サマースクールでは1人ではなく必ず2人が、一緒の部屋で生活するということになっていた。自分はパキスタンの人と同じ部屋になった。名前はジュネイド、31歳。彫の深い顔にひげを蓄えた、あまりにも精悍すぎる顔立ちはいかにも中東のイケメンといった感じ。彼には奥さんがいて、なんでも6か月前に結婚したばかりだそうだ。職業は現在薬剤師をやっていて、向こうではかなり収入が高い方だという。サマースクールは、Yunus Emre Enstitüsü(トルコ大使館文化部)のパキスタン支所でトルコ語学んでいて、それで知ったようだ。気さくな性格で、ユーモラスにあふれる人だった。そんな彼が話してくれたパキスタン事情について少しだけ書いていこうと思う。
お土産にとビールを部屋に持ち込んだ時、彼は何とも渋い顔をしていた。なぜそんな顔をするんだい?トルコのビールは美味しいよ、と某サッカー選手風の問答を彼にしてみると、「自分は宗教上の理由でお酒を飲まないんだ、パキスタン人はほとんど飲まないね」という返事が返ってきた。そうだ、確かにイスラム教徒の人は酒を飲まないんだった(でもトルコはイスラム圏ではあるものの、酒に関する規制は少ないために多くの人が酒を嗜んでいた)。また、彼は「ただ、パキスタンに酒がないわけではないけど、ほとんどの場所で飲むことができないんだ」と加える。パキスタンの人はストレスをどのようにして解消するのか、そんなことを考えていると彼は「でも、"これ"を吸う人はたくさんいるね」と指2本を口元に持ってくるジェスチャーをしてから、タバコを吸いに颯爽と部屋を出ていった―。
あくる日、結婚の話になった。パキスタンでは結婚する前に性交渉をしてはいけないという決まりがあるらしい。日本では結婚前のカップルも普通に性交渉がある話をすると非常に驚いていたが、こちら側からするとパキスタンのそれもなかなか驚くべきことである。さらに不倫をした場合、パキスタンでは重い罪が課されるらしい。日本では以前、姦通罪があったが廃止されたために、不倫は道徳的に不貞なものにとどまっているが、どの国でも不倫が冷たい目でみられることには変わりないようだ。
これらの決まりごとはやはり、"イスラム教"という大きな存在が関わっている。彼は、1日5回のお祈りはしないものの、毎週金曜日の1時になるとモスクに赴いてお祈りをする。下の写真のように、お祈りをする前は全身を清める。日本の神社にある手水舎で手や口をちょいちょいとゆすぐレベルではない。もう服や髪がびっしゃびしゃになるくらい清めるのである。
ちなみにこのモスクはヌルオスマニエ・モスク(Nuruosmaniye Mosque)といってグランドバザール(Grand Bazaar)の入り口近くにあるモスクだ。グランドバザールで買い物をする日がちょうど金曜日だったのでこの神聖な行いを少しだけ撮影させてもらった。写真を撮る自分に「これ、そんなに面白い?」と彼が言った。彼らにとってこれは神聖な行いというよりは、あくまでも体に馴染んだ日常の行いの一幕にすぎないのである―。