三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

三浦的2023年ベスト・アルバム5選――邦楽編

1. BUCK-TICK - 異空 -IZORA-

BUCK-TICK"第一期"の最終形態にして最高傑作。ゴシックな世界観をこれ以上にないほど極限まで構築しきった完璧な作品である。30年以上のキャリアにもかかわらず、このような先鋭的な作品を生み出した事実には驚くばかりである。そんなアルバムがリリースされた矢先、フロントマンである櫻井敦司は2023年10月19日、突然この世を去ってしまった。KT Zepp Yokohamaで行われていたファンクラブ限定ライブのことだった。3曲目の「絶界」を歌い終えたところで、スタッフの助けを借りてステージを後にし、そのまま帰らぬ人となってしまった。あまりにも悲しく、そして美しい最期であった。〈カッコいい死に方なら 周知のとおり 早死にすれば ロック教の殉教者決定〉。同年の暮れの音楽番組で、とあるミュージシャンがそのように歌っていた。これは彼に対する追悼だったのかもしれない。櫻井にとってはこれが遺作というのもまた美しい。中でも「太陽とイカロス」は作品を通じたベストトラックである。

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2. 坂本龍一 - 12

2023年3月、坂本龍一が亡くなった。その数か月前にNHKで放映された〈Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022〉では、瘦せこけた姿が映し出された。肌には張りがなく、目の光は失われようとしている。その声も何とか絞り出すようにして出していた。ところがピアノを弾き始めた途端、生気が宿り出し、骨張った指からは想像もできないほど力強い音が奏でられたのだった。人生の終わりを自覚した人間にしか出せない凄みがそこにはあった。『12』は、晩年の坂本龍一が日記をしたためるようにして書いたという12曲の楽曲が収録されており、先に書いたコンサートでも演奏されていた。また、2023年に公開された映画『怪物』においてもこの作品から数曲使われている。ピアノの鍵盤を押す微かな音や、演奏者の呼吸音がそのまま録音されているのが印象的である。その2023年は『怪物』のロケ地である長野県諏訪市に行く機会があった。諏訪湖を中心にした市街地を何気なく歩いていると、『12』の楽曲の旋律がふとよぎって風に消えた。

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3. King Gnu - THE GREATEST UNKNOWN

King Gnuが世間で脚光を浴び始めたのは、2018年から2019年の頃だったと記憶している。2019年にリリースされた「白日」は、ゼロから1どころか、その1がさらに100へと指数関数的に伸びていくような時期だった。それから数年が経ち、今や日本の音楽シーンにおいて盤石の地位を築き上げるまでに至った。前作の『CEREMONY』が1から100への躍進だとすると、今作は100から100、つまりは"現状維持"。とはいえマイナスな意味ではない。彼らの地位が揺らぐことがない、つまり"キング"として君臨し続けるための証明作なのである。そんな本作であるが、いわゆるアルバム曲はほんの数える程度しかなく、ほとんどが既にリリースされた楽曲だ。だがそれが単なる寄せ集めになっていないのは、楽曲の合間、あるいは前奏、後奏に追加されたインタールードの妙であろう。最たるは「SUNNY SIDE UP」から繋がる「雨燦々」。楽曲の世界を補完しながら、アルバムとして見事に溶け込ませている。こうすれば最もいい形で楽曲が聴こえるというのを、すべて計算尽くしでやっていて、それが奏功している。まさに、音楽の優等生、音楽界の"令和ロマン"といったところだろうか。

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4. Galileo Galilei - Bee and The Whales

2016年、活動休止をしたGalileo Galileiであったが、2022年活動を再開し翌2023年、本作である『Bee and The Whales』をリリースした。彼らの影響元を語るうえで看過できないのはイギリスのThe 1975の存在である。今作でも徹頭徹尾その影響を感じられる。アコースティックサウンドと、楽曲の余白、そしてコーラス――。早い話、The 1975の近作『Notes on a Conditional Form』と『Being Funny in a Foreign Language』を聴けば、なるほど、と思うはずである。The 1975がそれこそ世間でフォーカスされるようになったのは、Galileo Galileiの活動休止後、2016年以降であった。とはいえ彼らは活動休止以前からリアルタイムでその音楽性を自分たちの音楽に取り入れている。では、彼らのオリジナリティはというと、紛れもなく北海道の稚内の空気である。今作でもそれが随所に感じられる。例えば「愛なき世界」では駅構内のアナウンスが入るが、そして最後の「東京です」という声が、その"距離"を感じさせる上で象徴的な演出になっているように思える。

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5. The Birthday - サンバースト (2021)

今年はアーティストの訃報が相次いだ――。そうした自覚はあるいは、それだけ自分が年を取ったということかもしれない。2023年11月26日、The Birthdayのボーカル、チバユウスケが55歳でこの世を去った。同年4月に食道ガンを公表してから、僅か7か月のことだった。彼はその体が限界を迎えるギリギリまで、ステージに立ち続けた。『サンバースト』はThe Birthdayにとっての最後のフルアルバムである。本当に、傑作だと思う。チバが亡くなった後改めて聴いてみると、自分がこの先長くはないということが分かっていたのではないかと思う場面が何度かあった。あくまでも直感であるが、歌詞だけではなく、ボーカルの余白の部分からもそのようなものが滲み出ているのだ。死を目前にした切実で逆説的に力強さを孕んだもの。その前作にリリースした『VIVIAN KILLERS』からはあまり感じられない。本作以降EPを2作品リリースしたが、あえてフルアルバムにしなかったのも、どこか示唆的なものを感じる。チバユウスケ、ラスト・ビート――。

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