三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

トム・ヨークと友人E――Everything Tour 東京ガーデンシアター公演 ライブレポート 前編

「そういえば、奥田民生のライブには行かないんですか?今年(2024年)の10月にありますけど。両国国技館でやるバンド編成と"ひとり股旅"形式のライブ――」
「いや、そっちには行かないっすねー。迷うんですけどねー。まあ、代わりと言ってはアレですけど、次はトム・ヨークの"ひとり股旅"に行くんですよ」
筆者の問いにそのように答えたのは友人Eであった。Eは続ける。
「今年は6都市10公演やるんですよ。これってもう"ひとり股旅"じゃないですか。どうです?一緒に――」
Eというのは筆者の大学時代からの友人である。そして、その容姿と動きはトム・ヨークにそっくりであった。よく骨格が似るとその歌声も似ると言われるが、彼の歌うRadioheadもまた本人と遜色がないくらいのクオリティであった。そんなEが行く予定の日は東京ガーデンシアター公演の2日目であるという。筆者もRadioheadや近年のThe Smileはそれなりに追っていたため、気になってはいたが、ソロということで少しばかりの躊躇があった。ただ、Eが行くならということで、行くことに決めたのだった。

ところがチケットの抽選に応募してみると後日、「残念ながら、ご希望のチケットはご用意できませんでした」といった旨のメールが届けられた。たちまちうなだれ、SNSのチケット譲渡ポストを漁ってみる。しかしながらなかなか見当たらない。そもそも焦ってSNSなんかでチケットを買おうなどという算段はあまりよろしくない。渡る世間に鬼はないとはいうものの、それで過去に何人もの知り合いがチケット詐欺の被害にあったのを知っている。そうこうして月日が流れたある日、Eから連絡が来ていた。
「トム・ヨークのチケット、まだチャンスありますよ」
さっそくチケットの受付状況をみてみると、なんと第3次抽選受付が開始されていた。急いで申し込み、筆者はここでようやく当選を果たしたのだった。

 

Eとライブに行くのは久しぶりだった。極私的になってしまうが、Eと筆者との関わりについて少々書いてみたい。Eと初めてライブに行ったのは9年前のこと。MONORALという日本のロックユニットだった。"文化的僻地"秋田から上京したての筆者にとってこれが人生で初めてのライブでもあった。渋谷にあるチェルシーホテルというライブハウスだった。あの時は観るものすべてが新鮮だった。何も知らない筆者を先導してくれたEが小1の時にみた小6くらいに見えた。それから2017年のイギリスのスリーピースバンドMUSEの横浜アリーナ公演にも行った。このときEは、全身銀色のタイツを着て現れた。某バラエティ番組的に言えば、銀色の"モジモジ君"である。これは『FUJIROCK FESTIVAL '10』にMUSEが出演した際のドラマー*1と同じ格好であるらしかったが、何も知らない人にとってはあまりに不審極まりない風貌であった。無論、MUSE的視点に立ってみれば正装である。至極真っ当な真実を言っているにもかかわらず、陰謀論者と扱われるような歯がゆさが当時の彼にはあったのかもしれない。もちろん、最寄の駅からこの格好で会場に向かい、帰りの新幹線もキラキラと光を反射させながら乗り込む徹底ぶり。彼は真実を盾に行動しているにすぎなかった――。そのストイックな努力が功を奏したのか、とある曲で奇跡が起こる。ボーカルのマシュー・ベラミーがステージから客席に降りたとき、なんとその姿を見つけ、わざわざ握手をしに来たのである(その様子は当日のストリーミング映像にバッチリ残されている)。今でもMUSEのライブの話になると、必ずこの話題になる。そんなライブから、早いもので7年の月日が経った。

 

