三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

コロナ禍エレジー

某日の午後、友達から突然、電話がかかってきた。喉が痛く、熱もあり、今流行りの例のあのウイルスに感染してしまったかもしれないということであった。というわけで、注文があった品々を自宅の前まで"差し入れ"を届けることにした。近所の薬局に寄る。どの風邪薬を購入すればよいのかわからなかったので、薬剤師から色々と教えてもらうことにした。薬剤師は50代前後と思われる女性で、マスクで顔は隠れてしまっているが、非常に快活な印象を受けた。
「熱が出て――喉も痛い?あらーそれは大変。まずは熱を下げないといけませんね。風邪薬というよりは解熱剤の方が先です。なんといっても風邪薬は高いですから。この薬は一回2錠飲めば大丈夫。そして、水分を十分にとってもらってください。経口補水液がおすすめです。こっちの方が安くておいしいけど――はい、じゃあこっちにしましょう。あとは、ポカリスエットも買っておきましょう。それから食事は――食べられないということだったら、ウイダーインゼリーを買ってあげましょう。とりあえずある分だけ買いましょうか。あ、栄養ドリンクはリポビタンDではなく、タウリンが3000は入っているこちらの商品の方が――」


マシンガンのようであるが、的確な薬剤師の指示が飛び、自分はそれに導かれながら買い物カゴへと救済の品々を入れてゆく。
「ご家族ですか、それとも――ああ、お友達のために?まあ、なんていい友達なのかしら!私にはそんな人いないわねぇ、はっはっは――お大事にしてくださいね」
「はあ、そうですか……」
無難な返答して、会計を済ませ店を出る。外は日が傾き始めていた。バイクにまたがり、大急ぎで友達の家へ向かう。家に到着し、新型コロナウイルスに感染している疑いがあり対面することができないので、依頼されたものが入った袋をドアの前に置く。家の近くから電話をかけてみると具合の悪そうな声が聞こえてきた。先ほどの薬剤師のように、つらつらと説明した。友達は、
「――はい……、――はい……」
と、消え入るような声で返事をしている。よほど具合が悪いようである。それから数日経って、友人はようやく病院の予約をとることができ、検査を行ったようである。結果は陰性。聞くところによると、咽頭炎という診断が下されたようだ。なんとも紛らわしい。若干肩透かしを食らった気分である。とはいえ、こちらもなかなか大変な病気であることには変わりはない。こうして書いている今はもう元気にしているが、あの時もっと早く受診することができていれば、もっと楽に治すことができたかもしれない――。

 

新型コロナウイルスが流行してからというもの、発熱で病院に行くことが困難なものになってしまった。というのも、"発熱外来"なるもので、どこの病院も別個に電話で予約をする必要が生じてしまったのである。――あれは高校時代、コロナ禍以前の世界を生きていた時のこと。午後から急に具合が悪くなり、節々の痛みや倦怠感があったため、学校終わり病院に直行することにした。予約などもしていない、いわば駆け込みである。無論、マスクなども着けていない。症状からインフルエンザの検査を受けることになり、鼻に検査の棒を突っ込まれ、数十分待ったのち、インフルエンザの陽性であることが判明した。その時は、別段隔離されているわけでもなく、待合室で結果を待ち、いわゆる普通の風邪の時と同様の運用がなされたような記憶がある。その後、処方された薬を飲み、熱はあっという間に下がり、元気になった。個人的には、このスピード感があったからこそ、そこまで苦しむことなく、早く回復することができたように思える。

 

それから時は経ち、2020年から始まったコロナ禍、筆者はその間一度だけ熱が上がったことがある。仕事中、突然節々の痛みと倦怠感が襲ってきた。額に手を当てると熱もあるようである。また、それらの痛みに紛れつつ腹痛もあった。ただ事ではなかったので、仕事を早く切り上げ帰宅した。余談であるが、その日はザ・クロマニヨンズのライブ当日であった。家に帰った後も熱は上昇を続け、ライブは断念することになった。その日は、熱に侵されそのまま倒れるようにして寝た。翌日、病院へ行く。現在、発熱した場合は、先にも書いたように電話での予約が必須となる病院がほとんどとなっている。まず、自宅から一番近くの内科病院に電話をかけてみる。すると、
「本日の発熱外来の予約は、すでにいっぱいです」
という返答がなされた。そんなことってあるのか……。そこからまた少し離れた病院にかけてみる。ところが、結果は同じ。具合が悪いのにもかかわらず、何とも酷なことをさせるではないか。3件目の病院も予約で埋まっていたようであったが、予約の比較的取りやすい病院をいくつか教えてもらった。そして4件目、ようやく予約が取ることができた。熱のせいで頭痛が酷い、そして数十分に一回のペースでトイレに駆け込んでいる。はたしてこれは――例のウイルスではないような気がしてきていた。

 

病院には別の入り口から入り、防護服を着た人が待ち構えていた。そこで、診察を行う。
「症状はいかがですか?」
「昨日から熱がありまして、頭痛とあとは下痢と……」
「念のため抗体検査をしましょうねー」
そう言われ、鼻に検査棒が突っ込まれる。検査時は筆者と実施者が直接接触しないように、アクリル板で隔てられ、アクリル板に取り付けられた手袋で検体キットを操作していた。なんだか、地球外生命体になった気分であった。それから別室に隔離された。正直横にさせて欲しかったが、部屋の中には木製の小さな丸椅子がぽつんと置いてあるだけであった。椅子にうなだれるようにして座って数十分、医師が結果の発表にやってきた。検査の結果は陰性、ウイルスの感染は無しということでった。
「コロナウイルスというわけではないですねー。抗体検査の結果もすべて陰性ですねー。症状を伺いましても……まあ、ウイルス性の胃腸炎といったところでしょうか」
「はあ、そうですか……」
薬をもらい、病院を後にする。それにしてもこの厳重っぷり。数年前とは医療の体制が様変わりしていることをまざまざと見せつけられた。ちなみに、この時の経験を友人に話した矢先、先に書いたように友人にも発熱の症状が出た。友人も病院の予約にかなりの時間を要したという。果たして医療とは何か、病院の役割とは何なのか。ここで議論することはあえてしないが、ひとつ述べるなら――早く制約のない以前のような生活に戻ってほしいということだけである。