はじめに
インターネットの大衆化は、同時にそれを悪用してやろうとする輩の増加も意味する。これはある種当然の摂理とも言えるが、飲食店においては近年その流れが特に加速化してきているような印象がある。ここでいう悪用とは、自らの利益のためにレビューをいいように仕向けようとする不届き者のことを指す。良い店が正当に評価される。これはまったく問題ないのだが、さして良くもない店がハリボテのように評価を塗りたくっているのを見ると実に滑稽極まりない。「客のために良いサービスを提供する」という、いたって当たり前のプロセスが剥落している店は、半ば詐欺師と同等の扱いを受けてしかるべきである。
なぜ、ここまで語気を強めて書いているのか。それは、居酒屋が好きだからである。そういう店に行く人が一人でも少なくなってほしい――。そんな思いでただただキーを打ちを進めている。とは言ったものの、インターネットには情報が溢れかえっている。大衆化によってゴミの山と化した検索エンジン。大きな視点として、まずはそこから何とかして適切な情報を得て、余計な情報を選別しなければいけない。これからはそういう時代になってくる。少なくとも、この記事で書かれている捨象の手段を身につけてさえいれば、イマイチな店に当たってしまうことはないはずだ。
さて、世の中には沢山のグルメサイトが存在している。中でも最も有名なのは食べログであろう。食べログは、2010年代こそその業界を席巻している流れがあったが、点数を操作しているという不公平な点数付けが話題となって以来、威勢を弱めている。事実、かつて学生時代にアルバイトしていた店も、もちろん婉曲的ではあるものの、食べログにお金を出せばいい評価になるといった旨の営業がきたことがあったようだ。代わりに台頭してきたのはGoogle マップのレビュー。これは、純粋に、ユーザーのレビューの点数の平均がそのまま点数として反映される。また、Google ローカルガイドという半ばボランティアのような仕組みがあり、Google マップの情報を充実させるために、店や場所の情報を随一投稿する物好きが存在している(なお、筆者もまた物好きの一塊である)。
確かに、店側に不利すぎることが書かれている場合は、それが事実であっても削除される、などということもあるようだが、少なくとも食べログのようなブラックボックス的な点数システムと比べればまだ公平性が保たれていると言える。2020年代、食べログがすでに店側の癒着によって機能していない、中南米の公安のような位置付けになっていると仮定すると、このサイトは一刻も早く検索エンジンからブロックすべきである。そこまで強い言葉で書かなくとも、過去の遺物として、鼻で笑う程度に留めておく方が賢明な判断であると言える。そんなわけでこの記事では、Google マップのレビューに焦点を絞って、5つの視点から書いてみることにする。
1. 「役に立った」の数が、低評価レビューに多い
Google マップのレビューには、投稿の下の方に
「👍役に立った 👎」
という表示が存在している。これは、投稿者以外が「👍」あるいは「👎」で評価することで、その質が担保されるという仕組みである。そこには正直さが介在する。というのも「👍」を押したことでユーザーに不都合があるわけではなく、評価の瞬間というのは、かかる投稿に納得したという事実以外何もないからだ。「確かに」、「分かる」という人が「👍」と「👎」どちらに向くかというのはその件数以上に重要な指標だ。低評価のレビューに「役に立った」が10~20件あるという店は要注意である。レビューをすることそれ自体は「サクラ」で何とでもなるが、「👍役に立った」に関してはそうはいかないのだ。
一例に挙げたのは、上野某所の居酒屋のレビュー。サプライズに失敗するという致命的なミスから始まる冒頭の緊張感。この一文だけで、管理のずさんさ、接客に対する意識の低さが見え透いてくるのがなんとも見事だ。メインと思しき、鍋についても「嫌がらせ」かと思う程のクオリティの低さということで踏んだり蹴ったりである。会社の飲み会で利用したという投稿者の、二度と行くもんかと腹を立てながら入力した指の力強さまで伝わってくる文章である。威風堂々の「👍役に立った 15」。仮にも宴会部長になってしまった場合、こういう記述を発見したら、真っ先に候補から除外すべきである。
2. 店側がレビューにこまめに返信しすぎている
これをはなから否定するのははグレーであるが、少なくとも周りからの評価を気にしているという点は事実である。本当に良い店は、そもそもソーシャルなメディアを使わなくとも勝手に人が集まってくるだろうし、そういう人が勝手にプラットフォームになってくれて発信してくれるものである。評価なんぞ気にせずに良い店にならんとする努力をひたすら続けていれば、おのずと結果はついてくるものである。先にグレーと書いたのは、本当に感謝の気持ちでやっている店であれば問題ないということである。他方で、店員がややムキになっているような文体で書かれている場合は要注意である。
文体には性格が滲み出る。低評価をつけたレビューに対し、
「お客様がこんな文句言ってますけどそうじゃないんすわ、かくかくしかじか……。ほら、言ってやりましたわ!」
