三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

鎌倉珍道中⑥——汐入ハニービー 

メタラーの友人Aと行く弾丸旅行、我々はドブ板通り商店街、通称ドブイタへと向かった。ドブイタといえば戦後、アメリカ軍の駐留が開始して以来、発展してきた商店街である。戦後間もない時期こそ反米感情もあったのだろうが、世の中は結局は金である。たとえ敵国の人間であろうと、羽振りが良ければそちらの方に迎合してしまうのが常である。1970年代までの1ドル360円という円安も相まって、この場所も例に漏れずSK-IIばりに潤いまくった。やがて時は経ちドブイタはアメリカのファッションや文化に憧れる若者たちのたまり場となった。時は1970年代後半。X JAPANのギタリストHIDEもその一人であった。通りではハンバーガーやスティックドッグが売られ、アルコールとむせ返る煙に塗れたジュークボックスからは、最先端のポップスやロックンロールが流れた。それから数十年、昼間ということもあったのだろうが、ドブイタのメイン通りはもはや形骸化した、ただの観光地になっていた。雑貨屋に色褪せたスカジャン専門店。これでは上野のアメ横商店街と何ら変わらないではないか——。そんなことを思いながら歩いていると、とあるバーの前に差し掛かった。メインの通りから少し外れた場所である。ドアは開放され、掃除をしているようであった。うす暗い店内を覗いてみると、見たこともないくらいの量のレッドブルが山積みになっていた。米軍御用達の店なのだろうか。濃厚な、夜の残り香を感じた瞬間である。こういう場所は決まって、少し裏にある。

 

ステッカーが隙間なく貼られた、ひときわ目立つ建物が目に入った。かぼちゃ屋というライブハウスである。約40年前、Xに加入前のHIDEはここで横須賀サーベルタイガーのギタリストとしてステージに立った。入り口の一番目立つ場所に、彼の写真のステッカーが貼られていた。それにしてもこの通りはスカジャンの店が多い。一年分のスカジャンを見たといってもいいだろう。少しくらい興味が沸いてくるかとも思ったが、そんなことはなかった。スカジャンといえば2020年代においてはもはや若者のファッションとは言い難い。どちらかといえば、横浜銀蝿やキャロル、矢沢永吉の系譜を継ぐ世代の嗜みのイメージが強い。大変申し訳ないが、筆者にとっては居酒屋で絡まれたら一番厄介なタイプのファッションとして定着してしまっている。昼食時だったので、HIDEゆかりのハンバーガーショップと言われている「HONEY BEE」へ行くことにする。店の前に行くと、既に大行列になっていた。無論、HIDEゆかりの地という認識がないまま並んでいる人がほとんどであろう。冬の横須賀は黙っていると寒い。30分ほど並び、ようやく店内に通される。

 

アメリカンな内装の店内に、開店当初から変わっていないと思われるホワイトボードにレトロなフォントでメニューが書かれている。値段はHIDEが通っていた頃よりも上がり、そのメニューもより観光地ナイズされたものに変わっていると思われる。先ほどの寒さで若干の尿意があったが、なんとトイレが故障中ということで我慢を強いられるというアメリカンな洗礼を受ける。この店は「ヨコスカネイビーバーガー」というのが看板メニューであるらしかったが、 当時のHIDEに倣い、クラシックのチーズバーガーを注文する。
「チーズバーガーは、ネイビーバーガーよりも小さいサイズですがよろしいですか」
などと言われたが、構わない。あくまでもHIDEという聖典に則ったまでである。しばらくすると、ビッグマックと同じくらいのサイズのハンバーガーがやってきた。レタスとトマトにパティ、そこに至極普通のスライスチーズが申し訳程度に一枚挟まっていた。コーラとポテトもセットで付けて、1,800円。Aが注文したネイビーバーガーはそれよりも倍くらいのサイズがあった。筆者のものよりも幾分高く、2,500円くらいであっただろうか。

 

一口頬張ってみると、シンプル極まりない味がした。それもそのはずで、味付けはなんと塩とコショウのみ。バーベキューソースやテリヤキソースに慣れ切った身としてはやや物足りない印象を受ける。ちなみに、隣の客が注文していたハニービーバーガーはその名の通りハチミツがついていて、それをパティに付けながら食べるのだとか。確かに美味しいが、ここまで並んで食べるほどのハンバーガーではないという結論に至る。それは隣で無言で貪っているAもどうやら同じようであった。とはいえ店を出た瞬間は、
「いやー、最高のハンバーガーだったよ」
などと言い合う。そんなわけない。お互い分かり切っている。だがここでどちらかが否定してしまったら、先ほどまで寒空の下、並んだ努力が水の泡になってしまうのだ。世の中には、言わぬが花というものがある。

 

昨日から始まったノープランな旅はいよいよ最終局面を迎える。尿意の方もまた、限界を迎えていた。横須賀駅に戻る途中、Coaska Bayside Stores(コースカ ベイサイド ストアーズ)というショッピングモールへ滑り込む。なんとか、間に合った——。ふと、カプセルトイのコーナーが目に入る。カプセルトイは基本的に欲しいというラインを絶妙に越えてこないものが大半であるが、この日は違っていた。というのも、20年ほど前、富士通のPCにバンドルされていたゲーム「エアホッケー@GAMEPACK」のキャラクターのアクリルキーホルダーがあったのである。一見すると何の変哲もない動物のキャラクターが出てくるエアホッケーゲームなのだが、負けたときの表情に得も言われぬ哀愁があり、とあるYouTuberによってそれが認知されたせいもあってか、半ばカルト的な人気を博していた。中でも筆者の思い入れのあったキャラクターはネズミのちーすけである。雑巾がけの要領で小さな体を動かし必死にプレーする姿に感銘を受けた。なお、このゲームはブラウザゲームとして2025年復活しており、興味がある人は是非ともプレーされたい*1。300円入れ、ガチャガチャを回す。一回転ごとに近づいて来るカプセルの感覚は、独特な高揚感をもたらす。ゴトッという音と共に現れたのはなんと狙っていたちーすけであった。その悲壮感漂う斜め下を向いた表情が見事にアクリルキーホルダーとなっていた。一体誰がこんなものを買うのだろう——はい、私です。これが、唯一の横須賀土産であった。横須賀名物は小泉進次郎のイラストが刻印された進ちゃんまんじゅうでもなければ、ヨコスカネイビーバーガーでもなかった。エアホッケーのちーすけであった。電車が来るまでの間、ヴェルニー公園のベンチに座ってぼんやり海を眺める。旅は案外、何もしていない時間が大事だったりする。
「それにしてもクレイジーな旅だった。また来年、会えるのを楽しみにしているよ——」

Track Listing
01. 鎌倉メタルヘッズ 
02. 由比ヶ浜ストレンジャー  
03. 江ノ島オモイッキリテレビ
04. 藤沢ホッケクラブ 
05. 横須賀スカレー
06. 汐入ハニービー

前回まではこちら

www.miuranikki.com

www.miuranikki.com

www.miuranikki.com

www.miuranikki.com

www.miuranikki.com

 

*1:こちらがブラウザ版のエアホッケーである。ゲームの操作感はあの頃のままであるが、移植するときのゲームバランスを誤ったのか、はたまた意図的なのかは分からないが、間違いなくあの頃よりも難しくなっていた。最も易しいはずのゾウのキャラクター、トロゾウが強すぎるのである。

datt-airhockey.com