三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

三浦的2020年ベスト・アルバム5選——洋楽編

まったく... 何考えてんだか。2021年のGWも過ぎたってのに、今頃2020年の振り返りをしてるのはどこのどいつだ? ...まあ、10年経ってもこのページが残っていて、10年後に誰かが読んでいたら、そんなこと誰も気にしないだろう。長いスパンで考えれば、何事もそんなもんさ、忘れちまう。え、なんだか文体がおかしいって? 最近『カウボーイ・ビバップ』にハマっていてね。日本が誇るアノ伝説的なSFカウボーイアニメさ。というわけで、三浦的ベスト・アルバム企画、いよいよ発表したい。まえがきを読みたいヤツはこちらをクリックしてみてくれ。 

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1. The Strokes - The New Abnormal (2020)

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2020年は、Netflixの『ストレンジャー・シングス』に夢中になっていた。この話は1980年代のアメリカの小さな町が舞台で、一人の少年が未確認生命体に襲われ、行方不明になるところから物語は始まる。少年の友人たちとその家族が力を合わせて事件の真相に迫っていく——。そんな作品で驚かされたのはストーリーだけではなく、作中のサウンドトラックであった。舞台設定の1983年、1984年、1985年それぞれで、同時期の楽曲が使用されるが、古臭いどころかむしろ新鮮に聴こえる曲も多くあった。あれ、80年代イカしてる——。前置きが長くなったが、The Strokesの7年ぶりとなる新作『The New Abnormal』から感じられるのは、『ストレンジャー・シングス』を観たときに似た1980年代への憧憬だ。当時の要素を忠実に抽出しつつも、それが今でも十分に通用するツールとして組み替えられ、磨き上げられている。ダウナーなシンセサイザーから始まる「At The Door」は、まさにその到達点といえるのではないだろうか。決して郷愁(ノスタルジア)ではないというのが本作のミソである。一聴してみればわかるはず。

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2. Billie Joe Armstrong - No Fun Mondays (2020)

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2020年、ビリー・ジョーがフロントマンを務めるGreen Dayが久々に来日公演を行うことになっていたが、新型コロナウイルスの流行によって中止(ツアー自体も)という幕切れに終わってしまった。不完全燃焼——。ビリー・ジョーは鬱屈を、カバーという形で表現した。その際彼は、"リスナーにとってレアだと思うような曲"をセレクトした。自身と同世代や同ジャンルのアーティストではなく、一昔も二昔も前の曲であったり、ニュー・ウェイヴであったりポップスであったり、さらにはイタリア語の楽曲まで。一見すると雑多になりそうなではあるが、彼の音楽のフィルターを通されたことで、パンクとして昇華されているのには、思わず笑みがこぼれるほどであった。また、本作はカバー作品でありながら、2020年という未曽有の空気感を反映させている点にも注目したい。黒人のジョージ・フロイドが白人警官によって殺害されたことを受けて起こったBLM(Black Lives Matter)運動の最中カバーされた「Police On My Back」は、彼なりのメッセージのように思えてならない。彼の精神は、いかなる時でも"パンク"なのである。

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3. The 1975 - Notes On Conditional Form (2020)

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The 1975の音楽は、インターネット以降の人々の空虚感やそこから生まれる不安を内包し、楽曲というフォーマットで発散させる。ときにその役割は、フロントマン、マシュー・ヒーリー自身に託されることさえあり、パフォーマンスでの儚げな視線と、退廃的な振る舞いに、人々は新たなロック・スター誕生を思う。『Notes On Conditional Form』はそのスタンスを変えることなく、世間に渦巻く混沌をしなやかに撫でてゆく。そして、そのアプローチは実に多岐にわたる。インダストリアル、カントリー、インディギター・ロック、R&B、ローファイ・ヒップホップ——。これまでの先人が知らず知らずに作り上げてきたジャンルという名の壁を、ひょいと乗り越える。いかにも"ストリーミング・チック"な掻い摘み方ではあるが、それ自体がこの現代の空虚感を表現しているような気さえしてしまう。物理的な関わりから遠ざかることとなってしまった現在。悶々とした引きこもり生活、画面越しの仮想的な面会。マシューが描いてきた空虚感は2020年、さらなる実感を伴い、様変わりした世界を包み込んでゆくのだった。

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4. Toploader - Onka's Big Moka (1990)

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2020年になぜこの作品を選んだのかといえば、Netflixドラマ『アンブレラ・アカデミー』で「Dancing In The Moonlight」が挿入曲として使用されていて、そのシーンがあまりにも印象的だったからだ。このドラマの原作コミックの作者はMy Chemical Romanceのフロントマン、ジェラルド・ウェイであり、エンディングテーマはジェラルド自身が歌う。養父の死をきっかけに再集結したスーパーヒーローが、世界滅亡の予言に立ち向かっていく。血縁関係のない家族は、本当の家族になれるのか。次々に明らかになっていく過去、そこから絆は生まれるのか——。いわゆる、SFタイムスリップなストーリーであるが、様々な要素が絡み合う。たとえば、ケネディー政権下のアメリカで、黒人差別に立ち向かおうとする人々の描写、そして登場人物のセクシュアリティ(同性愛)の葛藤や、家族に虐げられてきたコンプレックスなど、2020年、非常にタイムリーに感じられる話題ばかりであった。そんな作品でこの曲が流れるシーンというのは、なんとも甘美なダンスシーン。実に秀逸、ぜひとも実際に確かめてみていただきたい。

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5. Jimmy Eat World - Clarity (1999)

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あるときSpotifyの海を彷徨っていると、The 1975が公開しているプレイリストを発見した。タイトルは「At about 6-7」、ジャンルも時代も様々な楽曲が並べられているが、どこかマシュー・ヒーリーの影響を色濃く感じられるものだった。その中に、このJimmy Eat Worldの「For Me This Heaven」が選曲されていた。不思議なことに彼らの楽曲に古臭さはなかった。The 1975と地続きに聴ける感触があった。両者の間には20年の時間差が存在しているが、それすら感じさせない——。時代やその年で括るのは、もう時代遅れなんだろうか。ストリーミングというアーカイブ化された空間の中で、リスナーがジャンルや時代をシームレスに横断しながら聴いている。自分自身もその中の一人だ。毎年その年のベスト・アルバムを選定する人間が現れるが、果たしてそれで満足した気になっていないだろうか。音楽は何かあら捜ししたり、目的を定めたりして聴くのではなく、あくまで直感的に聴くものだ。これは書くことが無くなった人間の戯言にすぎない。どうか見逃してほしい。というわけでベスト・アルバム企画はこの辺で終わりにしたい。To Be Continued. See You Space Cowboy...

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