三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

日光をゆく 日光東照宮編Ⅰ

目覚まし時計が鳴る。6時15分、窓の外はまだ暗い。今日は日光東照宮へ初詣に行く。支度していると友人Aから、電車に乗り遅れたというメッセージが送られてきた。この友人Aというのは生粋のメタラーであり、弊ブログにも何度か登場している*1。メタラーは時計なんて見ないのさ。オレはギターのフレットを見るのに忙しくってね――。平生のメタラーならそのように弁明するのかもしれないが、彼の場合は無論、ただの乗り過ごしであった。仕方がないので、家でしばらく本でも読んでから、気を取り直して8時の電車で春日部駅へと向かう。ようやく、旅のスタートである。外は冬の関東らしく快晴だ。「今日は旅だ」と思って最寄り駅に行くと、いつもの風景も何となく新鮮に見えてくるような気がする。春日部駅についてからまだ時間があったので朝食をとる。8時30分頃、駅のホームを右往左往していると、例のAがいた。
「いやー、あけましておめでとうございます。一本遅れてしまいましたねー」
なんとまあ、他人事である。しばらくすると特急リバティがやってきた。ここから終点の東武日光駅まで行く。Aは何の躊躇をすることもなく、窓際の席に座った。

 

住宅地から、徐々に田畑の風景に代わってくる。次第に山が視界に広がってくると、いよいよ首都圏から離れたというのが実感として湧いてくる。これはある意味電車のいいところかもしれない。逆に飛行機だとグラデーションなしに一気に目的地に到着する感じがあって、あまりそうした実感は湧いてこない。最近、本を読んでいると言ってAがカバンの中から取り出したのは、Iron Maidenのボーカリスト、ブルース・ディッキンソンの自伝だった。さすがはメタラーである。たまには音ではなく文字に興じてやろうといったところだろうか。以前は、今の時代は電子書籍だのオーディオブックだの言って筆者に熱弁をふるっていた記憶があったが、どうやら紙に落ち着いたようである。ほら見なさい、人間は最終的には紙なんですよ――。車内は驚くくらいに暑かった。メタルのライブの特殊効果でステージに火柱が上がったときに感じるぼんやりとした熱気に近いものを感じる。窓が開けられれば良いものの、鈍行列車でもないのでそれもできない。隣に座っていた子どもも暑い暑いといって、行ったり来たりしていたが、自分も同じ気持ちである。できることなら「暑い!」と言って発狂( シャウト) したいくらいだった。

 

サザンオールスターズのプレイリストに耳を傾け、数週間後に迫った彼らのライブに想いを馳せていると、あっという間に終点の東武日光駅に到着する。10時30分。思ったよりも人は少ない印象だ。そういえば今日は共通テストの日だったか。とはいえその対象者は高校生(あるいは浪人生)であるからあまり関係はないか――。「中禅寺温泉・湯元温泉行」の日光路線バスに乗り、日光東照宮へと向かう。運転手の応対がこれまでの人生で見た中で最もドライであった。外国人観光客の質問には「ノー」の一点張りで、乗車口であたふたする御歳を召した女性に対しても、早くしてくださいと言わんばかりの口調であり、なぜかこちらが冷や冷やしてしまう。なるほどこれがクールジャパン、観光大国の所作なのかと感心していると、バスは滑らかに進みだした(運転の方はとても丁寧であった)。「西参道入口」というところでバスを降り、そこから日光東照宮まで歩く。すぐ目の前に教会があった。そこからカステラ屋を数件通り過ぎ、色褪せた観光センターやら土産屋やらを通り過ぎていくと、「近道→」と赤いペンキで塗られた場所を見つける。その指示に従って少し歩くと、輪王寺という寺が見えてきた。

 

中に入ろうと思ったが、参拝料がとられるとのことで、引き返して本殿に向かう。不思議なもので音楽のライブチケットの1万円というのは何の名残惜しさもないが、この手の参拝料は話が違うのである。それからちょっと先に大護摩堂があった。ここでは護摩祈願が受けられるといい、札を持った人が続々と入ってきていた。例によって祈願料金の表には
「3千円 5千円 1万円 2万円 3万円 5万円 10万円」
とある。これはグレードが上がるごとに「顕密札」のサイズが大きくなるという仕様。払った分だけ御利益も大きくなるということである。資本主義万歳である。注釈には
「※クレジットカード等のキャッシュレス決済ができるようになりました」
と書いてあった。昨今のキャッシュレスにも対応するまさに"神"対応である。あわよくば外国人観光客も呼び寄せてやろうという算段か。とはいえ坊主のライブ(護摩祈願)に来たわけでもないので、ここでも引き返す。今欲しているものといえば、轟音のロックミュージックであった。そこに行った暁には、邪気など消えてなくなるだろう――。砂利の敷かれた参道は広く、緩やかな上りになっている。一の鳥居をくぐると、いよいよ表門が見えてきた。

 

が、そのまま入ることは徳川公が許してはくれない。しっかりと参拝料がとられる。1600円。もちろん、キャッシュレスも可能である。近くにいた人が、
「前はもっと安かったんだけどなぁ*2……」
とボソッと呟いていたが、昨今の値上げの波はここにも来ているのだろうか。あるいはインバウンド価格か、などという俗な思考をしてしまう。いけないいけない、ここは霊験あらたかな場所であった。信仰のため、ご利益のためなら、お金のことなど考えてはいけないのである。表門の仁王像ばりに表情の強張った警備員に入場券を見せ中に入ると、まず目に入ってきたのは神厩舎(しんきゅうしゃ) という建物であった。別段荘厳な感じもなく、木造の倉庫のような作りの建物だと思った。この直感はあながち間違いではなく、当時はご神馬をつなぐ(うまやとして使われていたのだとか。そんな建物の長押の部分に「見ざる 聞かざる 言わざる」でおなじみの三猿が彫られている。思ったよりも彼らはひっそりいて驚く。がっかりというまでではなく、それこそ"ひっそり"といった感じなのである。この彫刻は正面妻壁に5面、西側桁壁に3面あり、人間の一生が風刺されているのだという。それからいよいよ本殿へと向かう。

 

人波に乗って歩いていると陽明門が見えてきた。金と白を基調とした絢爛豪華な門は、その権力のダイナミズムが直感的に感じられる。日本の寺社仏閣と言えば、黒を基調としたイメージが強いが、白というのはなかなか新鮮である。現在のものは1636年、徳川家光公によって大改修された際のものである。ちなみにこの名前は京都御所にある陽明門の名を朝廷からもらったものなのだとか。「日の暮れるのも忘れて見とれてしまうほど立派である」という事から、別名"日暮し門"とも呼ばれている。とはいえ最初に出た感想は、教科書で見たことがある、であった。確かに立派ではあるのだが、申し訳ないが日が暮れる頃にはとっくのとうに鬼怒川温泉でひと風呂浴びているだろう。陽明門をくぐると同じような金と白を基調とした建物に囲まれる。色彩の暴力。非日常的な風景が広がる。ここには海外からの観光客も多くいた。黄色と黒のジャージを身に纏った学生団体が目に入った。背中には「MACARTHUR ANGLICAN SCHOOL JAPAN TOUR 2025」と書かれており、おそらく修学旅行だとか留学の一環だと思われる。一般的な寺社仏閣であれば、目立つのだろうが、ここに関しては同系色(?)のためか馴染んでいた。彼らはこれを見て何を感じたのだろうか。日光東照宮の参拝はまだ始まったばかりである。(続く)

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*1:

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*2:事実、2024年の3月までは1300円だった

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