三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

スーパースターを目撃した日――沢田研二 LIVE 2022-2023「まだまだ一生懸命」ツアーファイナル バースデーライブ! ライブレポート

日曜。会場のさいたまスーパーアリーナに向かうまでの道は、コクーンシティさいたま新都心に行く人の波も相まってとても混んでいた。会場に近づいていくにつれ、指数関数的に年配者が増えてくる。他方で自分と同じ20代の姿は反比例するかのように減少していく。それもそのはず、沢田研二をリアルタイムで追い続けてきたファンは、50年の時を経て60代から70代が中心となっている。高齢化率でいうと、70パーセントは超えていただろうか。地方の僻地だとこのような現象がナチュラルに起こっているのだと思うと、なんとも悲しい限りである――。とはいえ、年を取るということは、人間、ひいては地球上の生物である以上、逃れられない宿命である。時間は誰でも平等にやってくる。筆者だっていずれそうなる。これは誰が悪いというわけでもない。強いて言うなら時間が悪い。そうなってくると、デビュー以来50年以上が経過したその歴史の重層性に思いを馳せた方が相応しいのだと、逡巡した末に勝手に結論する。会場に集まっている人たちは、誰もがパワーに満ち溢れていて、キラキラと輝いていた。これは誇張でもなんでもない。"ジュリー"という圧倒的な存在に対する畏敬の念が、いわゆる"生きがい"へと変換され、このエネルギーは表出されるのだろう。

 

筆者の座席は、200レベル(1階)の上手中央のスタンド席であった。前の座席にいた女性3人組は、ぼんやりと聞こえてきた話によると、どうやら祖母と母と娘の3世代の家族のようであった。左隣には、60代くらいの夫婦、そして右隣は一人で来ている40代くらいの女性であった。開演5分前、周りを見渡してみると、2階席までびっしりと座席を埋めて尽くされているのが分かった。2018年、ジュリーは同会場でのライブをドタキャンする騒動があったが、この日は超満員。当時は知らされていた観客数よりも少なかったことに端を発したものであったと記憶しているが、この満員御礼っぷりをみればもはや、ドタキャンの余地はなかった。今回は無事に開催されそうである。開演時間を5分ほど過ぎ、コンサートはスタート。オープニング。上手下手それぞれに設置されているスクリーンには、これまでの50年の軌跡が、リリースされた楽曲と共に映し出される。会場からはさっそく黄色い歓声が沸き上がり、手拍子の音が徐々に大きくなってくる。

 

1曲目は「シーサイド・バウンド」。コンサートの前半はどうやらザ・タイガースのようである。他のメンバー70代を過ぎているが、まだまだ健在といった印象である。間奏部分、メンバーが前後左右にステップをする場面では「キャー!」という半ば叫びのような声が各所で起こり、その熱狂ぶりがうかがえる。60年前近くも前のことは全くわからないが、その時にタイムスリップしたような感覚になった。ジュリーは"タイガー"スだけに、トラの着ぐるみを着ていた(ちなみにこの洒落に気づいたのはコンサートが終演してからだった)。これまでのメディアの中のジュリーにはそういったイメージがあまりなかったから、このような姿をすることに驚いた。The BeatlesだとかThe Venturesのような独特の暖かみのある歯切れの良いサウンドが、さいたまスーパーアリーナに響き渡る。思った以上の轟音に、序盤から圧倒されてしまう。ザ・タイガースのメンバーについての事前知識としては、岸部一徳については映画やドラマに出演していたのをきっかけ知っており、すでに亡くなってしまっているが、その弟岸部シローは『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』で知っていた程度であった。

 

ザ・タイガースは、グループサウンズという1960年代のムーブメントの"産物"であるが、純粋に音楽を聴いていると非常に面白い。日本の歌謡曲的であり、そうかと思うと当時のイギリスの音楽のトレンド、主にThe Beatlesに対する憧れを強く感じたりする。スクリーンに映し出されているのは、どこからどうみても虎の着ぐるみを着たカーネル・サンダース風の"おじいさん"なのだが、その佇まいというかオーラに並々ならぬものを感じる。当時の楽曲をおそらくはオリジナルのキーで歌い上げていたのは見事であった。第1部終盤、MCに差し掛かったのだが、これがなかなかに長かった。失礼を承知で書けば、学生時代の式典で登壇した校長の長話のようであった。さらに失礼を承知で書けばその時ばかりは、ジュリー、ではなくジジイそのもの。当時のモヤっとした思い出がたちまちフラッシュバックしてきた。とは言っても普段はこんなに話すことはないというから、偏屈な筆者以外の観客にとってはある意味貴重だったのかもしれない。ジュリーは他のメンバーと共に、ザ・タイガース初期の活動からデビューに至るまでについてとことん語りつくす。あれ、同窓会会場に迷い込んだわけじゃないよな――。この"長話"の中でも、カルーセル麻紀のバーでライブをした時の話や、ザ・タイガースのプロデューサーの話はなかなか面白かった。

