宮本浩次の「俺と、友だち」日本武道館公演はいよいよ中盤、第2部に差し掛かる。宮本は黒シャツから白シャツに装いを改めて登場し、コードを軽く弾いて始まったのはエレファントカシマシの「Hello. I love you」だ。先ほどの「It's only lonely crazy days」…
九段下、退勤ラッシュ、いつもとは違う電車。「大きな玉ねぎの下で」を断片にした発車メロディーを背に、2番出口の表示を探す。入り組んだ地下鉄の通路をアップダウンし、長い階段を上ってようやく外に出る。たちまち、東京の疲労を凝縮したような悪臭が立ち…
眠い目を擦り外を見やる。雲一つない、まさに絵に描いたような秋晴れだ。ベッドでしばらくダラダラとした後、洗濯物を干すためにとりあえず起き上がってみる。昨日まで秋田の実家にいたが、その時は生活が安定していたような気がする。生活はあっという間に…
コンサートはまだ始まったばかりであったが、一寸の余地もないほど濃密な時間が流れていく。観客は一音も逃すまいと、全身全霊でひたすら対峙する。エンターテイメントを超越した神事のような緊張感が場内に充満していた。「ブワァー」と立て続けに数回、「…
千代田線車内、電車は東京の中心部へと向かっていた。朝も夜も変わらない、地下鉄の暗くて長いトンネル。数分おきに駅のホームに到着し、その度に蛍光灯の白い光が充満する。まずはホームドア、それから電車のドアが開き、車内の人々の風景が目まぐるしく流…
川沿いの彼岸花が枯れていた。夏の暑さがもう遠い昔に感じられるようになった今日この頃、私はエレファントカシマシの日比谷野外大音楽堂で行われたコンサートについて書いていた。いわゆるライブレポートというものである。当時、五感を通して刻印された記…
17時ちょうど、会場内が暗転する。それと同時に一斉にスマートフォンの明かりが点灯し、場内は夜景のような光の点に様変わりする。まもなく観客のどよめきを切り裂くように、インストゥルメンタルが始まった。ロバート・マイルズの「Children」を思わせるク…
人だかりのさいたま新都心。その格好は様々であったが、多くの人はオーバーサイズの半袖短パンにバンダナのスタイルであった。そう、今日はビリー・アイリッシュのライブが開催されるのである。アーティストの格好を真似するファンの構図というのはよくある…
サザンオールスターズのさいたまスーパーアリーナ公演にやって来た一人の青年。幸運にもアリーナ席の前方エリアという座席を引き当て、夢か現か区別もできぬまま、ただその演奏に圧倒されるばかりであった。「愛の言霊 ~Spiritual Message~」のカオスを目…
令和7年2月8日、さいたま新都心駅の近代的なアーケードを抜けると、澄み渡った青空が広がっていた。ヒュルリヒュルリとビルの風、すごい勢い吹いてくる。強烈な冬の寒波が列島の、各所を回るこの日の風は、いつにも増して鋭く冷たい。薄着タイツのお姐さん、…
1. Foster the People - Paradise State of Mind 「Sacred Hearts Club」以来、実に7年ぶりとなった作品である。もともとはより短いスパンでアルバムを出す予定であったが、コロナウイルスの流行により計画が頓挫し、結局2020年に『In The Darkest of Nights…
1. 米津玄師 - LOST CORNER 企業のCM曲、映画、ドラマ主題歌。音楽業界においてはしばしばタイアップなどと言われるが、現在最も引っ張りだことなっているのは米津玄師、その人だろう。筆者の中で最も印象的であったのは、映画『君たちはどう生きるか』のエ…
1. Foo Fighters - But Here We Are 2022年3月25日、バンドのドラマー、テイラー・ホーキンスが突然この世を去った。フロントマンに次ぐ"要"は、世界的なバンドともなると必ずいるものであるが、彼はまさしくそんな存在だった。フロントマンのデイヴ・グロー…
1. BUCK-TICK - 異空 -IZORA- BUCK-TICK"第一期"の最終形態にして最高傑作。ゴシックな世界観をこれ以上にないほど極限まで構築しきった完璧な作品である。30年以上のキャリアにもかかわらず、このような先鋭的な作品を生み出した事実には驚くばかりである。…
午前中までの雨が嘘だったかのように止み、夕暮れ時の心地の良い風が吹いてきた。会場の東京ドームには開演2時間前に到着したが、既に多くの人が集まっていた。見たところ、30代から40代くらいの男性が多いような印象であった。おそらくは世代的に2006年の『…
