三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

マイ・ネーム・イズ・ビリー・アイリッシュ――藤井風 ライブレポート HIT ME HARD AND SOFT TOUR 後編

17時ちょうど、会場内が暗転する。それと同時に一斉にスマートフォンの明かりが点灯し、場内は夜景のような光の点に様変わりする。まもなく観客のどよめきを切り裂くように、インストゥルメンタルが始まった。ロバート・マイルズの「Children」を思わせるク…

ビリー・アイリッシュ百景――藤井風 ライブレポート HIT ME HARD AND SOFT TOUR 前編

人だかりのさいたま新都心。その格好は様々であったが、多くの人はオーバーサイズの半袖短パンにバンダナのスタイルであった。そう、今日はビリー・アイリッシュのライブが開催されるのである。アーティストの格好を真似するファンの構図というのはよくある…

ニッポン大衆芸能の極致を目撃シタ!――サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」さいたま公演 ライブレポート 後編

サザンオールスターズのさいたまスーパーアリーナ公演にやって来た一人の青年。幸運にもアリーナ席の前方エリアという座席を引き当て、夢か現か区別もできぬまま、ただその演奏に圧倒されるばかりであった。「愛の言霊 ~Spiritual Message~」のカオスを目…

ニッポン大衆芸能の極致を目撃シタ!――サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」さいたま公演 ライブレポート 前編

令和7年2月8日、さいたま新都心駅の近代的なアーケードを抜けると、澄み渡った青空が広がっていた。ヒュルリヒュルリとビルの風、すごい勢い吹いてくる。強烈な冬の寒波が列島の、各所を回るこの日の風は、いつにも増して鋭く冷たい。薄着タイツのお姐さん、…

三浦的2024年ベスト・アルバム5選――洋楽編

1. Foster the People - Paradise State of Mind 「Sacred Hearts Club」以来、実に7年ぶりとなった作品である。もともとはより短いスパンでアルバムを出す予定であったが、コロナウイルスの流行により計画が頓挫し、結局2020年に『In The Darkest of Nights…

三浦的2024年ベスト・アルバム5選――邦楽編

1. 米津玄師 - LOST CORNER 企業のCM曲、映画、ドラマ主題歌。音楽業界においてはしばしばタイアップなどと言われるが、現在最も引っ張りだことなっているのは米津玄師、その人だろう。筆者の中で最も印象的であったのは、映画『君たちはどう生きるか』のエ…

三浦的2023年ベスト・アルバム5選――洋楽編

1. Foo Fighters - But Here We Are 2022年3月25日、バンドのドラマー、テイラー・ホーキンスが突然この世を去った。フロントマンに次ぐ"要"は、世界的なバンドともなると必ずいるものであるが、彼はまさしくそんな存在だった。フロントマンのデイヴ・グロー…

三浦的2023年ベスト・アルバム5選――邦楽編

1. BUCK-TICK - 異空 -IZORA- BUCK-TICK"第一期"の最終形態にして最高傑作。ゴシックな世界観をこれ以上にないほど極限まで構築しきった完璧な作品である。30年以上のキャリアにもかかわらず、このような先鋭的な作品を生み出した事実には驚くばかりである。…

官能と洗練――Red Hot Chili Peppers The Unlimited Love Tour 2024 東京ドーム公演 ライブレポート

午前中までの雨が嘘だったかのように止み、夕暮れ時の心地の良い風が吹いてきた。会場の東京ドームには開演2時間前に到着したが、既に多くの人が集まっていた。見たところ、30代から40代くらいの男性が多いような印象であった。おそらくは世代的に2006年の『…

日光をゆく 鬼怒川温泉編

www.miuranikki.com www.miuranikki.com 日光東照宮まで、行きはバスであったが、帰りは歩いて東武日光駅に行くことにした。途中でいくつか事前にチェックしていた店に寄る。まず行ったのは「三ツ山羊羹本舗」という羊羹専門店。1895年創業の老舗である。水…

