三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

スズメと蚊

男には行く当てがなかった。そして、あまりにも退屈すぎる一日が早く過ぎ去ってしまえばいいと思っていた。男は仕方なく、川沿いの道を歩いていると、神社を見つけた。山道の両脇には杉の木が生えていて、石畳には木漏れ日がゆらゆらと揺れている。男は境内…

オオカマキリと少年VII——秋

少年が育てたカマキリは、トンボを好んで食べた。イナゴ、ショウリョウバッタ 、トノサマバッタ、アゲハチョウ、アブラゼミ......。カマキリはどれもよく食べたが、その中でも最も食いつきが良かったのがトンボであった。 トンボを与えると、カマキリはまず…

オオカマキリと少年VI——官能

9月中ば、すっかり涼しくなった頃。オオカマキリの腹部は立派に膨れ、順調に成熟をしていた。少年はその様子を見て、そろそろ交尾をさせても良い頃ではないかと思っていた。ただ、どうやってオスを見つけてくればよいだろうか。というのも、草の茂みの陰で、…

オオカマキリと少年V——攻防

少年のエサ取りは、いよいよ佳境に差し掛かっていた。成虫になったカマキリは、自分が昆虫界の食物連鎖の頂点だと言わんばかりに、恐れを知らなかった。ある日、家の中に大きなスズメバチが侵入してきたことがあった。羽音の重低音が、部屋に鳴り響いている…

オオカマキリと少年IV——脱皮

7月の終わり、オオカマキリは6回目の脱皮をした。脱皮をしたばかりのカマキリにはツヤがあり、翡翠のような美しい緑色をしていた。横には、半透明の抜け殻がぶら下がっている。腹の膨れ具合から、どうやらメスのようだった。少年は安堵した。というのも、次…