2024年11月24日、ライブ当日。15時半頃、会場すぐ隣の有明ガーデンに到着する。電話をかけてみると、フードコートにいるという。休日のフードコートはごった返しており、これは見つけるのが大変だな……という感じであったが、そんなことはなかった。辺りの家族連れやカップルとは全く異質なオーラを放つ人物が、視線の先の方で右往左往をしているのを発見したからである。無論、それがEなのであった。
「いやー、それにしてもフードコートって広いんすねー。お腹空いたんで、昼食買ってきます」
そう言ってEは再び人ごみの中に消えていってしまった。筆者は先に昼食を食べていたため、フルーツジュースを買う。再びフードコートの座席に戻ると、Eは冷麺を啜っていた。
「いやー、びっくりしましたよ。今ってこんなに高いんすね。どこもかしこも値上げ値上げですよ――」


この日のEは全身ブラックで揃えたコーディネートであったため、普段の怪しさが余計に際立つ。開演までまだ時間があったので、しばらく有明ガーデン内を回ることにする。H&Mの一角にKornとGorillazのパーカーが並べられているのを見つける。Eは今日来ているという高校時代の友達のためにと言って、Gorillazのキャラクターが描かれたTシャツを買っていた。エスカレーターに乗っていると、Eがちょっとすみませんね、と言って上着のコートをこちらに渡してきた。直後、半袖に着替え始めた。おそらく、有明ガーデンのエスカレーターで着替えをした初めての人物ではなかったか。
「今、ここは寒いですけど、会場は絶対暑いんすよ」
なるほど……いや、なるほどではない。だからと言ってわざわざここで着替えなくても……というツッコミは彼には通用しなかった。長年の慣れというのは恐ろしいもので、当時の筆者にそういった思考は浮かんでこなかった。有明ガーデン名物と言えば、その日にライブをするアーティストの楽曲が館内のBGMとして流れるというものであるが、例によってこの日もRadioheadの楽曲が流れていた。ファミリーが買い物やら食事をしている裏で、それとは背反する音楽がひたすら流れるギャップ。これは今後もぜひとも続けてほしい文化である。

 

そのまま有明ガーデンを出て、併設されている東京ガーデンシアターの方へと向かう。会場外の大きなスクリーンにはツアータイトルの「Thom Yorke: everything playing work solo from across his career」が映し出されていた。この会場は首都圏の数ある会場の中でも上位に入るくらい好きな会場である。というのもステージから離れていても比較的見やすく、何より音響のバランスがとても良いのである。Eが第2バルコニー、それから一歩遅れて申し込んだ筆者は第3バルコニーだったため、そこでいったん別れた。
「それではまた」
「それでは――」
(続く)

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Setlist
01. Weird Fishes/Arpeggi
02. Pyramid Song
03. A Brain in a Bottle
04. Packt Like Sardines in a Crushd Tin Box
05. Glass Eyes
06. Jigsaw Falling Into Place
07. Nose Grows Some
08. I Might Be Wrong
09. Videotape
10. Back in the Game
11. Volk
12. Daydreaming
13. Black Swan
14. Follow Me Around
15. Dawn Chorus
16. Airbag
17. Atoms for Peace
18. Not the News
19. Idioteque

Encore
20. All I Need
21. Cymbal Rush
22. Karma Police

 

*1:

目を奪ったのが、そのド派手なコスチューム。マシューは真っ赤なラメの上下スーツに、光るサングラス、ドラムのドミニクはモジモジ君のようなシルヴァーの全身タイツに、宇宙戦士的特製ヘルメットを着用。ドムのコスチュームはフジロック用の特注で、なんでも、2007年のフジロックに出演した時に、虫の襲撃に合い大変な思いをしたらしいのです。ドラムを叩いてて両手がふさがれてるから虫を追いはらうこともできず、虫が身体中を這い上がってきて、それはそれは不快な思いをし、二度とフジロックには出ないぞ、とライヴ直後に誓いを立てたほど。あっけなくその誓いは破られたわけですが(笑)、だったら虫除けスーツを作ってしまえということで、今回、虫が入る隙間のないぴちぴちのモジモジ君タイツを考案したそうです。おかげでというか、雨の後だったせいというか、虫の襲撃には今年は合わなかったようです。

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