日光をゆく 日光東照宮編Ⅱ

www.miuranikki.com 初詣がてら、日光東照宮に参拝する。入口にて参拝料1600円を家康公にせしめられた後、豪華絢爛な陽明門を抜け、御本社へと向かう。靴を脱ぎ、御本社廻廊を歩く。1月の日光である。当然ながら床は冷たい。冬の朝一番の体育館を靴下だけで…

日光をゆく 日光東照宮編Ⅰ

目覚まし時計が鳴る。6時15分、窓の外はまだ暗い。今日は日光東照宮へ初詣に行く。支度していると友人Aから、電車に乗り遅れたというメッセージが送られてきた。この友人Aというのは生粋のメタラーであり、弊ブログにも何度か登場している*1。メタラーは時計…

トム・ヨークと友人E――Everything Tour 東京ガーデンシアター公演 ライブレポート 後編

一緒に来ていた友人Eとは座席が違っていたため、途中で別れる。EというのはRadioheadの熱狂的なファンであり、その容姿や動き、さらには歌声までトム・ヨークにそっくりであった。そんな彼から誘いを受け、ライブに行くことになったのだった。エスカレーター…

トム・ヨークと友人E――Everything Tour 東京ガーデンシアター公演 ライブレポート 前編

「そういえば、奥田民生のライブには行かないんですか?今年(2024年)の10月にありますけど。両国国技館でやるバンド編成と"ひとり股旅"形式のライブ――」「いや、そっちには行かないっすねー。迷うんですけどねー。まあ、代わりと言ってはアレですけど、次は…

父と山に登った日のこと――鳥海山をゆく 後編

鳥海山登山は、いよいよ終盤に差し掛かってきた。相変わらず父は、平地の道を進むかの如く平然と登ってきている。上半身は無駄な肉が削ぎ落されている一方で、それを支える足腰は強靭だ。まさに、山を登るために最適化された体であるといえる。身に纏ってい…

父と山に登った日のこと――鳥海山をゆく 前編

「あ、今日は見えてる」トンネルを抜け、橋に差し掛かると、運転席側の車窓には秋田市街を一望できる景色が広がっていた。ほとんどが背の低い住宅地であって、秋田駅前の栄えているところだけ一極的にビルが立ち並んでいる。銀色に反射している円形の建物は…

三浦的2022年ベスト・アルバム5選――洋楽編

1. The 1975 - Being Funny in a Foreign Language 2年間もベストアルバムを選んでこなかったことを本当に申し訳なく思っている。でもそんなことを言っている暇はないんだ。とにかく今は前に進み続けなくちゃいけない。まず初はThe 1975の『Being Funny in a…

昆虫と民藝Ⅱ: 虫藝(昆虫が創りし工藝)

前回以下の記事で、民藝とイラガの繭の共通項について考えた。 www.miuranikki.com 柳宗悦は民藝とは、民衆が用いる工藝品を指し、日常生活と切り離せない必要不可欠なものであると定義した。また、その美しさというのは一切の無駄を排し「なくてならぬもの…

もう60(ロクジュー)だからと言うことで――奥田民生 GOZ LIVE AT RYOGOKU KOKUGIKAN ライブレポート

選挙に行った。献血にも行った。曇天なのに、心は晴れやかだ。気合もみなぎる。2024年10月27日、今日は奥田民生のライブがある。会場の両国国技館に来たのは、かれこれ中学校の修学旅行以来だった。両国国技館の外周には四股名の書かれたのぼり旗ではなく、"…

昆虫と民藝Ⅰ: イラガの繭と柳宗悦

ある冬の日。葉のすっかり落ちた満天星(ドウダン)の枝元に、小指の第一関節にも満たない大きさのものが、ちょこんと乗っかっているのを見つけた。イラガの繭だった。イラガと言えば、幼虫時代は黄緑色の鮮やかな色をしていて、体色と同じ色のスギの葉のよう…

フィクションから現実――HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024 さいたまスーパーアリーナ公演 ライブレポート 後編

