今日は年に一度の恒例企画、初詣の日である。初詣はエンタメだ。一緒に行く友人Aは、このブログにも幾度となく登場する生粋のメタラー*1。例年、千葉の成田山新勝寺であったが、昨年はその流れをついに断ち切り、栃木の日光東照宮に行った*2のだった。そして今年は再び場所を変え、神奈川の鶴岡八幡宮に行くことになっていた。新橋駅で友人Aと待ち合わせる。ホームを降りしばらくするとAが現れた。風邪を引いたらしく、老齢のメタラーのような声になっていた。
「ディス・イズ・ザ・ファースト・体調不良・フォー・ディス・イヤー!――」
咳混みながら、決死のシャウトを披露するその姿は何とも痛々しい。我々の乗ったグリーン席は快適だった。普通席の料金に750円上乗せするだけでリクライニング付きの新幹線と同じクオリティーの座席に座ることができる。モバイルSuicaであれば券売機で買うよりも幾分安く買える。天井のモバイルSuicaの認証スポットにかざすとピピッという音と共に赤いランプが緑に変わる。JRのDX化は他の交通インフラに比べて遅れを取っている印象が否めないが、なんやかんやで便利になってきているような気がする。
しばらく電車に揺られていると、正面のディスプレイに秋田新幹線こまちの運休情報が流れてきた。我が故郷秋田を始めとした雪国では現在大寒波に見舞われているようである。ディスプレイから流れる郷愁もまた一興かな、などという戯言を考えていると、50分ほどで鎌倉に到着した。何とも早いものである。そこから、鶴岡八幡宮へと向かう。メインの通りを歩いていると、学生時代に行った時のことを思い出す。てっきりあの時は鎌倉大仏の方に行ったものだと思っていたが、鶴岡八幡宮のほうであったということが近づいていくにつれ鮮明になっていった。8年前の記憶がもう改竄されようとしている。そうはいっても8年前、2018年のことはもうクリティカルなことしか覚えていない。人生忘れていることだらけである。参道に差し掛かると、ぽつぽつと出店が並んでいるのが見えた。ベビーカステラやら銀杏やらチュロスやらが売られている。少々長い階段を上り、お参りをする。奥の方で祈祷をやっているようだった。我々の間ではそれを坊主のライブと呼んでいる。たいていの場合、お布施の程度によってご利益の大きさや、祈祷を受ける場所が変わるというから、これまた我々の間ではSS席、VIP席などと呼称している。
例によって境内ではおみくじが売られていた。これを引くのも毎年の恒例行事である。売り場の紙には200円と書かれてあった。おみくじといえば100円のイメージがあったが、あの有難いお言葉の書かれた紙ただの紙切れにも値上げの余波が来ているらしい。そんなことを思っていたら「凶」が出た。当たり前である。あいにく神は資本主義崇拝者なのであった――。参道に戻ると、お面が売られているのが目に入った。ドラえもん、キティちゃん、狐のお面、戦隊シリーズのお面――著作権法などかかってきやがれと言わんばかりの、威勢のいい店構えであった。あるいはこれは限りなくドラえもんに近い何か、キティちゃんに近い何かであったのかもしれない。Aが突然、
「戦隊シリーズのマスクか……そういえばアバレンジャーはよく観ていたよ。あんなクレイジーな作品はないね。テーマソング*3もクールなんだ。なんだってドラムがかっこいいんだよ。あれは間違いなくメタラーの仕業に違いないさ」
などと言い始めた。まさかと思ってその場で流してみると、イントロのドラムのフィルが完全にメタラーの仕業であった。〈アバレアバレアバレまくれ Get Down!〉――ずいぶんと攻めた歌詞だなと驚嘆していたら、"Get Down (くたばりやがれ)"ではなく"Get Up (立ち上がれ)"であったことが判明した。さすがにそれはメタルにも程があったか――。
鎌倉駅方面に戻るべく鶴岡八幡宮の大鳥居から続く表参道を通る。そもそも表参道は今日、東京の原宿にある場所のことを指す言葉になってしまっているが、本来はその名の通り、一番主要な参道という意味で使われるものである。それにしても今日は風が強い。砂埃のせいで鼻水が止まらなくなった。アレルギー性鼻炎持ちの人間は細かい粒子に弱かった。途中、鳩サブレーでおなじみの豊島屋に入る。こちらも食べるときにポロポロと粒子状のものが出現するが、当然ながら店内にはそんな食べカスは一つなく、むしろ高貴な佇まいであった。鳩サブレー一本でやっているのかと思いきや、他にもいろいろな和菓子やら煎餅やらがショーケースに並んでいた。店内の一角には鳩サブレーにまつわるグッズが展開されている。鳩のキャラクターがせわしなく足のブラシを動かして、机上のゴミを取るタイプのクリーナー。鳩サブレーの形をトレースした手鏡、ポーチ、キーホルダー、さらにはクッションまで。少しばかり欲しいと思ったがやめた。結局家に飾っていたところで埃が被るのが目に見えているのである。とはいえ、お土産や話のタネにはいいのではないだろうか。ちなみにこのグッズのアイデアは、豊島屋の社長が直々に考案しているのだとか*4。
せっかくなので、お徳用の10枚入りのものを買った。税込み1350円(2026年1月時点)。一枚当たり135円、スーパーで売られているような一般的なクッキーよりもはるかに高いお値段であると思ったが、さっそく一口食べてみてその理由が分かった。それぞれの素材が一切邪魔しあうことなく、完璧な配合で絡みあっている。卵の旨味、バターのコク、小麦粉の風味――それぞれが引き立てあいながら、けれども軽い食感で溶けていくのだ。これは普通のものとはひと味もふた味も違う——。裏面の原材料を見てみると「小麦粉(国内製造)、砂糖(国内製造)、バター(国産)、鶏卵(国産)/膨張剤」とだけ書かれている。なんてシンプルで潔い記載なのだろう。派手さはない。創業当時から変わらないレガシーな佇まいすら感じる。だが、レガシーであるが故のゆるぎない美味しさがそこにはあった。筆者は、このように食べ物に目がない性分であるが、Aはまったくの無頓着であり、
「いやぁ、それにしても豊島屋のトイレは清潔だったね」
などという始末である。ただ、鎌倉には公衆トイレ的なものはあまり見当たらないため、お土産のついでにこちらで用を済ませておくのはある意味オススメかもしれない。
豊島屋に行く前に、英国アンティーク博物館なるものにも立ち寄ってみた。無論ここは歴史資料館的なものではなく、ただの写真映えする撮影スポットである。まったく、安易に博物館などと名乗らないでほしいものである。リックロール(釣り動画)を観たときに近い感覚といえばいいだろうか。なお、インスタグラムのプロフィールには「シャーロック・ホームズの世界観を再現した空間で“ときめく映え写真”が撮れます📸♡」とあった。"映え"という言葉はとっくのとうにトレンドから外れた言葉であることは明確であるが、その辺も含めてアンティークを意識しているのなら、それはそれで面白い。もちろん、オススメはしない。そうこうしているうちに、鎌倉駅に到着する。初詣という本日のメインイベントが思いの外早く達成されてしまい、昼食の予約時間までまだ余裕があったため、由比ガ浜に行くことにした。時刻は12時前であった。(続く)
続きはこちら
