三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

三浦的2023年ベスト・アルバム5選――洋楽編

1. Foo Fighters - But Here We Are

2022年3月25日、バンドのドラマー、テイラー・ホーキンスが突然この世を去った。フロントマンに次ぐ"要"は、世界的なバンドともなると必ずいるものであるが、彼はまさしくそんな存在だった。フロントマンのデイヴ・グロールといえば、これまでにもNirvanaにおいてカート・コバーンを失っている。想像も絶するほどの喪失感の中に苛まれたデイヴであったが1994年、新たにFoo Fightersというプロジェクトを立ち上げる。それから20年、今日ではNirvanaと双璧をなすほどのバンドにのし上がった。そんな中で再び直面した偉大なる存在の喪失――。デイヴはまたしても音楽で、この悲しみを昇華させた。『But Here We Are』には、近年の彼らの作品にはなかった、切実さが垣間見える。無論そこには、メンバーの死、そして彼の母の死もまた、大きな影響を与えている。全体的なサウンドは、テイラーの頃とは大きな違いはないが、その乗り方や、ドラムにフォーカスした時の音の鳴り方はやはり異なる。とはいえそこに優劣をつけるのではなく"新しいサウンド"と書きたい。そう思わせるのは、一曲一曲のクオリティの高さだ。捨て曲が一切ないのである。The Rolling Stonesもそうであるが、誰かの死というのは、皮肉にも一番の原動力となるのか。『Wasting Light』以来の傑作である。

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2. blur - The Ballad of Darren

前作から、8年も経ったのかと思った。あまりそう感じないのは、フロントマンのデーモン・アルバーンのサイドプロジェクトであるGorillazの活動が非常に充実していたからかもしれない。2023年、デーモンはなんとその両者で「Cracker Island」、「The Ballad of Darren」と立て続けにリリースする。どちらもベスト・アルバムに選定してもよかったのだが、blurの方にした。選定理由としては、2023年に観に行ったSUMMER SONIC 2023における筆者の感動がその大半を占める。ヘッドライナーで出演したblurは、圧倒的な貫禄で日本の音楽ファンにその世界を見せつけた。かつてのヒットソングはもちろん良かったのだが、何よりも最新作の楽曲がとても印象に残った。決してノスタルジアに浸ることなく、どこまでも"リアルタイム"なバンドだと思った。中でも「The Narcissist」は彼らのキャリアにおいても大名曲の域にあると思う。1990年代は同じイギリスのoasisと比較されることも度々あったが、2010年代以降に関しては彼らの方が上だ。なんと言われようと作品を出し続けた方が偉いのである。と、そんなことを垂れていたらoasisが2024年、再結成してしまった。月が地球に衝突するくらいの確率だと思っていたから衝撃だった。生きているとちょっとはいいことがあるものである。

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2000年代のポップパンク界のアイコンのようなバンドが2023年、もう一度、センセーショナルな作品を生み出した。と大袈裟に書くと、2010年代の彼らの作品に失礼であるが、事実なんだからしょうがない。悲しいかな、大半の音楽メディアもこの書き方である。さて、この"復活"は何より、オリジナルメンバーのトム・デロングの復帰が大きいだろう。そしてマーク・ホッパスの大病からの復帰、こちらもその作風に大きな影響が出ている。ド頭の「ANTHEM PART 3」を聴いた瞬間、ああ、これは最高にクレイジーな作品なんだってことが分かったよ、と外タレ翻訳風な感想が飛び出すほどの仕上がりである。2000年代のパッションをそのままパッケージした、みたいに書いてしまうと懐古的の意味に取られかねないが、別にそれでも構わない。とにかく潔いのである。変にポップになろうとか、最近のトレンドに迎合しようとか、そっちの方が彼らには似合っていない。Red Hot Chili Peppersはギタリストのジョン・フルシアンテが復活したが、いまいちパッとしないため、この作品が余計に燦然と輝く。昨今のパンクリバイバル的な流れも追い風だ。無論、日本では"エターナル(永続的)"メロコアパンクブームであるため、肌ではなかなか感じにくいが、どうやら海の向こうではそうらしいのである。

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4. The Rolling Stones - Hackney Diamonds

本当に驚いた。作品からはベテラン感、あるいは老いようなものは一切感じられない、むしろ一切排されているようにすら聴こえる。The Rolling Stonesというシンプルにかっこいいロックンロールを鳴らし続けている存在、ただそれだけが感想として残るのである。何といってもボーカル、ミック・ジャガーのフィジカル。徹底的に管理された肉体から発せられる歌声は80歳とは思えない瑞々しさがある。『A Bigger Bang』以来約20年ぶりにリリースされた作品であるが、その当時よりもサウンドがさらに刷新され、洗練されているようにすら聴こえる。 2021年、ドラマーのチャーリー・ワッツが亡くなり、曲の大半はスティーブ・ジョーダンが務めているが、これが彼らのサウンドの変化に寄与していることは間違いない。「Live By The Sword」はチャーリーがドラムをプレイしている数少ない曲であるが、アルバムで続けて聴くと極めて異質である。ドラムが"踊っている"のだ。それもミックのような奇妙な踊りなのである。「Bite My Head Off」ではなんとあのポール・マッカートニーがベースを弾いている。無論、コーラスなども一切なし。今の地球上にこんな贅沢な使い方ができるのはおそらく彼らだけだろう。ストーンズとビートルズの伝説の歴史的な共演作としても後世に残る傑作である。

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5. Olivia Rodrigo - GUTS

2023年のベスト・アルバムの選定は、比較的年齢が高くなってしまったが、ここに来て初めて20代の登場である。本作を一聴して感じたのは、1990年代から2000年代のリバイバルである。昨今の音楽業界を取り巻く全世界的なトレンド、あるいはキーワードはこれである。80年代のシティ・ポップブームなんて言うのはもはや遠い過去である。ジャンルは異なるが、韓国のダンスグループであるNewJeansとも交錯する。彼女たちはアジアの文化圏の話であるが、オリビア・ロドリゴの場合はUSのスケートカルチャーの香りが漂う。女性アーティストでいえば、アヴリル・ラヴィーン、ロックの文脈でいえばGreen Dayといった"あの頃"の音。とはいえそこにはパンキッシュな叫びのようなものはなく、あくまでもティーンエイジャーの青さを表現するための要素の一つとして使われている。いわゆる"エモ消費"的であるが、そういうものもひっくるめて非常に2020年代な作品である。2010年代後半のアメリカのヒットチャートはトラップビートで埋め尽くされていたが、最近は再びギターロック的な曲がフィーチャーされてきた感がある。彼女は2024年には有明アリーナ公演をソールドアウトさせるなど、日本でも着実に注目を集めている。数年後、幕張の某フェスのヘッドライナーを務める姿が目に浮かぶ。

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