。いわゆるポップさ、受け入れやすさを追求した結果のアレンジだったとはと思うが、それに抗うかのような、宮本の"ロックスピリッツ"を感じられる楽曲である。

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18.「おかみさん」(2009) | Led Zeppelin - Heartbreaker

この曲はオマージュがわかりやすい楽曲の中でもかなり上位に位置する。一小節目のリフを聴いた瞬間に、Led Zeppelinの"Heartbreaker"が頭の中を駆け巡る。この時期の彼らは、ユニバーサルミュージックの所属であり、宮本は蔦谷好位置をはじめとしたプロデューサーと組み、より多くに人に響くような楽曲制作のスタイルにシフトしてきていた。Led Zeppelinのモチーフは初期の「凡人-散歩き-」にも見られたが、それから20年が経ち、非常に洗練され、2000年代のサウンドとして昇華されたものとなった。久々に、1970年代のハードロックのオマージュがされた意味では、なかなか異色であるといえよう。

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19.「桜の花、舞い上がる道を」(2009) | Roy Orbison - Oh, Pretty Woman

いわゆるCメロの部分に「Oh, Pretty Woman」のイントロがモチーフとして取り入れられている。この楽曲が収録されている『昇れる太陽』全般に言えることだが、かなり意図的かつ、聴いている人たちに対してぜひとも気づいてください、と言わんばかりの分かりやすさがある。影響元の方はというと、この部分に歌詞が乗ることはないが、宮本はそこに付随させるように〈夢や幻じゃない くすぶる胸の想い笑い飛ばせ桜花〉と歌い上げる。楽曲の終盤の高揚感を増幅させる、実に見事なオマージュだ。曲の主体はあくまで、彼らにあり、オマージュはあくまで装飾的な役割にとどまらせているというのが肝である

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Track Listing (2000-2009)
1.「so many people」(2000) | The Stone Roses - Made of Stone
2.「good morning」(2000) | The Smashing Pumpkins - Ava Adore
3.「ガストロンジャー」(2000) | The Stone Roses - Driving South, The Doobie Brothers - Long Train Runnin'
4.「武蔵野」(2000) | Led Zeppelin - Night Flight
5.「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」(2002) | Jesus Jones - Right Here Right Now
6.「面影」(2002) | The Smashing Pumpkins - Mellon Collie And The Infinite Sadness
7.「秋 -さらば遠い夢よ-」(2002) | Wings - Venus And Mars
8.「達者であれよ」(2004) | Led Zeppelin - Houses of the Holy
9.「平成理想主義」(2004) | Led Zeppelin - Moby Dick, Red Hot Chili Peppers - Can’t Stop, Red Hot Chili Peppers - Give It Away, The Beatles - Come Together
10.「化ケモノ青年」(2004) | The Rolling Stones - Jumpin' Jack Flash

11.「すまねえ魂」(2006) | The Rolling Stones - Time Waits For No One
12.「今をかきならせ」(2006) | Pearl Jam - Corduroy, Pearl Jam - Spin the Black Circle
13.「今はここが真ん中さ!」(2008) | T. Rex - Children Of The Revolution
14.「こうして部屋で寝転んでるとまるで死ぬのを待ってるみたい」(2008) | The Beatles - I Want You (She’s So Heavy)

15.「Sky is blue」(2009) | Beck - Loser, Radiohead - Paranoid Android, The Chemical Brothers - Setting Sun
16.「新しい季節へキミと」(2009) | The Who - Pinball Wizard
17.「ハナウタ~遠い昔からの物語~」(2009) | Daniel Powter - Bad Day
18.「おかみさん」(2009) | Led Zeppelin - Heartbreaker
19.「桜の花、舞い上がる道を」(2009) | Roy Orbison - Oh, Pretty Woman

 

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (まえがき)

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999)

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999) 後編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 前編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 後編

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エレファントカシマシ(+宮本浩次)のオマージュに関する考察 (2019-現在)

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