タイムテーブルというのは時に無慈悲である。SUMMER SONIC 2022 1日目は、King Gnuとザ・クロマニヨンズの出演時間がおおむね重なっていたのである。今を時めく脂の乗ったKing Gnuか、はたまたロックンロールの金字塔クロマニヨンズか――。この選択は当日の午後まで悩んだ挙句、ザ・クロマニヨンズに軍配が上がることとなる。そこには、筆者の悲しい悲しい出来事が起因していた。というのも筆者は3月、ザ・クロマニヨンズのライブに行く予定だったのだが、その当日ウイルス性胃腸炎で発熱症状が出てしまい、念願が叶わなかったのである。また、純粋にザ・クロマニヨンズが好きであり、話題性やトレンドで音楽を判断してはいけないということは、先ほどのTHE LINDA LINDASで学んだ教訓でもあった。また、彼女らの「リンダ・リンダ」のあまりにも素晴らしい"学園祭バンド風"なカバーもザ・クロマニヨンズを選択する追い風になった。紛い物ではなく、本物を観ておきたい――。そのような感情にさせてくれた彼女たちにはある意味で感謝したい。そしてこの選択は正解だった。もしもKing Gnuを選択していた場合、間違いなく後悔していたはずである――。
ザ・クロマニヨンズを観ることが決定したため、マリンスタジアムに行って、また戻ってくるのが面倒になってしまった。すると、必然的にMåneskinではなく、幕張メッセで引き続きFISHBONEを観ることになった。これも、FISHBONEの方を選択してよかったと思っている。Måneskinは音源を聴いたときに、どうしてここまで話題になっているのか全くといいほど理解できず、全然ピンと来ていなかったのだ。その認識を覆すために、実際に彼らの演奏を観に行くという手もあったが、そうはしなかった。先ほど、話題性のみで観に行き失敗した反省をここでも積極的に生かしていく。人は失敗から成長するとはよく言ったものだ。MOUNTAIN STAGEのラウンジの方で買った、驚くほど薄っぺらいポークサンドとコカ・コーラを飲みながら、FISHBONEの演奏が始まるのを待つ。会場が暗転し、まもなく演奏が始まる。とにかくファンキーである。一つの芯で貫いている感じが最高にかっこいい。左右のスクリーンの映像はない。とにかくシンプルにステージ上にいるバンドメンバーを見てほしいということなのだろうか。演奏隊の音が大きすぎて、ボーカル/サックスのアンジェロ・ムーアが何を歌っているのかわからないが、音圧とビートのすさまじさにやられてしまった。サックスのインストのパートが随所に差し込まれるのだが、それがまた良かった。途中、アンジェロが何度も舞台袖に行っていたが、これは音響不備のためだったということを後から知る。正直、そのあたりのアクシデントはまったく気にならなかった。また、ベースの音が出ないアクシデントもあったが、百戦錬磨のアドリブで何事も無かったかのように復旧したのも流石であった。アンジェロはライブ終盤、上半身裸で汗を光らせながら、縦横無尽にステージを駆け回っている。56歳とは到底思えぬ筋肉量と熱量。まさに、嵐のように去っていくという表現が相応しいステージであった。
続いて、ザ・クロマニヨンズである。サウンドチェックの段階から既に、ドラムとギターは最高の音を出しており、期待感が高まる。観客の多くはMåneskinとKing Gnuの方に流れていたせいか、PAブースの目の前の方まで来ることができた。そもそも、観客の数なんて関係ないではないか。そこにロックンロールが鳴っていればもうなんだって良いのだ。甲本ヒロトはぴょんぴょん跳ねながら登場。ついにこの眼で本物の姿を見ることができた。1曲目はあいさつ代わりの「クロマニヨン・ストンプ」。シンプルであるが、マーシーの厚みのあるギターと、ヒロトのまっすぐなボーカルが乗せられると、余計なものは一切いらないことがわかる。彼らのライブは"最高"、"楽しい"、"ロックンロールはかっこいい"――。もうそれだけの感想しかでてこないのだが、その密度は半端なく濃いものであった。セットリストはザ・クロマニヨンズの初期から最新アルバム『SIX KICKS ROCK&ROLL』の楽曲までまんべんなく網羅された、まさにオールタイムベストなセットリストであった。ヒロトはMCで「楽しいよ、最高だ」と何度も言っていたが、そのどこまでもストレートな言葉に感動してしまった。最初から最後まで、"最高潮"のライブだった。無心で体を動かし、手を振り上げ、拍手をしていた――。終盤の「エイトビート」、知らず知らずのうちに涙がこぼれてきた。音楽を楽しむことができることの幸せを、改めて感じた瞬間であった。本当に観ることができてよかった。"ザ・クロマニヨンズ・リベンジ"は見事に果たされたのだった。
