三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

ただのポップバンドでは終わらせない、新しい扉を開けるんだ―BOYS END SWING GIRL『NEW AGE』解説

 ただのポップバンドでは終わらせない、新しい扉を開けるんだ―。 

 2018年、彼らは4作目となるミニアルバム『NEW AGE』をリリースした。今までのストレートなギターロックサウンドから一新させたポップなサウンドの今作は、「全年齢対象バンド」という彼らのコピーを最も体現できているように思える。

 そして、なんといっても、彼らを語るうえで欠かせない、枕詞的フレーズ「清涼感」、そして「さわやかさ」。もちろん今作も、海面をキラキラとなびかせる潮風のように心地の良いサウンドは健在だ。たが今作は、そこから脱却するかのごとく、自身のイメージとの格闘も随所にみられる。かわいらしい歌詞が散りばめられた「Magic」では“後ろめたさ”を滲ませ、「蒼天を征け」では、『三国志』の登場人物をモデルにし、さらに歌詞には漢文を引用し、“男らしさ”を前面に出した。

 また、冨塚は今作、限りなく自分自身に向き合い、そこから見えてきたものを素直に吐き出した。ただ、不思議なことに、文学的なエッセンスが加わったことで、そうしたノンフィクション的なものは、フィクション性をもったストーリーへと昇華されている。そしてそれは、本を読むとき、読み手がそれぞれに違う顔や、風景を思い浮かべるように、聴き手にその想像を促す効果を生み出しているようにも思える。

 ありとあらゆる"鍵"を使って、そんな"扉"を何とかしてこじ開けようと模索した『NEW AGE』。このアルバムのコンセプトは、「今までにやっていないことをやろう」。恋の歌や、死の臭いを感じさせる歌―。そこに挑戦することができたという一枚を今回は、昨年行ったインタヴューを元にしながらそれぞれ解説していく。

 

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「MORNING SUN」

 朝日が昇る感じをイメージしたというこの曲、バンドとして、新たな一歩を踏み出すためにもう一度始めないといけない、という決意がにじみ出ている。サウンドに関しては、シンセサイザーや打ち込みに近い感じのサウンドを取り入れ、これまでの彼らのギター・ロックまっしぐらな感じの作品とはかなり一線を画したものになっている。

 そんなわけで、アレンジ当初、冨塚(Vo.)はバンドのイメージとかけ離れてしまわないか、かなり悩んだ。けれども、いざ使ってみるとすんなりと受け入れられたという。シンセサイザーを入れる前は、アコースティック・ギターが全面的に出た楽曲。そのバージョンの方も気になるが、また違う曲を作ろうと思っているということで今後また、その話を聞いてみたいと思う。 

 

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「Magic」

 曲に登場する〈いつだって僕は現実主義〉という歌詞。これは、作詞の冨塚自身を投影しているという。そして、〈いつだって僕は現実主義 誰も信じないように 心の奥に鍵かけて 自分を閉じ込めてる〉っていう部分、ここではポップな曲調と、かわいらしい文体の歌詞にある種、毒のように盛り込まれている。そしてそれが、歌詞を見たときに、ハッと気が付くように浮き彫りになってくるのだ。

 また冨塚は、この楽曲においては至ってさらっと歌うが、「パッと見たり、聞いたりしただけで判断されたくない」、「本当の俺は、お前が見ているそれじゃないんだよ」、という彼なりの哲学がにじみ出ている。最初、歌詞を見ずに、聴いた時はすごくポップでさらっとした印象であっても、いざ歌詞見ると意外とかわいらしい感じの歌詞で貫かれ、しかもそこの中にはマイナスな部分も見え隠れしている。そんなギミックを体験できる一曲になっている。

 

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「蒼天を征け」

 この曲は、 『三国志』をモチーフにした。〈烈士 暮年 壮心已まず!〉という部分は、曹操という三国志きってのヴィランの言葉だ。冨塚は、『青年の大成』っていう本を読んだときに、「烈士暮年、壮心已まず」っていう言葉がすごく頭に残り、引用したという。なんといっても、曲の主人公にヴィランを持ってくるというのは面白い。冨塚は、曹操の悪役と言われてでも自分を貫いて行く姿勢部分に共感しているというが、たしかに、世の中の正義というのは、そう簡単に判断することはできない。そこにフォーカスをしているのも、やはり彼ならではという感じだ。

