三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 前編

今回は、2010年から2018年までにリリースされた作品のオマージュについてである。この時期のオマージュは、宮本自身(エレファントカシマシ)の可能性を広げるものとしての位置づけになっているように思える。宮本は、ジャンルや時代を横断した楽曲を制作しているが、メタルであれ、レゲエであれ、ダンスミュージックであれ、彼自身の型のようなものは全く崩れていない。それによって、影響元の楽曲を大きく踏襲したものであっても、アイデンティティを失うどころか、自分自身の世界に引きずり込むことが可能になるのである。それはある意味、これまでのキャリアで作り上げられた彼らの強烈な個性、"エレファントカシマシ像"なるものを活かすことができている段階に来ているともいえるのかもしれない。1988年から2009年までのオマージュについては以下でまとめているので、是非ともご覧いただければと思う。

 

1.「悪魔メフィスト」(2010) | Korn - Clown

「悪魔メフィスト」のリフのヘヴィネス、そしてサビでの宮本のハイトーンボイスは、メタルというジャンルに当てはめてみても何の遜色もない。明確にこの曲のオマージュ、という風に断言はできないが、90年代のポストグランジからの影響を強く感じる。影響元に関しては、そのジャンルの代表格とも言える、Kornの「Clown」を選んだ。タイトなドラムビートと重いディストーションサウンドのギターのループには通ずる所がある。Kornの方は、ビートに自傷的かつ暴力的なテーマを乗せるが、エレファントカシマシの方は、日常にある混沌である。歌詞とサウンドのギャップに驚かされる楽曲だ。

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2.「明日への記憶」(2010) | U2 - Sunday Bloody Sunday, The Beatles - Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

Aメロのリードギターに、U2の「Sunday Bloody Sunday」のイントロのリフが引用されている。影響元よりもテンポが遅くなったことで、精神的な重たさを感じる。「明日への記憶」は、2部構成に分かれているが後半の方では、The Beatlesの「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」の冒頭かき鳴らされるギターリフがオマージュされている。ドラムビートと繰り返されるギターフレーズのみのシンプルなサウンドに、ダウナーな宮本の歌声が乗せられるとたちまち、全く別の楽曲として成立してしまう。フレーズの一部を取り入れ、エレファントカシマシの楽曲として見事に咀嚼された一曲である。

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3. 「彼女は買い物の帰り道」(2010) | The Beatles - Strawberry Fields Forever

「彼女は買い物の帰り道」は、夕暮れ時の東京郊外の空気が封じ込められたような楽曲である。2番のサビの裏で鳴っているフルートのような音色は宮本の絶唱とは対照的に、情景を柔らかなものへと想起させる効果をもたらす。そしてその質感と音の入れ方はThe Beatlesの「Strawberry Fields Forever」のイントロを彷彿させる。とはいえオマージュの主張は控えめであり、あくまでも風景を構築する"道具"として用いられているに過ぎない。ちなみにThe Beatlesはフルートではなく、メロトロンというサンプル音声再生楽器のを使用してあの独特のサウンドを出している。今でいうサンプラーの元祖。

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4.「幸せよ、この指にとまれ」(2010) | George Harrison - My Sweet Lord

冒頭のアコースティックギターの弾き語りから、スライドギターの入ったバンドサウンドへと繋がっていく構成は、ジョージ・ハリスンの「My Sweet Lord」からの影響を色濃く感じる。『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』の終盤を彩る夕暮れ時の匂いが封じ込められたような楽曲であるが、スライドギターはその情景を増幅させる効果をもたらす。人々が帰路に着く頃、電車の窓からは真っ赤な夕陽が煌々とビルを照らしているのが見える。やがて風景は団地へと変わり、人々の影が伸びているのが見えてくる。ジョージの音ではなく、東京の赤羽の音がそこにはあった。まさに演奏者の妙である。

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5.「ズレてる方がいい」(2012) | The Heavy - What You Want Me To Do?, The Heavy - Same Ol'

