2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧
義務教育課程の、いわゆる小・中学校の人間関係というのは、それなりに仲良くすることができても、人生を共にするような友人というのは見つけにくいのではないだろうか。なぜならそれは、閉鎖的な地域の中で、偶発的に集められた人間によって形成された社会…
男には行く当てがなかった。そして、あまりにも退屈すぎる一日が早く過ぎ去ってしまえばいいと思っていた。男は仕方なく、川沿いの道を歩いていると、神社を見つけた。山道の両脇には杉の木が生えていて、石畳には木漏れ日がゆらゆらと揺れている。男は境内…
少年が育てたカマキリは、トンボを好んで食べた。イナゴ、ショウリョウバッタ 、トノサマバッタ、アゲハチョウ、アブラゼミ......。カマキリはどれもよく食べたが、その中でも最も食いつきが良かったのがトンボであった。 トンボを与えると、カマキリはまず…
9月中ば、すっかり涼しくなった頃。オオカマキリの腹部は立派に膨れ、順調に成熟をしていた。少年はその様子を見て、そろそろ交尾をさせても良い頃ではないかと思っていた。ただ、どうやってオスを見つけてくればよいだろうか。というのも、草の茂みの陰で、…
少年のエサ取りは、いよいよ佳境に差し掛かっていた。成虫になったカマキリは、自分が昆虫界の食物連鎖の頂点だと言わんばかりに、恐れを知らなかった。ある日、家の中に大きなスズメバチが侵入してきたことがあった。羽音の重低音が、部屋に鳴り響いている…
7月の終わり、オオカマキリは6回目の脱皮をした。脱皮をしたばかりのカマキリにはツヤがあり、翡翠のような美しい緑色をしていた。横には、半透明の抜け殻がぶら下がっている。腹の膨れ具合から、どうやらメスのようだった。少年は安堵した。というのも、次…
玄関のドアと外を隔てる風除室はいつしか、カマキリを飼うための部屋に変貌していた。6月下旬、少年は、1匹だけを水槽に残してその他の個体を外に放した。最後まで、少年の手から離れようとしない個体を残すことにした。残したオオカマキリはいわゆる、"ショ…
オオカマキリは、孵化したときの姿の原型をとどめたまま、成虫になる。いわゆる不完全変態の昆虫と呼ばれるこの手の種は、脱皮を繰り返すことで、徐々に成長していく。そして、その脱皮を行なった回数で、呼び名の方も1齢虫、2齢虫、3齢虫といった具合に変化…
11月下旬、窓の外には雪が降り積もっていた。外に生き物の気配は感じられない。多くの昆虫は秋に産卵をし終えるとやがて衰え、外気温の下降とともに力尽きてゆく。少年の飼っていたオオカマキリも、陽光とストーブの火の温もりに温められながら、静かにその…
少年の住む場所は、市街地から少し離れた場所にあった。団地という言葉が地名に入っているもののの、住宅同士は決して密集することなく、一定の距離を置いてのびのびと立ち並んでいた。住宅は「目」の字でいえば、三つに区切られた空間の右側に数件あって、…
7月下旬、午前7時、この日も少年は眠い目を擦らせながら、なんとか起きることができた。 「もう、勘弁してくれよ」 小学6年生になると、町内会の班長という、いわゆる生徒代表のような役割があった。少年の住む町内に、彼の同級生は誰一人としていなかったの…