三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

再び回り始めたサンセットの歯車とスピッツ——有明サンセット 2022 ライブレポート その3

エレファントカシマシという観測史上最大級の"嵐"が去った後の会場は、すっきりと晴れ渡っていた。ある意味で最高の御膳立てである。続くステージはイベントの主催者、大トリのスピッツである。彼らの音響システムは、マイクをアンプに置いて増幅させず、アンプから直接スピーカーへとつなぐいわゆる"ライン録り"であるが、そのお陰なのだろうか。ステージ転換はあっという間に終わった。メンバーのいないステージを少しだけじっと眺めてみる。ステージには一応の体としてアンプは置いてあるのだが、"ライン録り"のため当然ながらそこにマイクは置かれていない。かなりシンプルなセットである。ベースにはアンプとをつなぐシールドがついており、ベースの田村が駆け回る度にスタッフが、シールドを捌くという風物詩があるが、今日もそれが見られそうである。一方でギターに関しては、草野、三輪ともにワイヤレスであり、ギターの交換時間を短縮する工夫がみられる。そもそも、ギターの交換も、草野がチューニングにとられる時間をなくすために交換していると以前ラジオで話していたように、彼らの機材は年々、洗練され、合理化している印象を受けた。

 

場内が暗転し、まもなく「SUGUNAMI MELODY」のSEでメンバーが登場。草野はいつものように黒い帽子をかぶっている。その佇まいは、スナフキンのように見えた。一曲目は「恋する凡人」。草野の手によってギターリフが弾かれると、会場は瞬く間に"スピッツ・モード"へと切り替わった。彼らのステージは職人という言葉がふさわしい。四者四様、それぞれがそれぞれの守備範囲の仕事を全うしている。その範囲が4つ全て重なった瞬間バンドサウンドとして、途轍もないものとなって表れてくるのだ。どのメンバーが欠けてもいけない。奇跡的なバランス関係がそこにはあった。イベントの恒例となったカバー曲は、まさかのBOØWYの「ONLY YOU」。デビュー当時は流行っていた楽曲からのセレクトとのことであった。そんな流行歌でさえも、一瞬にしてスピッツ色に染め上げてしまったのはさすがとしか言いようがない。特に、楽曲のラスト〈ONLY ONLY ONLY ONLY ONLY〉と繰り返されるところは、テンポがやや速めのビート・ロック系の彼らの楽曲に本当にありそうなで思わず笑みがこぼれた。

 

近年の楽曲で最も好きな楽曲「大好物」を生で聴くことができてよかった。この楽曲の2番〈うつろなようでほらまた 幸せのタネは芽生えてる〉の"幸せ"の部分で、草野の歌い方が若干ではあるが、優里のような発声になっているような気がした。意図的なのかそうでないのか真意は分からないが、これも様々なアーティストが会するイベントならではといったところだろうか。彼らは3年ぶりにイベントを開催できた喜びを嚙み締めながら演奏しているように思えた。そして、アンコールは「白い炎」とラジオ番組『ロック大陸漫遊記』のエンディングでお馴染みの「醒めない」で締めくくられ、会場は多幸感に満ち溢れた――。この日、エレファントカシマシの出番で宮本は、
「スピッツ、ずっとアーティスティックで、優しくて、毒があって、爽やかで……

というようなことを言っていたが、まさにそのアンサーのお手本のようなステージだったように思える。

 

21時半過ぎ、会場を出ると冷たい雨が降ってきていた。スピッツのMC中、キーボードのクジヒロコが、
「今日は「夏が終わる」をやったので、夏は終わりました」
と言っていたが、本当にそんな気がした。東京ガーデンシアターの会場から誘導と帰り客の流れに従って、急ぎ足で有明テニスの森駅へ向かう。行きのときは有明駅だったが、そんなに距離は変わらないようであった。そそくさとゆりかもめに乗ったはいいが、最寄りの駅についたのは、23時を過ぎた頃だった。帰ってから、耳鳴りがしてきた。ライブの後はいつもこうである。ただ、なんと心地のよい疲れなのだろう――。スピッツ、THE COLLECTORS、エレファントカシマシのベテラン3バンドに、唯一の若手アーティスト優里。これほどまでアンバランスなラインアップというのは改めて考えてみてもかなり珍しいといえる。来年はどのようなイベントになるのだろうか。早くも来年のことが待ち遠しくなった。そして来年こそは、自由に声を出すことができるイベントに戻っていてほしいものである。

 

セットリスト
1. 恋する凡人
2. 野生のポルカ
3. 不思議
4. 夏が終わる
5. 正夢
6. ONLY YOU (BOØWYのカバー)
7. メモリーズ・カスタム
8. けもの道
9. 大好物
アンコール
10. 白い炎
11. 醒めない

 

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