三浦日記

音楽ライターの三浦智文が、日記のようにつらつらと書いていくブログ

三浦的2018年ベスト・アルバム5選―邦楽編

 

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カネコアヤノ - 祝祭

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 2018年の5月だったか、Spotifyのライブ・イベントがあってそれに出演していたカネコアヤノを知って以来、彼女の音楽のとりこになった。あのときは確か4組出ていたけれど、群を抜いた存在感を見せていた、なんというかただモノではない感じ。そんなカネコアヤノのライブを観てすぐさま物販で購入したのがこの『祝祭』。このアルバムは今でもたまに聴いていて、聴くたびにまたあの臨場感をもったライブに行きたいな、という気分にさせられる。

 今作は、日常に起きた出来事がいたってありのままに描かれている。けして共感を求めることはせず、日々の生活の中に潜む美しさを粛々と歌にする。けれども彼女は、そんな私小説・エッセイのような軽さをもった歌詞を、叫ぶようにして歌う。まるで、自分が見出した些細ながらもハッとさせられるような出来事を、埋もれさせまいとするかのように。その瞬間、"日常性"を持った楽曲の世界はたちまちキラキラと輝きだし、まさに日常に対する"祝祭"のように昇華されてゆくのである。

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エレファントカシマシ - Wake Up

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  アルバムに先立って配信された「Easy Go」で度肝を抜かされた。デビュー30周年を迎えたバンドが、初期の頃ようなパンク・ロック調で、さらには終始叫び続けるという若々しさ全開の楽曲を披露したもんだからひとたまりもない。スピッツミスチルエレカシの3マンライブに行った際にも披露されたが、やはりとんでもないくらいの熱量で、それは宮本自身の曲であっても、曲の力に飲み込まれているかのようだったのだ。

 そんな「Easy Go」を筆頭に、今作はいずれの楽曲も、歌詞や構成がかなりシンプルになっている。なんといっても、伝えたいことを、よりストレートに伝えようとしている。そして歌われるのは一貫して"自由"というテーマ―。なんというか、余計なものが一切合切投げ捨てられた印象すらあるのだ。

 それはデビュー30周年、さらには47都道府県のツアーを経て、フロントマンである宮本浩次には、突発性難聴になる以前、あるいは『RAINBOW』の頃とは明らかに異なる心持があったからなのかもしれない。宮本は50代に関して、老人の青年期というようなことを言っていたが、まさにそれを体現しているのではないだろうか。やはり今作も、最新作が最高傑作であることを証明してくれた。 

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Homecomings - WHALE LIVING

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 彼らは3作目となる今作で、大きく舵を切った。というのも、今作はラスト1曲以外が、英語ではなく日本語で紡がれているのだ。けれどもそこに違和感は感じられなかった。というよりもむしろ、アナログで、ヴァン・ダイク・パークスランディ・ニューマンなどの影響も感じられるサウンドに乗せられる歌詞は、見事に調和している。なんというか、これまで抜け落ちていたパズルのピースがはまったかのような印象さえ受けるのだった。

 日本人としてのアイデンティティを形成する要素の一つである、日本語を使うことは、幻想小説のように抽象的な楽曲を、より身近で共感しやすいものへと昇華させている。いままでになかった彼らの試み。だが、ある意味でそれは、バンドが新たなる大海に出るための必然でもあったのかもしれない。

 また、英語から日本語に回帰することに関して、個人的には普通の流れだったのかもしれないとも思ってしまう。話はいきなり飛んで、文学の話になってしまうが、作家に関しても今昔問わず、若いころに西洋に対して"あこがれ"をもったり、西欧を"非日常性"をもったものとして、作品を書いてきた。例えば夏目漱石が、その代表といえるだろう。

 けれども多くの作家が、歳をとるにつれてやがてそのまなざしは薄れ、土着的な、日本的な"日常"に回帰していくという現象がみられるのだ。というのも、日本というものが自己の内部に存在していて、西欧というのは後天的なものに過ぎないからだ。

 Homecomingsのこの転換が、自覚的なもの、あるいはそうでなかったとしても、個人的にすんなりと受け入れられたのは、芸術に関する日本人のこうしたまなざしの変遷とリンクしたからなのかもしれない。

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BOYS END SWING GIRL - NEW AGE

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 先日メジャー・デビューを果たした彼ら。インディーズ・レーベルからリリースされた最後の作品である今作は、もうその準備はとっくにできているといわんばかりの、ポップで、聴きやすい作品になっている。スキージャンプでいえば、助走しきって、まさにジャンプ台から飛び立とうとしている状況だ。 

 そして、なんといっても、彼らを語るうえで欠かせない、枕詞的フレーズ"清涼感"、そして"さわやかさ"。もちろん今作も、海面をキラキラとなびかせる潮風のような心地の良いサウンドは健在だ。たが今作は、そこから脱却するかのごとく、自身のイメージとの格闘も随所にみられる。かわいらしい歌詞が散りばめられた「Magic」では“後ろめたさ”を滲ませ、「蒼天を征け」では、『三国志』の登場人物をモデルにし、さらに歌詞には漢文を引用し、“男らしさ”を前面に出した。

  また、フロントマンである冨塚は今作、限りなく自分自身と向き合い、そこから見えてきたものを素直に吐き出した。ただ、不思議なことに、文学的なエッセンスが加わったことで、そうしたノンフィクション的なものは、フィクション性をもったストーリーへと昇華されている。そしてそれは、本を読むとき、読み手がそれぞれに違う顔や、風景を思い浮かべるように、聴き手にその想像を促す効果を生み出しているようにも思える。

  ありとあらゆる“鍵”を使って、扉を何とかしてこじ開けようと模索した『NEW AGE』、快作である。

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七尾旅人 - Stray Dogs

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 デビュー20周年の節目にリリースされた今作。小川のせせらぎのように心地の良いメロウなサウンドが全体を貫き、気がつくとその作品の世界に没頭していた。すべてを聴き終わった後に湧き上がってきたのは圧倒的な心地良さ──それは子どもの頃、寝る前に本棚から好きな絵本をえらんで、親に読み聞かせてもらったときの感覚に似ている。能動的に文字を読む行為とは違った臨場感にあふれ、耳に届くその声によって安心感をも導き出されるような感覚だ──。

 七尾が創り出した12のストーリーが並べられた本棚。本作はそんな本棚から、1冊1冊選び出され、七尾の歌声によって聴く者の世界へと展開していくように進んでいく。そんなストーリーにはエレクトロニックなトラックからシンプルな弾き語りのトラックまで、多様なサウンドに乗せられる。さらに、心の琴線に触れ、余情をかき立てる彼の歌声は、楽曲の雰囲気を邪魔することなく、あくまでも語り手のようにストーリーに寄り添う。

 それらは、彼の紡ぎだした言葉や世界を補完し、さらなる彩りを持ったイメージを生み出す助けとなっている。そしてそれは、まさに読み聞かせのときに感じたような心地よさを思い起こしてくれるのだった。そんな今作は、大人にとっては、慈愛に満ちた子どもの頃のノスタルジアを、純真無垢な子どもにとっては、ワクワクする衝動を掻き立たせてくれる、そんな作品である。

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