仕事にも精が出る、木曜の午後――。「treveling」では冒頭、そのようにアレンジされて歌われ、会場はこの日一番の盛り上がりを見せる。〈タクシーもすぐつかまる〉と〈不景気で困ります〉のところではコールアンドレスポンスが起こる。今年、23年の時を超えて…

現実からフィクション――HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024 さいたまスーパーアリーナ公演 ライブレポート 前編

仕事にも精が出る、木曜の午後――。だって今日は宇多田ヒカルのライブに行くのだから。この日のために、ここ1ヶ月くらい宇多田ヒカルの曲は一切聴かなかった。その方がより曲を実感できると思ったからだ。喉が潤っている状態で飲む水よりも、カラカラの状態の…

父と山に登った日のこと――秋田駒ヶ岳をゆく 後編

www.miuranikki.com 秋田駒ヶ岳(以下、駒ヶ岳)、男岳の山頂に向かう道を歩いていると、いわゆる"ガレ場"に差し掛かった。ここは大小さまざまな大きさの岩が無造作に散らばっている。周りの登山客があたふた登っていく中、父は階段を登るかのようにいとも簡単…

父と山に登った日のこと――秋田駒ヶ岳をゆく 前編

2024年6月某日。この日は秋田駒ヶ岳(以下、駒ヶ岳)に登ることになっていた。駒ヶ岳は、秋田県仙北市と岩手県岩手郡雫石町に跨がってそびえる活火山。標高は一番高いところで1637メートルある。県内最高峰の山だ。簡単な朝食をとってから、6時50分頃出発する…

次世代(NEX GEN)ライブ体験記録Ⅱ――SUMMER SONIC 2024に行ってきた その5

www.miuranikki.com 「Kool-Aid」では、センタースクリーンにグロテスクな3Dのクリーチャーが映し出される。女性のマネキンのような体に羽が生えており、所々に傷がつき血が滲み出てきている。ゾンビのような姿をした天使は楽曲に合わせて無造作に動き、曲が…

次世代(NEX GEN)ライブ体験記録Ⅰ――SUMMER SONIC 2024に行ってきた その4

すっかり日が傾いたMARINE STAGEには秋の風が吹いてきていた。厳かで密やかな祭りのようなクリスティーナ・アギレラのアクトが終わり、音響設備のテントのすぐ真ん前を陣取る。いよいよお待ちかね、Bring Me The Horizon(以下、BMTH)の時間である。今年から…

オトナブルーとブルーなオトナたち――SUMMER SONIC 2024に行ってきた その3

昼食から戻ってきて最初のMOUNTAIN STAGEのアクトは新しい学校のリーダーズだった。彼女たちはInstagramのオススメ動画にやたらと上がってきた時期があり、その時に知った。確か世にコロナが蔓延する前だったと思う。当時は、アメリカを拠点に活動している風…

ラウパの香り、フェス飯の情緒――SUMMER SONIC 2024に行ってきた その2

幕張メッセのPACIFIC STAGEに近づいた途端、LOUD PARKに迷い込んでしまったのかと錯覚するような重低音が聴こえてきた。英語でも日本語でもない言語に乗せて演奏するそのアーティストは、調べてみるとタイのBodyslamというバンドのようだった。なるほど、今…

台風9号VSクリエイティブマン――SUMMER SONIC 2024に行ってきた その1

あの夏が、ヤツらが今年もやってくる。SUMMER SONIC 2024、そのイベントである。とはいえ今年はその開催自体が揺るがされかねない事態があった。それは台風9号の存在である。さかのぼること2024年8月16日金曜日。日本列島に、嘘かホントかあの"伊勢湾台風"並…

花蕾と残雪の卒業式

中学校の卒業式当日。2年生の自分たちは先に体育館に入り、整然と並べられたパイプ椅子に腰かける。いつもは授業や部活動で使っている何の変哲もない窓は紅白幕で覆われ、演台には荘厳な盆栽が飾られている。来賓席と教員の席のテーブルの上からは白い布がか…