三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

三浦文学

エッセイ的なものから短編まで。

悪酔終列車――終電を逃せし男

「お客さん、お客さん、終点ですよ」ハッと目が覚める。此処は何処――。気が付いたら知らない場所にいた。無論、来るべきではない終着駅のことである。ひとまず車両から出てホーム内を右往左往する。電車に乗る前のことについて思い出してみる。確か――。府中…

オオカマキリと少年Ⅸ——晩年

朝、外に出てみると落ち葉に霜がびっしりとついている。それを踏みしめるとシャリっと霜がつぶれる感覚が伝わってきた。飼っていた最後のカブトムシは、11月の初めの週に死んだ。ある日を境に昆虫ゼリーを食べることが少なくなり、じっとしていることが多く…

オオカマキリと少年Ⅷ——子孫

10月、北国の秋は深まるのが早い。朝夕は冷え始める頃である。少年はいつものように虫取りにいそしんでいた。虫取り網を持って田んぼの方に行くと、アキアカネがの群衆が夕暮れの空に赤い模様を描きながら飛び交っている。稲刈りが終わり、稲穂は行儀よく架…

2011年3月の記憶、その後

2011年3月の時のことについて書いてみようと思った。記憶は年々薄れていく。その11年後の2022年3月、私は当時の記憶を引っ張り出しながらなんとか書き進めていった。以外にも鮮明に覚えているものであった。 www.miuranikki.com そんな最中、"ある出来事"が…

2011年3月の記憶

記憶は薄れてゆくものだ。あの頃の記憶は、いつ失われてしまうかわからない。だからせめてもここに残しておきたい――。 2011年3月8日 公立高校の一般入試試験が行われる。会場の、A高校に向かうと、いるはずのNの姿が見当たらなかった。Nというのは、私の小学…

スーパーヒーローになり損ねた男

これは、私が高校2年生だった頃の話である。学校で体育祭が行われ、クラスメイト達と打ち上げをすることになった。打ち上げは、食べ放題のバイキングの店で行われた。高校生と打ち上げ、そしてバイキングの並びは定番である。帰り道、皆で花火をすることにな…

スズメと蚊

男には行く当てがなかった。そして、あまりにも退屈すぎる一日が早く過ぎ去ってしまえばいいと思っていた。男は仕方なく、川沿いの道を歩いていると、神社を見つけた。山道の両脇には杉の木が生えていて、石畳には木漏れ日がゆらゆらと揺れている。男は境内…

オオカマキリと少年VII——秋

少年が育てたカマキリは、トンボを好んで食べた。イナゴ、ショウリョウバッタ 、トノサマバッタ、アゲハチョウ、アブラゼミ......。カマキリはどれもよく食べたが、その中でも最も食いつきが良かったのがトンボであった。 トンボを与えると、カマキリはまず…

オオカマキリと少年VI——官能

9月中ば、すっかり涼しくなった頃。オオカマキリの腹部は立派に膨れ、順調に成熟をしていた。少年はその様子を見て、そろそろ交尾をさせても良い頃ではないかと思っていた。ただ、どうやってオスを見つけてくればよいだろうか。というのも、草の茂みの陰で、…

オオカマキリと少年V——攻防

少年のエサ取りは、いよいよ佳境に差し掛かっていた。成虫になったカマキリは、自分が昆虫界の食物連鎖の頂点だと言わんばかりに、恐れを知らなかった。ある日、家の中に大きなスズメバチが侵入してきたことがあった。羽音の重低音が、部屋に鳴り響いている…

オオカマキリと少年IV——脱皮

7月の終わり、オオカマキリは6回目の脱皮をした。脱皮をしたばかりのカマキリにはツヤがあり、翡翠のような美しい緑色をしていた。横には、半透明の抜け殻がぶら下がっている。腹の膨れ具合から、どうやらメスのようだった。少年は安堵した。というのも、次…

オオカマキリと少年III——躍動

玄関のドアと外を隔てる風除室はいつしか、カマキリを飼うための部屋に変貌していた。6月下旬、少年は、1匹だけを水槽に残してその他の個体を外に放した。最後まで、少年の手から離れようとしない個体を残すことにした。残したオオカマキリはいわゆる、"ショ…