 

第2部、髪を後ろで束ねたジュリーが登場する。衣装は真っ白なタキシードに着替えられ、よりカーネル・サンダース感が増された出で立ちになっていた。照明効果のせいか、白い衣装は輝き、神々しささえあった。中盤のヒット曲が連続するパートは圧巻。第1部のようなゆったりとした同窓会的な雰囲気はそこにはなく、ひたすらストイックに楽曲を届けることに専念していく。「サムライ」、「ダーリング」、「勝手にしやがれ」、「時の過ぎゆくままに」、「危険なふたり」、「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」、「TOKIO」――。何よりも、すべてがオリジナルのキーで、しかもフルコーラスで歌われることに驚く。「サムライ」では、<片手にピストル/心に花束/唇に火の酒>という歌詞に合わせ、お決まりの所作を魅せていく。するとその瞬間、75のジュリーの姿に、当時と全く変わらない圧倒的なオーラ纏われていく。ある意味これは驚きを通り越した怪奇である。サビの最後、<アアア アアア>の部分では、喉にエフェクターのファズが積まれているのではないかと思うくらいの恐ろしく歪んだシャウトを連発していく。とはいえピッチは驚くほど正確で、リリース当時の色気も潜んでいた。玉置浩二、桑田佳祐、宮本浩次、三浦大知……これまで数々のアーティストがジュリーの楽曲をカバーしてきたが、あの歌声というのは誰にも到達できない境地であるのだと確信した。

 

続く「ダーリング」。サビの<夜が来ても 朝が来ても/春が来ても 夏が来ても>の部分ではブレイクのタイミングに合わせ人差し指を上向きにするのだが、このちょっとした所作にも色気が漂う。そして最後の<ダーリング>というロングトーンの歌声は、会場全体がビリビリと震えるほどの凄みを感じたのだった。この7曲を、この流れで聴くことができただけでも今日来た甲斐があったと思った。ジュリーは縦横無尽にステージを走り回っていく。もっと年相応な感じで静かに歌うのかと思っていたから、開いた口が塞がらなかった。まったくもう、とんでもない75歳である。先ほどのMCにおける"校長の長話"というのはここに撤回された。話が長かろうと、歌が上手ければ、もはや何をしてもオッケーであるということを半ば暴力的に見せつけられたのであった。ジュリーは曲の合間に必ず「ありがとう。サンキュー。ありがとうねー!」と言って観客を煽っていく。

 

第3部(あるいはアンコール)では再びザ・タイガースのメンバーが登場し、The Rolling Stonesの「Time Is on My Side」や「(I Can't Get No) Satisfaction」など、カバーを始めとした数曲を披露する。The Rolling Stonesは80近くになってもなお現役バリバリであるが、それに負けず劣らずの勢いであった。ジュリーは自らを"ジジイ"と卑下し、後期高齢者の仲間入りであるという風なことを言っていた。たしかに見た目こそ、デビュー当時からは様変わりしているかもしれない。けれどもそれは、ある意味で当然といえば当然である。人は誰もが歳を取ってゆく。とすると分不相応に抗い続ける方が惨めであるのかもしれない。その点ジュリーには潔ささえ感じる。枯れの美学と言った方がいいだろうか。顔に刻み込まれたシワを隠すことも、真っ白になった髪を染めるようなことも一切しない。――とはいえ、ステージにはあの頃と変わらないカリスマ性を持ったスーパースターが確かにそこにいた。ジュリーはあくまでも、"75歳の着ぐるみ"を着ているだけにすぎないのである。それを象徴するような出来事は第2部の終盤、「愛まで待てない」が演奏されたときのこと。ジュリーはこれまで結んでいた髪をほどき、髪を振り乱しながら歌う。ダンディズムやら色気やらがすべて解放された最も美しい瞬間であった。年齢を超越した圧倒的な"美"がそこには存在していた――。ほんとうに、素晴らしいライブを、目撃した。そしてこう叫びたい。ありがとう。サンキュー。ありがとうねー!

 

セットリスト

第1部
01. シーサイド・バウンド
02. モナリザの微笑
03. 落葉の物語
04. 銀河のロマンス
05. 花の首飾り
06. 青い鳥
07. 君だけに愛を

第2部
08. そのキスが欲しい
09. おまえにチェックイン
10. サムライ
11. ダーリング
12. 勝手にしやがれ
13. 時の過ぎゆくままに
14. 危険なふたり
15. 6番目のユ・ウ・ウ・ツ 
16. TOKIO
17. LUCKY/一生懸命
18. ROCK'N ROLL MARCH
19. 時計/夏がいく
20. 君をいま抱かせてくれ
21. 愛まで待てない
22. いつか君は 

第3部(アンコール)
23. 河内音頭
24. Time Is on My Side ※The Rolling Stones
25. Do You Love Me ※THE DAVE CLARK FIVE
26. (I Can't Get No)Satisfaction ※The Rolling Stones
27. ラヴ・ラヴ・ラヴ