三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

灼熱地獄、NewJeans――SUMMER SONIC 2023に行ってきた その2

あれは……悪夢だった。こんな暑さでライブを観たのは初めてだよ。まるでアツアツの鉄板の上に乗っているみたいだった。日本には確か……ああ、そうだ、オコノミヤキだ。まさにそれになった気分だ。しかももっと驚いたのは、とんでもないくらいの人がその場所にいたってこと。日本人は鉄板の上でダンスをするのが好きなのかい?まったく、なんてクレイジーな民族なんだ!
――27歳 男性 アメリカ

MARINE STAGE、まずはSUMMIT ALL STARSのアクトを観る。相変わらず適当すぎる手荷物検査を難なく潜り抜けアリーナに入ると、すでにヒップホップの重低音が鳴り響いていた。会場にそこまで人は密集しておらず、アリーナ中央のPA卓付近にたどり着く。全身から汗が噴き出してくる。風は微かに吹いてはくるものの、汗は乾くことなく次から次へと滝のように出てきている。持ってきたポカリスエットは既に2本目が消費されようとしていた。終盤、SUMMITの「Theme Song」を聴くことができた。早くから甲斐があったと思った。PUNPEEは、
「このあとのNewJeans、ゆっくり観ましょう」
と言って颯爽と去っていく。前日のアクトでPUNPEEは、
「明日は"NewJeansおじさん"」
発言があったが、自分もまさにそれである。とはいえまだ20代である。"NewJeansお兄さん"――やっぱりは何か違う。若者のアイコンNewJeansとそれに相反するおじさんという言葉の組み合わせが醸し出す情けなさ、哀愁。はじめにこの言葉を使い始めた某氏に敬意を表したい。PUNPEEはロシア帽を被っていた。この灼熱地獄の中、暑くないのだろうか。あるいは帽子の内部に冷却ファンのようなものが搭載されているのだろうか。一体どんな体をしているのか気になって気になって仕方がなかった。暑さは更に増してきている。アリーナ内は既に40度近くになっているだろうか。残念ながら"ゆっくり観る"ことは出来なそうだ。

 

NewJeansのサウンドチェックが始まる。BLACKPINK同様、バンドセットのようである。「Ditto」の一部分が演奏されると、前方から早くも合唱が生まれていた。周りには、NewJeansおじさん達がぞろぞろとスタンバイし始めた。ティーンは最前線で戦い、おじさん達は後方で戦況をうかがう。開演時間間際、あたりを見回してみると、朝一番とは思えないくらいの人で溢れかえっていた。スタンド席もほぼ満席。デビューしてわずか1年とは言え、ヘッドライナーのblurに匹敵するほどの注目度であったと言っても過言ではない。ケンドリック・ラマーの直前にNewJeansだったら、これもまた面白かったのではないかと思ってみたりもした。オープニングムービーの後、メンバーが登場する。1曲目は「Ditto」。生演奏のバンドをバックに、ラフながらも非常にキレのあるダンスを披露していくと、会場のボルテージは一気に上昇する。無論、気温の方も上昇し続ける。一人一人、日本語であいさつをすると、半ば発狂したような叫び声が各所から聞こえてきた。猛烈な暑さの中、私を見つけて!と言わんばかりの決死の叫びであった。中盤「ETA」が披露された。「ETA」と言えば、iPhoneのCMとして大きく話題を集めた楽曲である。ところが、その曲が流れてもそこまで歓声が上がらない。本来ならば、発狂するくらいに会場は盛り上がってもいいはずなのに、そうはなっていない――。むしろピタッと静まり返る会場。いや違う、歓声を上げることができないのだ。自分もそうであったが、だんだんと手をあげることが億劫になり、じっとしていることしかできなくなってきたのである。陽炎のように揺らめく人のようなものが何千と佇みながら、NewJeansをぼんやり聴いている。まったく不気味な光景がそこにはあった。あくまでもアリーナ目線であるが、スタジアムは満員にもかかわらず、特に終盤はそれ相応の歓声が聞こえてきていないように思えた。それくらい誰もが皆限界だったのではないだろうか。

 

「みなさーん、この曲は、暑さも吹き飛ばしちゃう曲です!」
そう言って観客をあおるメンバー達からは
「ゼェ、ゼェ……」
いう息切れする声がマイク越しに聞こえてくる。彼女たちは韓国アイドルの地獄のようなトレーニングを積んできたトッププロの中のさらにトッププロだと思われるが、それをもってしても笑顔の奥に疲れが滲み出てきているようにみえた。
「みなさーん、クッキーは好きですかっー?(水をくれ……)」
「いぇーい!(水をくれ……)」
メンバーたちのMCはすべて日本語であった。しかも韓国訛りのないとてもきれいな発音の日本語で驚いた。よほど勉強したのではないだろうか。1分おきくらいの感覚で、前方エリアから戦線離脱してくる若い女性たちの姿があった。何とも異様な空間である。あいかわらず風はほとんどなく、指数関数的に汗が増加していく。ふと、足元を見てみると、汗がズボンの方まで染みこみ、漏らしたような格好になっていた。雨の日以外でこうなったのは初めてである。コカ・コーラがスポンサーなのか、メンバたちは青色のゲータレードを合間に補給していた。日本で販売されていないため、はるばる韓国から持ってきたのだろうか。

 

「とても残念ですがー、次でー最後の曲です!(ようやく終わる……)」
「えーっ!(ようやく終わる……)」
"NewJeans灼熱地獄"は、何とか終演した。時終盤の記憶はあまり残っていない。もはや屍と化したNewJeansおじさん達がふらふらアリーナを後にしていく。彼らに本日のヘッドライナーblurまで観る体力は残っているのだろうか。スクリーンに映し出されるメンバーたちのアップの笑顔には汗が滲み、"限界の表情"をしていた。後にニュースをみたところ、このアクトでとんでもないくらいの人が倒れてしまったのだという。実際、筆者もそこにいたから、そこまで驚きはしなかった。あの場所は地獄以外の何物でもなかった。アミノバイタルとポカリスエットを事前に摂取していなければ、自分もそのうちの一人になっていたに違いない。ちなみにニュースの見出しには"100人以上"という風に出ていたが、おそらくもっといたはずである。中国やロシアなんかで大規模な事故が起きたとき、実際の死者数よりもうんと少なく発表するのは社会主義国家の常套手段であるが、何となくそれに似ていると思った。クリエイティブマンプロダクションはきっと社会主義だ。確証はない、あくまでも直観である。今の言葉は忘れてほしい。死者が出なかったのが唯一の救いである。今回のこの一幕は、今後の開催日程や、アリーナ内の運用に関して検討の余地があることが露呈した結果となった。午前中にしていきなり必殺技を食らったように体力を削られた2023年のサマソニ、果たして筆者の体力は最後まで持つのだろうか……。

 

www.miuranikki.com

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