かつて、ペプシの日本版のCMソングとして使用された「Same Ol'」でお馴染みのThe Heavyであるが、「Same Ol'」のイントロのストリングスと「What You Want Me To Do?」リフの部分が、「ズレてる方がいい」のAメロ前の壮大なサウンドに通じているように思える。また、後者に関してはAメロ(Verse)のリズムの乗り方に関しても、「ズレてる方がいい」のAメロに通じる部分がある。ただこれに関しては、宮本が影響元について発言していないために、明確なオマージュであると断定するには疑問符がつくが、同時期のリリースであり、影響元の可能性としては十分考えられる。

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6.「涙を流す男」(2012) - The Beatles - You Won't See Me

「涙を流す男」はシングル「ズレてる方がいい」のカップリングに収録されている。エレファントカシマシのブルース・ロック的な要素を前面に出した楽曲であるが、後半部分のコーラスにThe Beatlesからの影響を強く感じる。"ウーウーランララ"という独特なコーラスワークはThe Beatlesのアルバム『Lover Soul』において随所に登場するが、中でも「You Won't See Me」がそのオマージュ元として最も分かりやすい。宮本の方は少し変えて"ウーランランランランラー"という風に歌う。とはいえサウンドや楽曲の構成はThe Beatlesのそれとは大きく違っているため、言われてみなければ分からないオマージュである。

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7.「あなたへ」(2013) | Beck - Guess I'm Doing Fine

「あなたへ」は、宮本の突発性難聴による、バンド活動休止からの復帰後初めてリリースされた楽曲だが、ベックの「Guess I'm Doing Fine」からの影響が色濃い。テンポ、コード進行、さらには展開に至るまでトレースされているかのようである。歌い方や、感情の起伏が全編を通じて平坦なベックに対し、宮本の方、つぶやくように優しく歌うA・Bメロから一転、サビの部分とCメロではハイトーンかつ力強さを持った歌声へと切り替わる。サウンドも、それに付随するように歪み、"静"と"動"のコントラストが際立っている。そこに単なる模倣ではない、宮本の"咀嚼センス"が感じられるのであった。

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8.「はてさてこの俺は」(2013) | Beck - Lost Cause

シングル「あなたへ」のカップリング曲であるが、タイトル曲同様、こちらの楽曲にもベックの楽曲が引用されている。アコースティックサウンドや展開は、「Lost Cause」の影響を強く感じる。「はてさてこの俺は」ではCメロ〈訳もなく胸が痛むぜ〉の節から、展開がアコースティックサウンドから、ディストーションサウンドへと切り替わり、宮本の歌声も力を帯び、さらには歌詞の方も解放的なテーマへ変化する。「あなたへ」の時もそうであったが、ベックよりも感情の起伏を強く感じる楽曲であり、そこに"エレファントカシマシらしさなるもの"が見出されているように思える。

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Track Listing (2010-2018)
1.「悪魔メフィスト」(2010) | Korn - Clown
2.「明日への記憶」(2010) | U2 - Sunday Bloody Sunday, The Beatles - Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
3. 「彼女は買い物の帰り道」(2010) | The Beatles - Strawberry Fields Forever
4.「幸せよ、この指にとまれ」(2010) | George Harrison - My Sweet Lord
5.「ズレてる方がいい」(2012) | The Heavy - What You Want Me To Do?, The Heavy - Same Ol'
6.「涙を流す男」(2012) - The Beatles - You Won't See Me

7.「あなたへ」(2013) | Beck - Guess I'm Doing Fine
8.「はてさてこの俺は」(2013) | Beck - Lost Cause
9.「なからん」(2015) | Beck - Lonesome Tears
10.「昨日よ」(2015) | Beck - End Of The Day
11.「雨の日も風の日も」(2015) | Beck - Round The Bend
12.「Wake Up」(2018) | Arcade Fire - We Exist, The Rolling Stones - Undercover Of The Night, Red Hot Chili Peppers - Monarchy Of Roses
13.「Easy Go」(2018) | Green Day - Bang Bang
14.「神様俺を」(2018) | Bob Marley & The Wailers - So Much Things To Say
15.「いつもの顔で」(2018) | Mavine Gaye - What's Going On

16.「自由」(2018) | Beck - I'm So Free

 

エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (まえがき)

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999) 前編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (1988-1999) 後編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 前編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2000-2009) 後編

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エレファントカシマシのオマージュに関する考察 (2010-2018) 後編

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エレファントカシマシ(+宮本浩次)のオマージュに関する考察 (2019-現在)

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