オオカマキリと少年II——梅雨

オオカマキリは、孵化したときの姿の原型をとどめたまま、成虫になる。いわゆる不完全変態の昆虫と呼ばれるこの手の種は、脱皮を繰り返すことで、徐々に成長していく。そして、その脱皮を行なった回数で、呼び名の方も1齢虫、2齢虫、3齢虫といった具合に変化…

オオカマキリと少年I——卵

11月下旬、窓の外には雪が降り積もっていた。外に生き物の気配は感じられない。多くの昆虫は秋に産卵をし終えるとやがて衰え、外気温の下降とともに力尽きてゆく。少年の飼っていたオオカマキリも、陽光とストーブの火の温もりに温められながら、静かにその…

少年時代

少年の住む場所は、市街地から少し離れた場所にあった。団地という言葉が地名に入っているもののの、住宅同士は決して密集することなく、一定の距離を置いてのびのびと立ち並んでいた。住宅は「目」の字でいえば、三つに区切られた空間の右側に数件あって、…

ラジオ体操の夏

7月下旬、午前7時、この日も少年は眠い目を擦らせながら、なんとか起きることができた。 「もう、勘弁してくれよ」 小学6年生になると、町内会の班長という、いわゆる生徒代表のような役割があった。少年の住む町内に、彼の同級生は誰一人としていなかったの…

路地裏猫街道 2

www.miuranikki.com ある日、目が覚めてからいつものように、窓の外をのぞいてみると、"猫のお爺さん"はすっかり狼狽していた。突然、猫が路地裏からいなくなってしまったのである。彼は、「おーい。どこに行ったんだい」と、猫を呼ぶ合図を口で鳴らしながら…

ある元旦のこと、続(つづき)

1月3日 祖父の遺体は、実家ではなく、五城目町の葬儀場へと運ばれた。葬儀場の中に寝泊りができるような部屋があって、遺体もそこに運ばれた。小綺麗な和室で、冷蔵庫や調理場、さらには浴室まであって、旅館の一室のようになっていた。 祖父の棺に入れるも…

ある元旦のこと

12月31日 早朝、飛行機で秋田へ帰省した。この季節にしては、珍しい雨模様だった。秋田市の少し外れたところにある実家に着くやいなや、母の面持ちはどこか神妙だった。祖父の容態があまりよくないという。余命は一週間。11月に入ってから、入退院を繰り返し…

キャンドルと一筋の煙

寝る前は決まって、本を読む。間接照明のオレンジ色の灯りの下、白地に印刷された浮かび上がってくる一文字一文字に集中する。次第に視界がぼんやりとし始め、いけない、いけないと言って灯りを消す。それが就寝前の私の日課になっていた——。 とある日、家電…

2058

2038年、カジノ関連法案が成立すると、巨大なギャンブル施設はいたるところに建設された――。 それから20年が経ち、東京はどこもかしこも似たような商業ビルや高層マンションで町中が埋め尽くされていた。その中でも特に、上野周辺の再開発の前後の差は顕著だ…

路地裏猫街道

カーテンの隙間から朝日が差し込んできていた。それだけでなくこの日は、外から猫の鳴き声も聴こえてきていた。私の暮らすアパートは、窓を開けるとすぐにちょっとした小道があった。アパートや住宅地の間をまっすぐ貫くようにのびる小道にはレンガが敷かれ…

『竹取物語』のかぐや姫について

『竹取物語』に登場するかぐや姫は、やっぱり未確認生物のたぐいであると思う。もちろんそんなこと、学校の授業では習わない。どこまでも妄想である。かぐや姫は、キラキラと光を放ちながら竹取の翁(おじいさん)を導き、自分の体を切られない位置で、うまい…

文学に共感するとき——東北にゆかりのある作家たちに自分を重ねて

筆者は、秋田に生まれ育った。日本海側特有の夏の暑さにも、厳しい冬の寒さにも何とか負ケズ、今日まで何とか生きてきた。今現在はというと、埼玉と東京の県境のところに住んでいる。こちらの方に住んで、もうすぐ4年。つい先日、住民票を移したから、いよい…

村上龍の『限りなく透明に近いブルー』—若者たちのリアリティ

ストーリーの舞台は、ドアーズやローリング・ストーンズに若者たちが酔狂している頃。ゆとり世代の自分にとってみたら遥か前の話だ。その頃の若者は、団塊世代なんていうけれど、今よりもっと芋っぽくて、時間が経って色褪せたセピア色の写真みたいにどこか…