三浦日記

音楽ライターの日記のやうなもの

THE ELEPHANT KASHIMASHI live BEST BOUT 2019―今年ライブで印象的だった楽曲 (後編)

今年のエレカシのライブで印象的だった楽曲を振り返る企画。後編は、〈新春ライブ2019 日本武道館〉の個人的ベスト・バウトです。前編では、日比谷野音について書いております。こちらの方もぜひ。

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1.「珍奇男」

この楽曲はライブでは、宮本のアコースティック・ギターの弾き語りから、途中でエレキ・ギターへと交換するタイミングがあるのだが、武道館の2日目はその際、エレキ・ギターの音が出ないというハプニングが起こった。宮本は「オイッ!」といって、ローディーの丹下にジェスチャーをする。すかさず接続部分やら、アンプのプリセットやらが調整され、再び宮本に手渡されたものの音は出ない。別のギターを用意し、ローディーがギターを弾き続けるようジェスチャーをするも、また音が出なかったのか、宮本はギターを放り投げ、ピン・ボーカルでそのまま演奏を続ける。

だが、曲の中盤くらいになって突然、宮本は演奏を止めた。会場には緊張感が走る。そして、仕切り直しの「珍奇男」。会場からは、手拍子が沸き起こった。しかしながら宮本は、そんな情けなどいらないといった具合に観客の手拍子を制止した。そのときは、28年前に行われた、3000人の武道館ライブの時のような、ひりひりとした緊張感で会場は覆われた。

演奏の方も、その頃にタイムスリップしたかのように、混沌としていた。完成され切ったものをあえて破壊するかのように、演奏と歌声は曲の終盤になるにつれてバラバラになっていき、会場内はまるでサルヴァドール・ダリの絵画のように歪み切っていた。それは、曲の滑稽な部分と、狂気の部分が余計に際立っていたともいえる。曲終了後、宮本がギターのアクシデントの釈明をした際、観客から「大丈夫!」といわれると、宮本は「別に君の同情を乞おうと思ってはいない」というなんとも粋な返しをした。MCまで曲に引っ張られているかのように、このときの「珍奇男」は、20代の頃の宮本が憑依しているのだった。

 

2.「風」

この楽曲は、2009年に行われた〈桜の花舞い上がる武道館〉でも披露されたが、そのときは声が掠れ、絞り出すように歌うのが精いっぱいという感じで、曲終盤の転調では歌い切れていなかった。それから10年の月日が経ち、宮本の歌声は大きく変化した。無論、それは劣化などではなく、進化であった——。

その転機は、2012年に患っていた外リンパ聾という突発性難聴の時期にさかのぼる。宮本は約1年間療養をしていたが、その以前と以後では大きく異なっている。特に、病気療養直前のライブパフォーマンスでは、力技で苦しそうに歌っているのが印象的であった。それはライブだけではなく、作品にも言える。2012年リリースの『MASTERPIECE』での歌声のコンディションは、とても万全とは言い切れない。無理やり高い音域にある扉をバールでこじ開けようとしているような、苦しさがうかがえるのだった。

それが目に見えて変化を見せたのは、病気療養直後、2013年にリリースされた復活シングル「あなたへ」から。その歌声にはかつての、ノイズを含んだ爆発的な高音は失われていたものの、芯からじんわりと温めていくような、やさしい高音が露わになっていた。そして、2015年にリリースされたアルバム『RAINBOW』で、宮本はファルセットによるスタイルを確立する。収録曲の「昨日よ」や「なからん」では、それが顕著で、楽曲の大半をファルセットで表現し、これまで埋もれていた"静"の部分を解放していく。

そんな変化を経て、披露された2019年の「風」。その歌声はとても伸びやかで余裕があった。特に転調後のファルセットの部分は、リリース当時の音源をもはるかに凌駕する透明感と美しさで、この10年間の彼のボーカリストとしての進化を見せつけられたのだった。ぜひとも10年前のものと聴き比べ、あるいは見比べてみることをお勧めしたい。

 

3.「悪魔メフィスト」

先ほど、宮本の2010年代の歌声の変化で、2013年の復活シングル「あなたへ」では、かつてのノイズを含んだ爆発的な高音は失われていた、という風に書いた。ここで、補足しておきたいのは、それが再び獲得されるということだ。つまり、復帰当時(2013-14)がまっさらな透明感のある歌声であるとすると、現在はそこに"ノイズ"が改めて上書きされている状態ということである。

その獲得の発端となったのもやはり、2015年の『RAINBOW』のタイトル曲である「RAINBOW」。この楽曲では、序盤から宮本のハイトーンで矢継ぎ早にがなり立てられるような歌唱が続く。そして、サビの部分ではクリアーな歌声に変わり、ファルセットのブレイクが挟まれた後に、再びがなり立てられるという、なんともエモーショナルな構成になっているが、それがさらにアップグレードされたのが、その3年後にリリースされた「Easy Go」。この楽曲では、パンク・ビートと重たいディストーションサウンドにシャウトに近いような歌声淀みなく乗せられる。そこには"ノイズ"が含まれているが、『MASTERPIECE』(2012)の頃のような苦しげな印象はなかった。

話は楽曲に戻るが、この「悪魔メフィスト」がリリースされたのは2010年。当時のバージョンは、高音は出ているものの、時折声にはかすれが見え、低音のポエトリー・リーディング調の部分では枯れたような声が目立つ。『昇れる太陽』(2009)から、本作の収録アルバム『悪魔のささやき~そして心に火を灯す旅~』(2010)、『MASTERPIECE』を、"シャウト衰退期"とするならば、2010年代後半、宮本が再び獲得した『RAINBOW』~『Easy Go』期におけるノイズを含んだシャウトは、"シャウト再興/刷新期"とでも名付けたい。

その"シャウト再興/刷新期"の現在の彼の歌声で披露された「悪魔メフィスト」は、楽曲の持つ"畏怖"の部分がより強調されたものであった。SEの「朝」から、近年ライブで多用される金切り声のようなシャウトがこだますると、爆音のギターリフが徐に始まる。会場は赤と緑がサーチライトのように照らし、たちまち異空間へといざなう。序盤では演奏を無視するように、傍若無人に言葉を吐き出し、メロディーラインも、リリース音源のものから逸脱を繰り返しながらも最終的にはきっちりと、ビートに追いついていく。

そして、サビの部分では、ロングトーンで、下のコーラスの方をきっちりと歌う。このコントラストに面を食らっていると2番では一転、ポエトリー・リーディング調の歌詞を忠実に歌い、サビの部分では、透き通ったハイトーンのコーラス部分を歌唱し、その後半ではノイズを含んだ絶叫に近いシャウトに切り替わっていく。純日本産、オルタナティブ・ロックの完成系を目の当たりにした瞬間であった。演出を含め、これまでで最高のバウトだったといえるのではないだろうか。

 

という感じで、前編と後編にわたってお送りしてきたが、いかがだっただろうか。なんだかライブレポートと、ディスクレビューの中間のような感じになってしまったが、どうか適当に読んでいただければ幸いである。そんなわけで、来年も彼らの活動を楽しみにすることにして、この企画、これにて完…。

 

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