三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

NewJeansおじさん、blurおじさんを観る――SUMMER SONIC 2023に行ってきた その4

17時半になりようやく日が傾いてきたのか、少しだけ気温が下がってきたような気がする。とはいえそれはあくまでこの日の相対的な感覚であり、平時に比べて依然として気温の高い状態は続いていた。この日はあの心地よい潮風がぜんぜん吹いてこない。佐々木朗希のフォークボールもこれでは変化しないではないか。あいにく、本日のヘッドライナーは佐々木ではなくblurであった。Fall Out Boyが始まるまで、再び外に出て4本目のポカリスウェットを飲み干す。水分は普段よりもかなり多く持って来ていたいたため、まさかすべて飲んでしまうとは思いもしなかった。残り2バンドあることを鑑み、ポカリスエットのブースでポカリスエットとマッチを購入する。普段の3倍以上もする値段である。なんといい商売なのだろうか。来年はその隣で250円でポカリスウェットを手売りしようか。間違いなく何らかの圧力で消されそうである。無論、クリエイティブマンは社会主義であった。

 

Fall Out Boyの出演は2019年のサマソニ以来であった。このときはMOUNTAIN STAGEの終盤のアクトであり、筆者はMARINE STAGEでThe 1975とB'zを観ていたため観ることが叶わなかった。1曲目からパトリック・スタンプがとにかく暑そうであった。"とにかく暑そうなパトリック"である。体型は重厚感がマシマシになっていたが、歌声はあの頃とあまり変わっていなかった。今年新しいアルバムがリリースされたが、その楽曲も披露された。とはいえ"あの頃"を追い求める人々にとっては残念ながらあまり響いていない印象があった。これは何十年とやっているバンドにとっての宿命といえる。Weezerやリアム・ギャラガーも最近はこの傾向があるような気がする。この暑い中、特殊効果でさらに炎の帯が何度も上がった。熱気がアリーナの方まで伝わってくる。スクリーンに映される映像もなかなか良かった。パトリックはさらに辛そうな顔をしながら歌い上げていく。Fall Out Boyは今回唯一、野外にぴったりと合うアーティストだと思った。Fall Out Boyは灼熱であればあるほどに輝くのだ。

 

続いて、ヘッドライナーblurである。疲労は既にMAXになっていたため、極力"無"の状態になって佇む。「Song 2」ですべてを出し切らなければ、今日この日に来た意味がないのだ。それはまるで『もののけ姫』終盤、モロ君がエボシ御前を殺すために最後の力を残し泉に倒れこんでいるかのような心持だ。あたりを見回してみると、昨年のヘッドライナーThe 1975のときよりも心なしか平均年齢が高い印象があった。ここにいる男性陣は、日中のNewJeansおじさんの生き残りだろうか。あるいは、一度熱中症で離脱していたのが終盤になって再び帰ってきたのかもしれない――。これには流石にこみあげてくるものがあり、
「あゝ!戻ってきた!黄泉の国から戦士たちが帰ってきたァ!」
と、思わず叫んでしまうのだった。無論、筆者の顔からはあの赤黒いドロドロしたものではなく、汗が滲み出てきていた。blurのアクトの前にはカントリーミュージックが流れていた。後日、そのプレイリストをインターネットのカオスの中から何とか探そうと思ったものの、見つからず断念。
「我が名はネットサーフィンに勤しむアシタカ。どなたかblurの開演前SEをまとめている者はおらぬか――」

 

19時半頃、待ちに待ったblurのアクトがスタートする――。「待ちに待った」とはいえ、筆者は圧倒的にOasis派であった。ではなぜ2日目のリアム・ギャラガーではなくblurを選んだのか。それは当たり前であるが、リアムはOasisではないからだ。彼はOasis解散後もOasisの楽曲をソロのセットリストにふんだんに取り入れているが、それはあくまでも限りなくOasisに近い何かなのである。「自分をOasisだと思っているリアム・ギャラガー」にすぎない。他方、blurは今年、8年ぶりとなるアルバム『The Ballad Of Dalen』をリリースした。当時を回顧しつつも、しっかりと"今"のblurとしてそこにいるのだ。1曲目は、その新作から「St. Charles Square」が披露される。思いっきりマニアックなことをしているのに、大衆に受けるバランス感覚が本当にすごい。そして中盤、お待ちかねの「Song 2」が演奏される。今日はこれのために来たといっても過言ではない。会場はお決まりの
「Woo-hoo!」
という大合唱が響き渡った。例によって筆者もその作法にならい、思う存分叫ばせてもらう。3年分の鬱屈したフラストレーションが解放されてゆく――。

 

印象的だったのは曲が終わってからも合唱をやめない観客に合わせて、デーモン・アルバーンがピアノを伴奏する一幕。これぞライブという感じの刹那の醍醐味を感じた瞬間であった。終盤演奏された「The Narcissist」に感動してしまう。スケールの大きい、さすがのステージであった。暑さにやられたのかデーモンは『ハウルの動く城』の荒地の魔女のごとく、ステージが進んでいくにつれ段々と老けこんでゆく。その様は"おじさん"を通り越して、もはや"おじいちゃん"であった。かと思うとFILAのジャージを一たび着るとデーモンは当時の面影を残した青年のように見えた。あのジャージにはきっと魔法がかけられている。終演後は急ぎ足で駅へと向かう。余韻に浸っている暇はない。上空にはドローンが何台も上がっているのが見えた。その一台一台がロゴや「SUMMER SONIC 2023」という文字を形成しながらゆっくり回転していた。そういえば去年は終演直後、余韻もへったくれもなしに花火が上がっていたような気がするが、気のせいだろうか。21時に終演して、駅に到着したのは21時半頃。そこからしばし電車に揺られ無事に帰宅。寝るときになって、突然体が火照ってきたので、扇風機を付け、エアコンの温度を下げた。これも一種の熱中症のようなものなのだろうか。来年はどうか涼しいサマソニになってほしいことを祈るばかりである。

 

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