三浦日記

音楽ライターの三浦智文が、日記のようにつらつらと書いていくブログ

宮本浩次によるThe Beatlesのカバー「If I Fell」について

日本のメロコア・パンクの金字塔とも言えるHi-STANDARDのKen Yokoyamaとタッグを組み、耳目を集めたシングル『Do you remember?』。表題曲のインパクトに押されがちになってしまったが、そのカップリングはなんと、The Beatlesのカバー「If I Fell」。こちらの方こそとんでもないといってもいいだろう。そもそも英語詞のカバーの音源化は、バンドを含めた宮本浩次の長い音楽キャリアの中で初。今回はそんな、宮本バージョンの「If I Fell」について書いてみたい。

  

まずはその英語であるが、俗にいうカタカナ英語的ではあるものの、不自然さは感じられなかった。その理由はおそらく、The Beatlesの方も典型的なイギリスの英語の発音であるからだ。イギリス英語は、カタカナ英語に近いといわれているが、楽曲の単語でわかりやすい例を挙げれば、"heart"や"start"など。これらはイギリス英語だとそのまま、カタカナ英語の"ハート"や"スタート"に近い感じで発音しても、伝わらないことはない("ト"の音を弱める必要はあるが)。また、本曲には登場しないが"girl"という単語も、カタカナのガールやギャルに近い音で発音しても、問題なく伝わる。この"イギリス英語のカタカナ英語っぽさ"なるものは、ぜひとも本家を聴いて、実感してみていただきたい。

 

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ただ、このままだと、宮本のカタカナ英語が偶然、The Beatlesの発音(イギリス英語)に近かったために、違和感がなかったという論調になりかねない。ここからは、それに対する新たな視点の提示である。つまり、宮本の英語は、果たして本当にただのカタカナ英語で終わっているのだろうかというものだ。確かにぱっと聴くと、カタカナ英語のように聴こえるが、その発音に注意して聴いていると、どうも宮本は日本語の50音では表しきれない、英語的な発音で歌い分けているようなのである。

 

たとえば、"see"と"she"は、日本語では書き分けることはできないが、その発音は明確に異なる音の単語で代表的なものである。宮本は、前者をしっかりと日本語でいう"ス"と"シ"の中間のような音で、後者を日本語の"シュ"に近い音を出すような音できちんと正確に発音している。また、"l"の発音も秀逸である。楽曲では、"love"や"fell"、"please"、"will"など、多くの"l"を含むリリックが登場するが、そこでも日本語の"ラ行"や"r"と混同することなく、明確に区別しながら、丁寧に発音している(舌の先を前歯の上の付け根に置く音)。こちらの方も先ほどと同様、日本語で書き分けられないために、英語の発音構造をしっかりと意識しなければできない部分である。

 

ここまで、宮本の英語について分析的に見てきたが、これらは帰国子女であったり、英語がある程度堪能な人間であれば、できて当たり前のことでなんの驚きもない。しかしながら、いずれにも当てはまらないはずの宮本がこうしたことを難なくこなせているときた——。正直なところ、宮本が英語のこの曲をカバーするときいた時は、もっと日本語的に母音を強調しながら歌うんだろうな、とか、"シー(see/she)"や"ウィル(will)"とカタカナ英語のまま歌うんだろうな、などと考えていたのだが、その予想は完全に覆されてしまった。ここに驚くとともに、あらたな展望が開けてきた。

 

英語が堪能ではない(あるいは"英語"という言語でこれまで自分の楽曲を作ることを選択してこなかった)という宮本のバックボーンを踏まえると、こうした英語に対する誠実さというのは、少なくとも英語を理論やアカデミックなものとして向き合った結果生まれたものではないはずだ。それは、もっとシンプルな話で、英語を意味はおろか言葉ですらなく、純粋に音としてとらえているからこそ成し得たものが、結果として英語に対する誠実さにつながったのではないか、ということである。そして、この誠実さは『Do you remember?』の表題曲である、日本語楽曲である「Do you remember?」における宮本のスタンスと地続きであるともいえるような気がするのだ。

 

この楽曲では一曲の中で、ディストーションなシャウトとクリーン・トーンな歌声を何度も往来させながら、曲の輪郭を作り上げていく。そこに、メロディー一音一音にきっちりとはめられた言葉がひたすら乗せられるが、叙述的なストーリー性や、文学的な描写はない。場面がデフォルメされ、目まぐるしく変化していく。それによって楽曲の持つスピード感を助長していた。また、〈夢に夢見て夢から夢を抱きしめて〉や、〈流れ流れて体ひとつ ただの男が立ち上がる〉は、その節の言葉自体が非常にリズミカルであり、歌唱の抑揚を増幅させるのに一役買っている。つまり、この曲においては、歌詞というのは、あくまで宮本の歌を最大限に際立たせるためのものという位置づけであった。

 

「If I Fell」も同様である。まずは、宮本の"歌"が先にある。「宮本が"英語の歌詞の曲"を歌っている」ではなく、「宮本が"歌っている"。英語の歌詞の曲を」なのだ。その際、宮本が母語でない英語を歌っていることに違和感がないのは、最初の方に述べた発音的な要素はもちろんではあるが、やはり「Do you remember?」のように言葉を、意味やメッセージよりも、純粋な"音"としてとらえているからだろう。そうなったとき、このシングル『Do you remember?』は単に、表題曲に英語のカップリング曲が付いた作品、とは言い切れないはずだ。言うなれば、宮本浩次というボーカリストが歌を軸に、日本語と母語以外の言語のもの、一切合切同じ目線で表現しきった作品。「If I Fell」はあくまでその内の一曲、なのである。

 

If I Fell  

[Intro: John Lennon]
If I fell in love with you
Would you promise to be true
And help me understand
'Cause I've been in love before
And I found that love was more
Than just holding hands

[Verse 1: Paul McCartney & John Lennon]
If I give my heart to you
I must be sure
From the very start
That you would love me more than her

[Verse 2: Paul McCartney & John Lennon]
If I trust in you, oh please
Don't run and hide
If I love you too, oh please
Don't hurt my pride like her

[Bridge]
'Cause I couldn't stand the pain
And I
Would be sad if our new love
Was in vain

[Verse 3: Paul McCartney & John Lennon]
So I hope you see that I
Would love to love you
And that she will cry
When she learns we are two

[Bridge: Paul McCartney & John Lennon]
'Cause I couldn't stand the pain
And I
Would be sad if our new love
Was in vain

[Verse 4: Paul McCartney & John Lennon]
So I hope you see that I
Would love to love you
And that she will cry
When she learns we are two

[Outro: Paul McCartney & John Lennon]
If I fell in love with you

 

Special Thanks to Tomoya Otani

 

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