三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

エレカシの「さよならパーティー」、そしてクリープハイプによるカバーについて

エレファントカシマシの「さよならパーティー」は、ユニバーサル・ミュージック移籍後の第1弾アルバム『STARTING OVER』(2008)に収録されている。前作の『町を見下ろす丘』(2006)と比べると、この曲の収録されているアルバムはポップでキャッチ―な曲が多く並ぶ。おかげさまでセールスは大きく伸び、特に、同アルバムに収録された「俺たちの明日」は"ウコンの力"のCMのタイアップ曲になり、世間から再び注目を集めるきっかけの楽曲にもなった。そんな訳でこのアルバムは、エレカシのいわゆる"再ブレイク"を大きく印象付ける作品となっている。

 

ただ、ポップ路線に移行した"復活のアルバム"においても、これまでのような"宮本節"は健在である。音域のレンジの広いメロディーラインにときより挟まれるべらんめえ口調の歌いっぷり、そして脳天を揺さぶってくるようなシャウト。宮本はユニバーサル・ミュージックに移籍してからというもの、外装こそ変わったかもしれないが、内装の部分に関してはデビュー当時と全く変わっていない。そんな不朽の"宮本節"を如実に感じられるのがこの「さよならパーティー」なのである。

 

イントロと間奏部分と最後のサビ前に繰り返されるギターソロには、これぞ王道の邦ロックの構成だと言わんばかりの趣がある。そして、そこにはポップな中にもレンジの広いメロディーラインが乗せられる。ポップの中にとんでもない音域のメロディーを入れてくるあたりは先ほども書いたように、デビュー当時と何一つ変わっておらず、彼らが"売れ線路線"などと揶揄されてしまうようになってからも、ロックバンドたらしめている要素の1つであるようにも思える。

 

サビの部分では、〈もう抜けようよパーティー だってこんなのつまんない〉というフレーズが繰り返し歌われるが、その前には宮本による絞り出すような絶唱が入る。それによってサビのフレーズに切実さが表現され、さらには曲のインパクトを増幅させている。また、楽曲の歌詞を見てみると、カタカナが多用されている。例えば、"ココロ"、"ゴマカシ、"キズ"。そこからは無機質でドライな印象を受けると同時に、漢字特有の権威・歴史的な重々しさはなく、軽やかさすら感じられる。2008年、彼らが"再出発"を切るに相応しい"潔さ"というか、それこそ"フレッシュさ"みたいなものが、そこから感じ取れるのだ。「さよならパーティー」は「俺たちの明日」のカップリングでもあるが、シングルカットされても申し分ないくらい、エレカシの良さが凝縮されているような1曲である。 

 

そんな「さよならパーティー」は、2018年リリースの『カヴァーアルバム3 〜A Tribute to The Elephant Kashimashi〜』の中でクリープハイプによってカバーされた。彼らの当作品に寄せたコメントを見てみると、クリープハイプというバンドが苦しかった頃、『STARTING OVER』をよく聴いていたという。クリープハイプがエレカシの曲を歌うなら、はじまりがボーカルだけか、弾き語りで始まる曲が絶対合うのではないかと勝手に想像をしていたので、「さよならパーティー」を選んでくれたのは嬉しかった。

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そしてそのカバーがなかなか良いのである。冒頭は、エレキギターの弾き語りで始まるエレカシバージョンとは異なり、尾崎世界観の独唱で始まる。歌のキーは半音上げられている。そのままのキーで歌ってほしいという気持ちもあったが、尾崎の歌いやすい音域に変えたというのならば、それはそれで彼らの色が出ていいのかもしれない。

 

曲はエレカシに比べると全体的に平坦なアレンジで、より無機質でふわふわした印象を受ける。かと思えばそこに、〈もう抜けようよパーティ だってこんなの"つまんねぇんだよクソが"〉と、尾崎流の歌詞のアレンジが入れられ、曲に登場する人間にもクリープ特有の、どこか"アブない"感じの印象を持たせる。そんな気だるく寝ぼけた感じの曲調にしたアレンジに、尾崎の独特の節回しが加えられ、180度の変貌を遂げた「さよならパーティー」。その趣は何となくブリティッシュ・ロックを彷彿とさせる。例えば、ギターの音色やフレーズ、さらにはドラムのパターン。これはArctic Monkeysの「Fluorescent Adolescent」みたいな軽快でポップな感じと重なる。特に、最後のギターのフレーズはArctic Monkeysっぽさ全開である。

 

エレカシによって演奏される武骨で感傷的な「さよならパーティー」もクリープハイプの手にかかると、一気に気だるく、登場する人間も若くて不健康になったような印象を受けた。同じ曲でもアーティスト次第でこうも変わってしまうのか。今回のクリープハイプによるトリビュートではそんなことを思わされると同時に、それはしっかりと彼らの曲へと昇華されている証であるようにも思えた。強烈な個性には、強烈な個性で対抗するのが良いのかもしれない。【ほぼ日刊三浦レコード47】


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【全アルバムレビュー:エレファントカシマシ】18th『STARTING OVER』 - 『STARTING OVER』2008年1月30日発売