三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

ラウパの香り、フェス飯の情緒――SUMMER SONIC 2024に行ってきた その2

幕張メッセのPACIFIC STAGEに近づいた途端、LOUD PARKに迷い込んでしまったのかと錯覚するような重低音が聴こえてきた。英語でも日本語でもない言語に乗せて演奏するそのアーティストは、調べてみるとタイのBodyslamというバンドのようだった。なるほど、今年からタイのバンコクでもサマソニが開催されるということから、その繋がりできたということか。ギターはそのサウンドとギターのフォルムから明らかに、Van Halenのギタリスト、エドワード・ヴァン・ヘイレンに強く影響を受けたものと見受けられる。タイ語の独特な響きに、爽やかなメタルサウンドが見事に融合する。これは、新感覚である。日本に限らず、その国の風土が感じられるバンドというのは良い。

 

ライブ中盤、スクリーンに突如としてBABYMETALの文字が浮かび上がったかと思うと、なんとご本人達が登場する。コラボレーション楽曲の「LEAVE IT ALL BEHIND」が披露されると、会場のボルテージは瞬く間に最高潮に達する。このサプライズは後々調べてみると、事前にニュースになっていたようである。どうりでこの曲が終わった後ろに退散する観客が多かったわけだと合点した。せっかくだからBodyslamのアクトも最後まで観ればいいではないか。水曜日のカンパネラの詩羽の言葉がさっそく思い出されるのだった。
「普段は聞かないようなアーティストも、身体を動かしながら聴いてみたら、いいかもって思うかもしれない、そういう瞬間を楽しんでほしい――」
そして、一緒に来ていた友人A(メタラー)はこの瞬間、あ、と言って、あることに勘付いた様子である。BABYMETALがここで出演するということはつまり……。まさかこれでお役御免ってことはないだろうしねぇ。ねぇ?ところが不敵な笑みを浮かべたメタル野郎の一番の目当てはまさかのIVEであった。幕張メッセのコンクリートに足を擦りむかんばかりのズコーッ!である。

 

期せずしてクレイジーでエキサイティングなメタルサウンドを体感した我々は、いったん幕張メッセを出て、昼食を取りに我らがワールド・ビジネス・ガーデン(WBG)へと向かうことにする。なんと邪道な、フェスに来たんだからフェス飯を食べればいいではないか!そのように思われるかもしれないが個人的に、フェス飯なるものはあまりオススメしたくはない。もちろん、フェスの雰囲気に浸りたいのならウェルカムである。ただ、食べる場所を確保できず、地べたに座って食べざるを得ない状況も発生しかねない。かつてSONICMANIAに行った、かの正岡子規はその過酷さについて、
「ソニマニの 寝そべる床の 冷たさよ」
あるいは、
「淋しさも メッセの床も 同じ哉」
などと詠んだように、固いコンクリートに座るのは長丁場のフェスで過ごす場合、体力を削る要素の一つになる。できればちゃんとした椅子に座って休養し、最後の最後まで楽しみたいものである。何より床に座っていると、得も言われぬ寂しさが込み上げてくる。子規の描いた情緒を追想したい方はぜひとも一度はやってみるとよいだろう。

 

オススメしたくない理由としてはもう一つ、その品質の低さである。食品の写真においてしばしば「イメージです」という謳い文句があるが、それを地で行くのがフェス飯だ。一度、キューバ風のローストポークサンドのようなものを頼んだことがあるが、プレス機でペッタペタに引き延ばしたような薄い肉と申し訳程度のチーズが挟まれていたのが出てきたことがあった。それでいて値段は800円というから強気だ。他方で、看板にはどうみても肉が目いっぱい詰まったローストポークサンドの写真が誇らしげにしている。間違いなく優良誤認表示一歩手前、あるいは両手足を突っ込んでいるかもしれないが、そこはフェスマジックの妙。何事もなかったかのように記憶から抹消されるのが常である。ちなみに今年もその店は懲りることなく出店していたが、昨今の物価高の煽りを受けてか見事1000円の大台を突破していた。まったく、キューバの人たちに合わす顔がないではないか。

 

さて、話を戻すと、WBGの飲食店街は、その距離的には幕張メッセから5分程度歩いたところにある。ただ、転換の人波や出入り口付近の混雑度合いを加味すれば10分から15分は見た方がいいだろうか。とはいえ、飲食ブースの行列に並ぶ時間を考えれば、そこまで大差はないように思える。幕張豊砂方面まで行って、イオンのフードコートやらレストランに行くのもいいが、さすがにこちらは遠すぎると思われる。趣もへったくれもない。これまで幾度かサマソニに来たことのある筆者であるが、長丁場のフェスにおいて最も重要な要素は"休息"であると結論する。

 

サマソニは海外のアーティストだけではなく、単独でチケットがなかなか取れない日本のアーティストも出演する、いわば"食べ放題"状態である。食べ放題で目当て以外のものを食べすぎて、結局一番食べたかったものの感動が削がれてしまったり、あるいは満足に食べられなくなったりした経験はないだろうか。例えばヘッドライナーを一番食べたいものだとすると、それまではむやみやたらに食べない、つまりは観たいアーティストを絞っていくというのも重要である。フェスは欲張りたい気持ちとの戦いだ。ヘッドライナーのアクトは基本的には19時台である。午前中から幕張の潮風に吹かれ、強い日差しに打たれているとすれば、その疲労は夕方を回ったあたりでピークに達するはずである。当然、集中力も切れてくるため、音楽を聴くという行為がだんだんと作業のようになってしまう。これではせっかく楽しみに来たのにもったいない。そこで、あえて外に出るという選択を取ってみることをオススメしたい。

 

先に休息と書いたが、その中には耳の休息も含まれる。長時間、大音量で音楽を聴いていると、当然ながら耳に負担がかかる。某クモ系アメコミ作品において「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という言葉があったが、それと似たようなものである。「大いなる音には、大いなる負担が伴う」のである。話を再び戻すと、筆者が行ったのは、田所商店という味噌ラーメンでお馴染みのチェーン店である。場所柄か、幕張近辺の飲食店は通常のチェーン店よりも若干割高になっている印象があるが、それでもフェス飯に比べれば質と量ともに充実したものになっていることは言うまでもない。そこで、普段は頼まない、チャーシュー麺に、ライスを大盛りで頼んだりしてみる。

 

クッション性のある椅子に腰かけ、氷の入った水を飲む。するとたちまち疲れがリセットされてくる。当たり前の日常のありがたさを痛感する。不思議なことに、数万人が幕張に駆けつけるこの日においてもレストラン街は満席にはならない。ラーメンはあっという間に到着する。メニューのイメージ写真と全く遜色のないボリューミーなラーメンである。面をすすっては分厚いチャーシューを頬張り、濃いめのスープと一緒にライスをかき込む。うまい、もう一杯!さすがにそれは塩分過多なのでそれは自粛する。食べることは一番の疲労回復の重要なカギになる。十分に腹ごしらえをしてから、いよいよ後半戦に臨む。

 

www.miuranikki.com

www.miuranikki.com

www.miuranikki.com

www.miuranikki.com