三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

諏訪に行った日のこと 前編――映画『怪物』のロケ地を巡る

朝6時前、家を出る。外の気温は既に上がってきていた。海の日。長野の諏訪へと行く。特急あずさが発着する新宿駅には7時過ぎには到着した。スピッツが「Sandie」で"魔境"と形容した新宿駅のことだから、もっと迷うかのと思ったが、山手線からあずさの乗り場である9番線まではあっという間だったので肩透かしを食らった。駅に併設している店はまだ閉まっていた。成城石井で朝食を何か買おうと思ったが、異国情緒たっぷりのものばかり置いていたため、そのすぐ近くにあるコンビニエンスストアでおにぎりを2つ買った。出発10分ほど前になってホームに降りる。ホームは7時半前だというのに既に汗が滲み出てくるほど気温が上がっていた。

 

あずさに乗ると隣には男性が座っていた。窓際の席に座り、さっそく前日用意しておいたプレイリストを聴く。定刻通り、7時半ちょうどの出発。『OT TRIP』*1というプレイリストは、奥田民生の旅に合うような楽曲をセレクトしたもの。中央線の景色が、この日はいつもと違って見えた。景色はビル群から立川駅を過ぎたあたりで一軒家が立ち並ぶ住宅街へと変わってくる。住宅街の家々は間隔が広がっていき、その間に畑や田んぼ、さらに奥の方には草木の茂みが目立ってくる。都心から変化していく外の風景をぼんやり眺めていると、フジファブリックの楽曲で想起される風景と全く重なる瞬間があった。まさかと思ってスマートフォンのGPSで現在地を確認してみると、志村正彦の出身地である山梨の富士吉田から程近い場所を通っていることが分かった。すかさず『TEENAGER』の楽曲を何曲か聴いてみる。楽曲と風景の見事な解脱。ここまでの感覚になったのは、エレファントカシマシ以来であった。跨川橋の下のコンクリートのところで、少年2人が体を寄せ合ってスマートフォンを眺めている姿が見えた。遠くの景色には段々と山の濃い緑が増えてくる。9時過ぎになって、いよいよ長野に差し掛かった。プレイリストでは今度はスピッツの旅にまつわる曲ばかりを集めた『MATATABI MELODY Ⅱ』*2なるものを聴き始めている。隣に座っていた人はいつの間にかいなくなっていた。あたりを見回してみると、乗客は自分以外ほとんどいなくなっていた。このままどこか知らない場所に連れていかれてしまうのではないかと、突然怖くなってきた。

 

上諏訪駅に到着したのは10時前のことだった。外の日差しは強いが、埼玉や東京よりもカラッとしているため、そこまで不快ではなかった。駅に併設しているレンタサイクル屋へと向かう。思った以上に高かったため、先に値段を聞いた方がよかったと後悔する。とはいえレンタルした電動自転車に不具合はなかったため、別にそこまで気にするほどでもなかった。自転車にまたがり、映画『怪物』のロケ地を巡る。今回の旅の目的の一つである。まずは、少年たちがマンホールの音を聞くシーンと踏切を渡るシーンで使用された場所へと向かう。日差しが肌に強く照り付けてくる。路地を通ると昔ながらのスナックや居酒屋がある道が見えた。小路には水路が張り巡らされていて、それが近くの小川に続いている。ロケ地の小川には地元の人しか見られなかった。暑さのせいか、外を歩く人はほとんどいない。奥の方には山が見えている。こんな辺鄙な場所で撮影をしたことに驚く。写真を何枚かとってから、今度は手長神社の方面へと向かう。

 

諏訪は坂の道が多い。それも、とても急な坂である。地図で見ると諏訪湖を中心にすり鉢状の地形になっている。旧甲州街道を進むと、昔からあるらしい建物が連なっていた。手長神社の案内表示があったので、そのままひたすら坂を上っていく。電動自転車でなければかなり苦労したはずである。坂道の途中で木陰に差し掛かると、風がとても心地よかった。すぐ近くに上諏訪小学校と上諏訪中学校があった。初めはここも『怪物』のロケ地かと思ったが、どうやらそうではなかった。手長神社の境内は回廊があり、本殿はなかなか立派な作りで合った。参道を上ると本殿の中に誰か人がいるような気配があったが、どうやら飾り物と見間違えたようである。参拝を終え下に降りてみると、子どもたちが学校から出てくるのが見えた。部活動だろうか。坂道を意気揚々と下っていく。その姿がふっと見えなくって、どこに行ったのか、彼らが歩いた方向に向かってみると、道路にぽっかりと穴が開いたような場所が見えた。穴の正体は階段であり、下の方まで続いているようだった。ポカリスウェットを飲みながら、しばらく木陰で休憩する。

 

立石公園まで行くために、さらに坂を上る。小道から車道の合流地点に差し掛かると、公園の表示看板が見えてきた。公園に到着すると、多くの人がいた。ここは『君の名は。』と似たような風景が存在するらしく、その聖地として有名であるらしかった。また、例によってここも『怪物』のロケ地であった。主人公2人が遊具で宇宙について話すシーンがまさにここなのであるが、残念ながら映画で使用されていた蛍光カラーのジャングルジムはすでに撤去され、リニューアルされていた。何とも寂しい限りである。公園は風は涼しいが日差しがさらに強く照り付けてきていた。諏訪の景色をしばらく眺めてみる。湖の周りを囲うように生活が築き上げられているのが分かる。11時半近くになったので、坂を下り、上諏訪駅方面に戻る。途中、坂が行き止まりになる箇所に何度も行ってしまい、下っては上り、下っては上りを繰り返した。それから最後に、行きそびれていた高島城へ行く。説明看板をみてみると、建造年は昭和とのことで、割と最近復元された建物のようだった。敷地内を歩いていると、アオサギがを見つける。直近で映画『君たちはどう生きるか』を観ていたためタイムリーであった。人に慣れているのか近づいてもそこまで警戒している様子はなかった。すぐ近くにあるコスコというドラッグストアでポカリスウェットを追加で買ってから、再び駅へと戻る。

 

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