1. Foster the People - Paradise State of Mind
「Sacred Hearts Club」以来、実に7年ぶりとなった作品である。もともとはより短いスパンでアルバムを出す予定であったが、コロナウイルスの流行により計画が頓挫し、結局2020年に『In The Darkest of Nights, Let the Birds Sing』をリリースしたきりであった。「Pumped Up Kids」の衝撃的なデビューから早13年が経った。筆者は当時、この楽曲にまったくピンと来ていなかったが、今聴いてみるといかに先駆的なことをやっていたかが分かる。デビュー以来Foster the Peopleは、そのキャリアを重ねるごとにエレクトロな洗練を見せていく。前作はその極致といった感じの出来であったが、今作はポップネスのさらなる愉悦が広がっている。彼らの特徴は何よりも、心地の良いコード進行だと思う。わかりやすい、のではなく、とにかく心地が良いのである。次にこのコードが来るのかという意外性をはらみながら、最も適切な快楽のスポットに着地していく妙。本作はどの楽曲もこの愉悦が広がっているが、「Paradise State Of Mind」と「Glitchzig」は特に秀逸である。ちなみにバンドメンバーの一人が本作を最後に脱退し、現在は2名体制となっている。それこそデビュー当時はもっとバンド然とした体制でやっていたイメージがあったから意外である。
2. Bring Me The Horizon - POST HUMAN: NeX GEn
メタルにおけるジャンルにおいてはもはや、Bring Me The Horizon一人勝ちであると言っても過言ではない。前作『amo』以上の作品は流石にできないだろうと思っていた矢先、とんでもない作品が産み落とされた。よりコンセプチュアルでセンセーショナル。SUMMER SONIC 2024のアクトの演出でもあったように、本作からは2000年代のの匂いが前面に漂ってくる。何より大文字と小文字がランダムになった楽曲の表記は、当時のエモサブカルチャー界隈のオンラインチャットのようである。楽曲のこうしたカルチャーのリバイバルさせる試みはThe 1975にもみられる。彼らは1980年代生まれであり、2000年代初頭に多感な青年期を過ごしたことからもある意味それは必然と言えるだろう。この時代は人、カルチャーとの関わり方が物質的なものからデジタルへと移行する過渡期であると言えるが、そこに内在している不安定や危うさが、ノイズサウンドとして見事に昇華されている。本作はX JAPANのhideが1990年代後半に活動していたZilchと近接性を持って聴こえるが、それもまた偶然ではないような気がする。ちなみにhideは自らの表現についてデジタルと生身の人間が融合した"サイボーグロック"と呼称していたが、これについても彼らの"サイバーパンク"と共鳴している点で非常に興味深い。
3. Linkin Park - From Zero
あまりにも見事なカムバックである。2017年のチェスター・ベニントン急死という衝撃的なニュースから7年、突如公式サイトで謎のカウントダウン(その後再びカウントアップ)が始まった。当初はベストアルバム発売か何かかと思ったが、9月5日、なんと新しいボーカリストエミリー・アームストロングを迎え入れ、Linkin Parkは再始動を果たした。バンドが再結成すると、ライブをやるばかりで新曲を出さないことがよくあるが、彼らの中にはそうした選択は初めからなかった。それからわずか数か月後、彼らは『From Zero』をリリースする。チェスター在籍時のLinkin Parkというのは1st、2ndアルバムから徐々に変容を遂げ、最終的にはポップネスに彼の叫びを委ねるまでになっていたが、今作はいわばその逆。原点への回帰である。先行でリリースされた「The Emptiness Machine」と「Heavy Is the Crown」はその象徴ともいえる楽曲だろう。とはいえ過去の焼き直しに聴こえてこないのはやはり、ボーカルが女声になったことが大きい。シャウトの質も、エミリーの方はよりラフで生々しい印象を受ける。それらの要素が良い作用をバンドにもたらし、全く新しいLinkin Parkとしてしっかりと成立している。本作をひっさげた久々の来日公演では、かつてのアンセムではなく、この新作の曲がもっとも今の彼らにとって輝いていることを確信するライブであった。まったく、いつになってもワクワクさせてくれる、とんでもないモンスターバンドである。
4. The Linda Lindas - No Obligation
The Linda Lindasといえば、そのバンド名が邦画『リンダ リンダ リンダ』から取られ、10代の女性パンクロックバンドという目新しさも相まって、瞬く間に日本の世間に知れ渡ることとなった。2022年には、SUMMER SONICで満を持して登場。MOUNTAIN STAGEは大入りとなった。とはいえ当時筆者はボロクソに書いていたような気がする。その音楽というよりも、聴いているファン層がとにかくキツかったのである。"若いのにパンクロック、しかも日本のTHE BLUE HEARTSも聴いているだなんておじさん"が沢山いたのである。以来、全く敬遠してしまっていた。日本での盛り上がりもほとぼりが冷めた2024年、彼女たちは新作をリリースした。何気なく聴いてみると、あまりのクオリティの高さに驚いた。いわゆるティーンの青春の叫びであるが、どの曲もサウンドのバランスが非常に良い。そして、パンクらしからぬメロディアスさが内在している。中でも「Yo Me Estreso」が秀逸だ。Green Dayのビリー・ジョーが来日公演で「リンダリンダ」の一節を歌っていたが、これはUSツアーで彼らの前座を務めた彼女らの助言があったのではないかと推測している。日本人は「リンダリンダ」を歌うとたいそう喜びまっせ――。ほんまかいな。ほな一つやってみますわ――という会話は無論妄想である。
5. Kit Sebastian - New Internationale
Kit Sebastianは、ロンドンとフランスを拠点とするマルチ奏者のキット・マーティンと、 イスタンブル出身のメルヴェ・エルディムからなる音楽デュオである。本作では『New Internationale』というタイトルの通り英語、フランス語、そして英語の楽曲がシームレスに並んでいる。サンプルは使用せず、世界各国の楽器を実際に調達し、そのすべてがキットの手によって演奏されている。本作には1960年代のフランスのラブロマンス映画に挿入されていても違和感のない懐かしさが纏われている。特筆すべきはトルコ語の楽曲「Göç / Me」と「Bul Bul Bul」。もはや絶品の領域である。小気味のいいビートに吸い付くように乗る言葉は、12音階から外れた音階において、得も言われぬ快感をもたらす。トルコの民族楽器とロックを融合させた、いわゆるアナドル・ロックとは少し文脈が異なってくるが、そういったテイストも感じられる。日本人にとっては、昭和の演歌のようにもあるいは聴こえてくるかもしれない。日本においてはフジロックに出演したAltın Günの知名度が、トルコのロックバンドのくくりとしては比較的高いが、彼らも来日公演をきっかけに、一気に人気が出そうな気がしている。余談であるが、彼らは草野マサムネのラジオ番組でも一度紹介されたことがある*1。
*1:特集テーマは「最近のエキゾチック系バンドで漫遊記」