www.miuranikki.com www.miuranikki.com 日光東照宮まで、行きはバスであったが、帰りは歩いて東武日光駅に行くことにした。途中でいくつか事前にチェックしていた店に寄る。まず行ったのは「三ツ山羊羹本舗」という羊羹専門店。1895年創業の老舗である。水…
www.miuranikki.com 初詣がてら、日光東照宮に参拝する。入口にて参拝料1600円を家康公にせしめられた後、豪華絢爛な陽明門を抜け、御本社へと向かう。靴を脱ぎ、御本社廻廊を歩く。1月の日光である。当然ながら床は冷たい。冬の朝一番の体育館を靴下だけで…
目覚まし時計が鳴る。6時15分、窓の外はまだ暗い。今日は日光東照宮へ初詣に行く。支度していると友人Aから、電車に乗り遅れたというメッセージが送られてきた。この友人Aというのは生粋のメタラーであり、弊ブログにも何度か登場している*1。メタラーは時計…
一緒に来ていた友人Eとは座席が違っていたため、途中で別れる。EというのはRadioheadの熱狂的なファンであり、その容姿や動き、さらには歌声までトム・ヨークにそっくりであった。そんな彼から誘いを受け、ライブに行くことになったのだった。エスカレーター…
「そういえば、奥田民生のライブには行かないんですか?今年(2024年)の10月にありますけど。両国国技館でやるバンド編成と"ひとり股旅"形式のライブ――」「いや、そっちには行かないっすねー。迷うんですけどねー。まあ、代わりと言ってはアレですけど、次は…
鳥海山登山は、いよいよ終盤に差し掛かってきた。相変わらず父は、平地の道を進むかの如く平然と登ってきている。上半身は無駄な肉が削ぎ落されている一方で、それを支える足腰は強靭だ。まさに、山を登るために最適化された体であるといえる。身に纏ってい…
「あ、今日は見えてる」トンネルを抜け、橋に差し掛かると、運転席側の車窓には秋田市街を一望できる景色が広がっていた。ほとんどが背の低い住宅地であって、秋田駅前の栄えているところだけ一極的にビルが立ち並んでいる。銀色に反射している円形の建物は…
1. The 1975 - Being Funny in a Foreign Language 2年間もベストアルバムを選んでこなかったことを本当に申し訳なく思っている。でもそんなことを言っている暇はないんだ。とにかく今は前に進み続けなくちゃいけない。まず初はThe 1975の『Being Funny in a…
前回以下の記事で、民藝とイラガの繭の共通項について考えた。 www.miuranikki.com 柳宗悦は民藝とは、民衆が用いる工藝品を指し、日常生活と切り離せない必要不可欠なものであると定義した。また、その美しさというのは一切の無駄を排し「なくてならぬもの…
選挙に行った。献血にも行った。曇天なのに、心は晴れやかだ。気合もみなぎる。2024年10月27日、今日は奥田民生のライブがある。会場の両国国技館に来たのは、かれこれ中学校の修学旅行以来だった。両国国技館の外周には四股名の書かれたのぼり旗ではなく、"…
ある冬の日。葉のすっかり落ちた満天星(ドウダン)の枝元に、小指の第一関節にも満たない大きさのものが、ちょこんと乗っかっているのを見つけた。イラガの繭だった。イラガと言えば、幼虫時代は黄緑色の鮮やかな色をしていて、体色と同じ色のスギの葉のよう…
仕事にも精が出る、木曜の午後――。「treveling」では冒頭、そのようにアレンジされて歌われ、会場はこの日一番の盛り上がりを見せる。〈タクシーもすぐつかまる〉と〈不景気で困ります〉のところではコールアンドレスポンスが起こる。今年、23年の時を超えて…
仕事にも精が出る、木曜の午後――。だって今日は宇多田ヒカルのライブに行くのだから。この日のために、ここ1ヶ月くらい宇多田ヒカルの曲は一切聴かなかった。その方がより曲を実感できると思ったからだ。喉が潤っている状態で飲む水よりも、カラカラの状態の…
www.miuranikki.com 秋田駒ヶ岳(以下、駒ヶ岳)、男岳の山頂に向かう道を歩いていると、いわゆる"ガレ場"に差し掛かった。ここは大小さまざまな大きさの岩が無造作に散らばっている。周りの登山客があたふた登っていく中、父は階段を登るかのようにいとも簡単…
2024年6月某日。この日は秋田駒ヶ岳(以下、駒ヶ岳)に登ることになっていた。駒ヶ岳は、秋田県仙北市と岩手県岩手郡雫石町に跨がってそびえる活火山。標高は一番高いところで1637メートルある。県内最高峰の山だ。簡単な朝食をとってから、6時50分頃出発する…