三浦日記

音楽ライターの三浦智文が、日記のようにつらつらと書いていくブログ

三浦的2018年ベスト・アルバム5選―洋楽編

 

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Paul McCartney - Egypt Station

 

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 今作はポール・マッカートニーの曲を聴くときのワクワク感、高揚感みたいなものが近年の彼の作品の中でも突出して強い感じがする。前作の『NEW』でも、それが感じられたが、はるかに上回っている。事実、このアルバムは全米チャートで36年ぶりに1位を獲得していることからも、そのフレッシュさと勢いは証明されているのではないだろうか。老いを受け入れて、枯れていく美学なんていうアーティストもいる中で、若々しさを保っているポール。けれどもそこには決して痛々しさみたいなものはない。シンプルなビートに乗せられた「Back In Brazil」。そして、近年のポップの流行を取り入れたビートとコーラスワークを感じられる「Fuh You」からは、むしろ若いアーティストと同じ目線で音楽を見ているような感じすらする。

 そんなアルバム曲の中でも特に気に入っているのは「Dominoes」。この曲は3度見せる曲の展開それぞれに違う趣があって、聴けば聴くほど味わい深いがある。そして、サビの部分ではしっかりと、ポールの王道ポップ・ソングのメロディに落とし込んでいる。75歳にして快作を作り出したポール、脱帽に次ぐ脱帽である。


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Greta Van Fleet -  Anthem Of The Peaceful Army

 

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  このバンドを初めて聴いた時、直感的に1970年代バンドだと思った。レッド・ツェッペリンジミー・ペイジを彷彿とさせるギターサウンドに、ハードロックの王道ともいうべき、ハイトーン・ボイス、そして味付けするかのように随所にシャウトがのせられる。ギターソロもこの時代とは思えないくらいに大仰で、わかりやすい。「ああ、自分が知らないあの当時のバンドがまだいたんだな」なんて思って、彼らを調べてみたら腰を抜かされた。というのも彼ら、2017年にデビューを果たした平均年齢20そこそこの超若手バンドだったのである。

 そんな彼らの音楽、かつてのハードロック全盛期の音楽と一緒くたにして、簡単に二番煎じと言い切ってしまうことはできないだろう。イギリスで流行したハードロック。"ハードロック御三家"と呼ばれたレッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、そしてブラック・サバスの流れからこのジャンルは続いていくのだが、それはいわば歴史の一本の線みたいにつながっている。ただ、彼らはまるでタイムスリップしてきたかのようにその時代にぴょんと飛び込んだかのようにハードロックをひたすらやっている。その意味で"リバイバル"とはちょっとだけちがう。歴史が紡いできた時代性が感じられないとでも言えようか。さらに、アメリカのミシガン出身の彼らがUKの王道のハードロックをやっているという、"越境性"みたいなものも面白い。

 そんなわけで、意外にも、"ハードロック"というジャンルのフィルターをとってしまえば、アーカイブ化した今の時代の音楽を反映しているという見方もできるのではないだろうか。先日発表された、グラミー賞のノミネートでは、最優秀新人賞、最優秀ロック・パフォーマンス賞、最優秀ロック・アルバム賞と3部門で選ばれた(ノミネートアルバムは前作の『From Yje Fires』)ことからも、今後大注目バンドであり、何よりも今作からはその片鱗を感じ取ることができる。

 

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Albert Hammond Jr. - Francis Trouble

 

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 ザ・ストロークスのギタリストであるアルバートハモンドJr.による新作。ひとたびこのアルバムを聴いたときの思わず踊りたくなるような感覚、それはもはや"ザ・ストロークス"そのものであった―。2000年代初頭、"ロックンロール・リバイバル"として先頭になって引っ張ってきた彼らであるが、2018年になり、彼ら取り巻く時代、またリスナーの音楽嗜好も変化してしまった。しかしながら、「悲観する必要は一切ない。自分の求める音楽をただただ追及すればいいんだ」というスタンスが今作からは感じられるのだ。シンプルな曲の展開に、心地の良いBPMのドラム・ビート、そして枯れたギターサウンドが乗せられる、ただそれだけなのである。

