三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

スピッツ愛、溢れる——有明サンセット 2022 ライブレポート その1

2022年9月28日と29日、ここでスピッツが主催する「有明サンセット」なるものが開催された。サンセット企画なるものは例年、新木場のSTUDIO COASTにて「新木場サンセット」が開催されていた*1が、2020年限りでSTUDIO COASTが閉業してしまったために、会場の変更を余儀なくされたのだった。会場の東京ガーデンシアターはミュージカルやクラシックコンサートなども行われる音響の良い施設である。筆者が行ったのはイベントの2日目。会場には15分ほど前に到着する。席は3階バルコニー席の後方の方で、座っているとステージの全容が見られるのだが、立ち上がると、スクリーンの一部分が見切れ、天井の方が視界に入ってきてしまう。ところが、例によって前方の客が立ち上がったため(ライブなので当然と言えば当然ではあるが……)、立って観ざるを得ない状況になってしまった。

 

トップバッターはTHE COLLECTORS。彼らを観るのは、2018年ぶりのことである。前回は彼らが何者なのかわからず、しかも眼鏡を忘れていってしまったためその顔も良く見えず、てっきり若手のバンドだと思っていたら、キャリア30年以上のベテランバンドであった。ボーカルの加藤ひさしは全身に大きなユニオン・ジャックがあしらわれたモッズ・スーツを身に纏い、艶のあるハイトーンボイスを響かせ、古市コータローはセミ・アコースティックギターで太いサウンドをかき鳴らしていく。もはやお馴染みとなったいつもの光景である。イベントで恒例となったスピッツのカバー曲は、アルバム『おるたな』に収録された「シャララ」。スピッツがこれまで一度もライブで披露していない楽曲からの選曲とのことであった。そしてこれが、この日の彼らのステージで一番良かったように思える。

 

のちのMCで草野マサムネはこの曲について、
「コレクターズの"養分"の強い曲」
とコメントをしていたが、まさにお誂え向きといった感じのカバーであった。ただ、4年前に比べてインパクトはなかったように思える。少しだけ進行のテンポが悪いような感じがしたからだろうか。古市はかつて池袋駅で、エレファントカシマシの宮本浩次に遭遇した話もしていた。宮本は、
「この辺(池袋駅)もだいぶ変わりましたね~」
と言って、古市に近づいてきたという。コレクターズとエレカシ、これまで接点があるようでまったくなかったというから驚きである。その理由はなんとなく想像できてしまうが……。

 

続いて、優里のステージである。優里といえば2021年「ドライフラワー」で一躍時の人、とまではいかないが、ある程度の知名度を上げたアーティストである。例によってこの日も一曲目は「ドライフラワー」であり、会場は、
「お、来た来た」
という感じの雰囲気が充満した。彼の歌声はライブで実際に聴くと、思いのほか掠れていたので驚いた。草野はMCで、
「優里君のね、声を張り上げたときの掠れる声、あれね、すごく好き」
という風に言っていたが、確かに、そこにある種のフェティシズムを感じるのもわかるような気がした。彼の本領は意外にもそこにあるのかもしれない。音響の方はあえてそうしたのかもしれないが、全体的に音が小さく、ドラムの音は特に小さいと思った。ストリートライブからコンサートホールへ至ったサクセスストーリー――。


「30分間、一生懸命、歌、届けます、聴いてください」
そのキラキラとした佇まい、若さや青さを感じる。歌唱時の独特な発音に違和感を覚えながらも、ライブは順調に進行していく。彼もまたスピッツのカバー「夢じゃない」を披露していたが、こちらのほうはすんなりと入ってきた。曲の力だろうか。スピッツの楽曲は誰が歌っても、それなりのものに変質する魔力のようなものがあるのだろうか。コレクターズ、エレカシ、スピッツという、メンバーが軒並み50歳以上という、ベテランバンドのラインアップに混じった中で、あまりにもフレッシュなアクトであった。「有明サンセット」前半戦は、"スピッツ愛"と"リスペクト"に溢れたものとなった。

 

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*1:2013年のみ「横浜サンセット」が開催された