 漢文を引用した歌詞の中でも特に、〈烈士殉名〉という歌詞が気持ちよくはまっているように聴こえた。そもそも、古典文学の洗練された詩は、音読に非常に優れているといえる。メロディーがなくとも、抑揚をつけたり、読むスピードを変えたりしてまるで音楽的な体裁を帯びさせるのである。そんな四字熟語のもつリズムや、固さが、現代のギター・ロックに載せられて再解釈されたような楽曲だ。

 

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「雨宿りの恋」

 爽快なギター・ロックな曲から一転、この楽曲はアンプラグドなサウンドで内包されている。この曲に関して冨塚は、今までで一番歌詞に力を入れたという。「雨」と「傘」をテーマにし、雨に二つの意味を持たせた。一つは普通に降っている雨。そして、もう一つの雨は楽曲に登場する女の子に降る悲しみの雨が比喩的に表現されている。

 そんな雨に、傘を差しだす男の子が現れる。そして、ストーリーは最終的に、どちらの雨も上がり、傘がいらなくなる―。つまり、女の子は元の男のところにもどり、男の子の方の役割も同時に終わってしまうということだ。けれども、この楽曲ではそれを湿っぽくではなく、あくまで淡々と表現する。それによって、暗さは一切感じられず、雨上がりに虹がかかったかのような不思議な安堵感みたいなものが、湧き上がってくるのだった。

 

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「Beasts」

 曲順がキモになっているというこの楽曲。確かに優しげな「雨宿りの恋」から、がけから突き落とされるくらいのハードな「Beasts」へと続く流れはハッとさせられるものがある。〈王様の耳を 飼い慣らしていく本能〉という詞では『王様の耳はロバの耳』を彷彿とさせる文学の引用がみられる。また、「接ぐ」、「蠢く」、「縋る」など、難しい漢字を多用しているのが印象的だ。ハードルが高い曲だということを、あえて思わせたかったという冨塚。そこには、しっかりと歌詞を読んで聴いてほしいっていう、文学青年なりの意図があるのだ。

 演奏の方に関しても、Foo FightersなどのUSのバックボーンが強いドラムの飯村、そしてファンク・ロックやオールディーな楽曲を好んで聴くというベースの白澤のフレーズが光っている。ベースのリフが初めに決まってから作られたというこの楽曲。なによりバンドサウンドが際立っている。そしてそこには、それをただのポップ・バンドで終わらせないという決意すらもうかがえるのだった。

 

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「Shannon, oh my love」

 The Beatlesをはじめとする、60年代くらいのブリティッシュ・ロックを彷彿させるコード進行の楽曲は、冨塚が2年前、ロンドンに行ったときの経験の中で生まれた曲であるという。そんなわけで、歌詞にも〈帽子の国/赤いレンガ〉と、ロンドン郊外の風景が登場する。

 そんな異国情緒を感じさせる楽曲には、ボーカルが1オクターブで高いメロディをコーラスで重ねられる。それによって、男女が二人で一緒に歌っているような感じを表現しているようなイメージを想起させられた。「Shannon, oh my love」という曲名もそうであるが、オールディーで甘いラブ・ソングといった感じである。 

 

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「ほしのかけら」

 一番尊敬していた恩師が亡くなったときに作ったというこの曲。生と死に関して、今思うありのままの状態で書いた。そのためか、全体的にふわふわとした印象が内包されている。そんな中でも、"知恵の輪"のポイントは一番最初にできたという。外したままでおもちゃ箱にしまうのではなく、必ず元に戻してしまう知恵の輪―。そのメモがずっと残っていた。

 そして、それを見返したとき、これが普遍的なものなのかもしれないと思って書いた。すべてが同じ場所に戻るという、ある意味で輪廻転生的な感覚。そして、抽象度が高くて、宗教的な匂いはなんとなく『銀河鉄道の夜』や『星の王子様』が醸し出すイメージを彷彿とさせる。別れることには悲しさがあるけれど、いつかまたどこかで会うことができるという希望もある。そんな哲学が、美しく表現された一曲だ。

 

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2018.07.25 ON SALE

VAA88-004 / ¥1,677(+tax)

 

【Track Listing】

Track01. MORNING SUN
Track02. Magic
Track03. 蒼天を征け
Track04. 雨宿りの恋
Track05. Beasts
Track06. Shannon, oh my love
Track07. ほしのかけら