 そんなアルバムの中でも特に気に入っているのは「Far Away Truths」だ。8ビートに乗せられる、2コードのリフが鮮やかに聴くものをその世界観に引きずり込んでゆく。メロディの部分では、リフのモチーフがだんだんと変化していき、楽曲にシンプルながらも鋭敏な印象を与えている。そして、サビ部分でそれが一気に解放されたかのように展開してゆく。時代に迎合していない感じ、けれどもそれは保身に走っているわけではない。剣が研ぎ澄まされてゆくかのように、サウンドやリフ・パターンはストロークスの頃よりも洗練されているような気さえする。これまでの焼き直しではない、2018年の作品としてしっかりと爪痕を残せるような、新鮮味を持った作品である。

 

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Muse - Simulation Theory

 

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 ミューズは今作、彼らの代名詞でもあるディストーションサウンドの代わりに、低音と高音が人工的に揺れ動く、カオスパッドを搭載したギター・ベースの実験的なサウンドを前面に出した。さらに、『The Resistance』や『Drones』に見られる、70年代のプログレッシブ・ロックのような曲の展開は封印され、今作では打ち込みに近いドラム・ビートの上で、シンプルに曲が展開してゆく。

 そんな今作は同時に"スーパー・デラックス盤"もサブスクリプションで聴けたのだが、その中に収録されている「Algorithm (Alternate Reality Ver.)」では『The 2nd Law』の頃の壮大さを彷彿とさせ、「The Dark Side (Alternate Reality Ver.)」では『Drones』のプログレッシブ・ロックの様相がうかがえた。ただ、彼らはあえてそのバージョンをアルバム本編に収録しなかった。そしてよりシンプルで、無機質なバージョンを採用した。

 彼らの真意、おそらくそれは、"スタジアム・ロック"をやり続けてきた彼らが、"スタジアム・ポップ"へと転換しようと舵を切ったとも言えるのではないだろうか。キャリア20年を迎えようとする彼らの、まさに“新境地”が垣間見えた作品である。

 

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Snail Mail - Lush

 

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 若干19歳にして、インターポール、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジらが所属するインディー・レーベルMatador Recordsとの契約を果たし、2018年6月デビューアルバム『Lush』をリリースした。まっすぐで透明感のある彼女の歌声は、聴いた後えもいえぬさわやかさを駆り立たせてくる。それは、雲一つない冬の寒空の下、めいっぱい深呼吸をして、鼻から喉の奥を伝って体全体へといきわたるときのような感じだ。そんな歌声には、ローファイなギターサウンドがのり、90年代のオルタナティブの影響を感じることができる。ただ、古臭い感じに埋没しておらず、今の10代、さらには2018年の感性(といっていいのだろうか)でその時代の音楽を見つめているような感じがする。

 このアルバムの中で、一番気に入っているトラックを挙げるとすれば、「Full Control」。この曲を聴くとこんな風景が想起されてきた。レンガ造りの部屋の中、暖炉で暖まりながらふと窓の外を覗いてみる。すると雪がちらつく無機質な街の通り―葉が落ちて丸裸になった街路樹が並んでいて、その間には美しい曲線を描いた黒色のガス灯が点々と立ちすくんでいるのがみえる。そして待ち行く人々は体を寄せ合いながら、歩いている。まさに彼女の生まれ育った、ボルチモア郊外の風景だ。ひんやりと、淡い様相のサウンドに温かみのある彼女の優しい歌声がそうさせるのだろうか。

 近年は一曲毎、あるいはプレイリストで聴かれるようになった音楽。けれども彼女の作品は、アルバムを通しで聴いて、その風景の世界に没入したくなるのであった。

 

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