みたいな勢いで返信があるといった具合である。あーあ、ムキになっちゃってと思ってしまう。それだけでちょっと遠ざかってしまう。現実世界で考えてみてほしい。どんな態度であるにせよ、客に対してそもそもそんなことは言わないだろう。そんなもの別に無視していればいいだろうし、善良なリピーターが訂正のレビューを投稿してくれるかもしれない。あまりにも悪質な場合、Google側に報告が伝わって消してくれる場合もあるようだから、まさに百害あって一利なしである。こういうスタイルの店を発見したら、何もなかったかのようにフェードアウトすることをお勧めする。
3. 低評価が理路整然と描かれている
評判の良い店というのは、高評価は当たり前に良く書かれる。そこで着目するのが低評価である。レビューを読む低評価に「知らんがな」、「どうでもええわ」、「そらそうよ」と思うレビューしかない場合は、逆に良い店の可能性が高い。この、「知らんがな」、「どうでもええわ」、「そらそうよ」の基準は何かといえば、自分の思ったままの感情にゆだねればよい。たとえば低評価が、
「これまで〇百件レビューしてきましたが、こんな店は初めてだったのでレビューします」
なんて書かれていたら要注意である。仏の顔を持ったような人間が、重い腰を上げてわざわざ書くのは少なくとも信ぴょう性は上がるはずだ。要は低評価に納得できるかどうかである。納得できてしまえば問答無用で自分にとっては良くない店、ということになるし、全然納得できなければ逆説的に良い店である可能性がぐっと高くなる。
一例に挙げたのは池袋某所の居酒屋レビュー。率直に言って常識外れという冒頭で、この店がどのようなものなのか一気に惹きつけられる。「堪能」という言葉にダブルクォーテーションを使うことで、皮肉交じりを込めている小技も見逃せない。さて、この店がどんなものか見ていくと、6人で行ったのにもかかわらず一人当たりの量が少ないと書いてある。唐揚げが6人前で6個とは――。さすがに一つ一つが馬鹿でかいものなら許せるものの、この書きっぷりではどうやらそうではないらしい。この投稿者は写真はないが、後半そのことについて、なんと謝罪までしている。無論、謝罪すべきは店側である。極めて論理的かつ誠実なレビュー。そして最後には他のレビュアーに対して検証を促す真摯な姿勢。ちなみに「👍役に立った 13」。先の「1. 」にも当てはまる典型例だ。このようなレビューを見つけたら、ノールックで候補から外されたい。
4. 不自然にレビューの点数が高い
高級フレンチだとかイタリアン、あるいはミシュラン、ビブグルマン等に掲載されるほどの店であれば、最高評価に限りなく近いのもうなずけるが、そうでもない一塊の居酒屋レベルでそのようなことはまずないと考えてしまってよいだろう。ミシュラン3つ星の店でも「☆」の評価は「4.6~4.8」であるが、それと同程度の評価になっている大衆居酒屋は疑いにかかった方がいい。そのカラクリとしては「☆」を「5.0」にしてくれれば「〇〇サービス!」、「〇〇パーセント引き!」といった謳い文句があるパターンが多い。作られた評価というのは居酒屋に限ったことではないが、それを見破る方法としては先の「1.」と「3.」でも書いたようにやはり、低評価を確認するに限る。こういったサクラレビューに関しては、大半の店で低評価に「この店は高評価をするとサービスがあるのでやたらと評価が高いです」などという文言が存在する。こうした文言を見つけたら真っ先に宴会候補から除外しておきたい。
5. 不自然にレビュー件数が多い
これは「4.」と相関性が非常に高い。その辺の居酒屋で500~1000件とかそのくらいの件数になっているのは少し疑った方がいい。確かに超人気店という可能性もあるが、大半の場合は「サクラ」だとか感情のこもっていないレビューである。そのカラクリは先ほども書いたが、口コミをしてもらえればサービスや割引があるといったようなものである。評価するだけでサービスされるならと、客は進んでこの形式的なレビューを快諾してしまうだろうし、評価した画面を店員に見せる場面があるため、低評価にしにくいという心理が働いてしまうのが人の常である。「4.」も当てはまる店の場合、光の速さで除外されたい。
最後に
さて、ここまで5つのポイントについて書いてきたが、この視点をもって確認するクセがつけば少なくとも失敗した!と思うような店に入る可能性はかなり少なくなるはずである。こんなこと、当たり前だよ!そういう人は、ある程度のインターネットリテラシーがあると言える。とはいっても、そうした居酒屋に足を運ぶ人がいる限り、"失敗居酒屋"は今日も何食わぬ顔で営業を続ける。Google マップの口コミを駆使しているとはいえ、筆者は、口コミで人気であるから、話題になっているからという理由だけで店を選ぶことは極力避けている。情報を食べに行くわけではなく、美味しいものを食べたい。最後は自分の好みや感覚が一番大切である。情報をいかに取捨選択していくか、これからはテレビを始めとしたメディアから受動的に情報を得るだけではなく、能動的な視点が大切になってくる。この文章がGoogleの検索エンジンに埋もれることなく、多くの人に届くことを願ってキーボードを打ち終えることにする。