三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

今の社会が生み出して"しまった"、ダンス・ミュージック―Green Day「Father Of All...」和訳&レビュー

[Verse 1]

I woke up to a message of love
Choking up on the smoke from above
I’m obsessed with the poison and us
What a mess? 'Cause there’s no one to trust

俺は愛のメッセージに気がついた
上の方で燻ってる煙で息がつまる
毒と俺ら自身に憑りつかれてる
もうめちゃくちゃだろ? だってさ、信じられる奴なんて誰もいないんだから

[Pre-Chorus]

Huh-uh, come on, honey
Huh-uh, count your money
Huh-uh, what's so funny?
There's a riot living inside of us

あぁ、おいでよハニー
あぁ、金を数えて
あぁ、何がそんなに可笑しいんだ
俺たちの心ん中では暴動が起こってるぜ

[Chorus]

I got paranoia, baby
And it's so hysterical
Crackin' up under the pressure
Looking for a miracle
Huh-uh, come on, honey
Lyin' in a bed of blood and money
Huh-uh, what’s so funny?
We are rivals in the riot inside us

被害妄想に陥っちまったぜ、ベイビー
そんで、めちゃくちゃヒステリックなんだ
プレッシャーで病んでいて
奇跡を探し求めてる
あぁ、おいでよハニー
血と金のベッドで横になって
俺たちは心ん中に秘められた"暴動"のライバル同士なのさ

[Verse 2]

I'm impressed with the presence of none
I'm possessed from the heat of the sun
Hurry up 'cause I'm making a fuss
Fingers up 'cause there's no one to trust

俺は誰もいないことに感心したんだ
俺は太陽の熱に憑りつかれた
早くしな、ひと騒動やろうとしてるんだ
信じられる奴なんて誰もいないから、中指立ててやるのさ


ひさびさにGreen Dayが動き出した——。

2016年以来となる彼らの新曲「Father Of All」は、とにかく軽快だ。冒頭、ジミ・ヘンドリックスの「Fire」を彷彿させるファンク・ビートのイントロに続いて、コーラスではファルセットのアプローチがなされる。そしてヴァースの部分に入ると、ハイ・ノートを響かせ、楽曲に明るさを与えていく。こうしたアプローチは、近年の彼らの作品、ひいてはこれまでのキャリアにおいても、かなり珍しいといえよう。また、作品を貫いているクラシックなテイストは、昨年ビリー・ジョーがソロ・プロジェクトThe Longshotとしてリリースした『Love Is For Losers』の延長線のような雰囲気さえ漂う。しかしながら、きっちりとその辺と差別化がされているのはやはり、30年近く変わらないメンバーでやってきたという、経験値的な要素が寄与していることは間違いない。

そんな本作、冒頭で軽快と評したが、そう思わされたのは、2016年にリリースされた『Revolution Radio』があったからだ。この作品では、トランプ政権に対する不満や、アメリカを取り巻く社会問題について、痛烈に皮肉った楽曲が目立っていた。たとえば「Bang Bang」ではアメリカの銃乱射事件について、自己陶酔的な報道をするメディアと交えながら痛烈に皮肉る。そんな歌詞に乗るサウンドやメロディーはサウンドはビリーがマイクにかじりつくようにして、唾を吐きながら歌っていた頃を思わせる。「Forever Now」は『Dookie』/『Kerplunk』版の「Jesus Of Suburbia」といった感じで、荒々しいサウンドの中に緻密な曲の展開をみせてくる。また、「Still Breathing」は社会の中に渦巻く様々な境遇の人間に焦点を当て、不遇な社会においても人間が力強く生きていく様が描かれる。

そんな前作に続いて出された今作は、社会的な側面が全くと言っていいほど感じられなかった。ただ、これを"軽い"と形容したのままで、この原稿を終わってしまってはいけないような気がするのである。というのも、ビリーはこの楽曲についてInstagramで、"昨今の最悪な事態だとか、無政府状態ってのは話が絶えないし、こんな言葉を反映する思うんだ。たとえば、ダンス、種族性、心配事、楽しいこと、バイオレンス、ドラッグ、アルコール"と、書いていたが、改めてそのリリックを見てみると、怒りを纏っていることに気が付く。それは、世の中を諦めきった末の、ふつふつと内部で湧き上がるようなもののようにも思える。俺たちの心の中では、暴動(riot)が起こっている。そして曲はこう締めくくられる。信じられる奴なんて誰もいないから、中指を立ててやるのさ、と——。今の社会が作り出してしまった曲として、この曲を見たとき、ただの軽快なダンス・ミュージックで片付けられないような気がするのである。

 

Special thanks to Tomoya Otani 

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