三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

三浦的2019年ベスト・アルバム5選―邦楽編

1. ONE OK ROCK - Eyes of the Storm

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ONE OK ROCKは今作で、"日本の"ロック・バンド、という括りを無くすことに成功した。確かに彼らは、日本で生まれ、日本語を母語としている。だがその表現は、サウンドや、歌い方、さらにはリリックの入れ方に至るまで、近年のUSポップ/ロックの作法であった。ポップ・ミュージック最盛期の現在において、USのロック・シーンは、打開策としてポップとの融和を図っている。ONE OK ROCKもまた、彼らと同様のまなざしで、新たな可能性を見出そうとした。彼らに対する、"世界に対する迎合"であるという批評。それは、日本というフィルターを通してみているに過ぎない。むしろ彼らは今作において、"ガラパゴス的"な日本のロックに一石を投じているのだ。現在、フィジカルではなく、ストリーミングが世界的な状況の昨今において、リスナーの視野はどんどん広がっている。アーティストもそうした視野は今後、より必要になってくるはずだ。そんな中で出された本作はまさに、現在の日本のロックシーンの"未来"なのである。

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ONE OK ROCK - Wasted Nights

2. スピッツ - 見っけ

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前作『醒めない』(2016)以来3年振りとなる新作は、若々しさに満ち溢れていた。無論、20代の頃のようなハイ・ノートな歌唱はないが、無理することなく至って自然体な、血の通った温かさがそこにはあった。メンバー全員が50代に差し掛かってリリースされた本作、詩人ビクトル・ユーゴーの言葉に、"四十歳は青年の老年期であり、五十歳は老年の青年期である"というものがあるが、まさに今作はそれが体現されているようであった。メロディーや、作詞のセンスも相変わらず健在。朝の連続テレビ小説の主題歌「優しいあの子」を筆頭に、頭の中でリフレインさせるフレーズを連発する。また、曲同士のまとまりも、コンセプチュアルとは言えないが、非常に強固。全体を通して牧歌的で、雄大な自然の風景の中で繰り広げられる物語が思い浮かんでくるようであった。曲単位で音楽が聴かれるようになってきた時代においても、アルバム単位でしっかりと聴かせてくれる数少ない作品の一つである。

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スピッツ - ありがとさん

 

3. 椎名林檎 - 三毒史

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椎名林檎、デビュー20年の節目となった作品は、そのキャリアのみならず、日本の音楽シーンをも総括するものとなった。収録されている13曲中6曲は、ゲストボーカルを据えたものである。中でも、1990年代から第一線で活躍し続けているバンドのボーカリストとの共演は白眉。トータス松本(ウルフルズ)をはじめ、宮本浩次(エレファントカシマシ)や向井秀徳(NUMBER GIRL/ZAZEN BOYS)、櫻井敦司(BUCK-TICK)とのコラボレーションは大きな話題を呼んだ。いずれのアーティストも彼女同様、キャリア、ひいてはボーカリストとしての成熟を見せており、この機会が絶好のタイミングだったといえよう。少なくとも、10年前には到底実現できなかったラインナップであることは確か。そんなアーティストの物理的な多様性はもちろん、その音楽性は実に種々雑多。仏教的なインストゥルメンタルから始まり、ラテンビート、オートチューン、スウィング・ジャズ、そして聖歌のようなエンディング…。しかしながら、椎名林檎の手にかかってしまえばお手の物、楽曲はアルバム用にリミックスされ、まるで一巻の絵巻物のようにまとまっている。まさに"現代版百鬼夜行"だ。

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椎名林檎と宮本浩次 - 獣ゆく細道

4. UNICORN - UC100V

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お、久しぶりに気合が入っている。この温度感は、彼らが再結成した2009年にリリースされた『シャンブル』を彷彿とさせる。すべての曲に、遊び心とキャリアの重みが加わり、それがちょうどいいバランスとなって聴く者の耳を楽しませてくれる。近年は、奥田民生をメインボーカルに据えるという体制ではもはやなくなり、メンバー全員がマイクを取っているが、その感じもカッチリとハマったのが今作のように思える。特に、EBIのUSパンク調の「大航海2020」や、ABEDONがボーカルを務めたピアノ・ポップ「青十紅」はそれぞれの個性をしっかりと楽曲に昇華させている。ただ、やはり今作で圧倒的な存在感を放っていたのは奥田民生だった。ボーカルを担当する曲が少ない分、特大ホームランを打たんばかりの気合が楽曲にはあった。広島カープのエルドレッド選手を彷彿させる「55」は、個人的には再結成以来のベスト・トラックと言っても過言ではない。じんわりと温めていくAメロからサビでみせる、突き抜けるようなハイトーン、民生節。無論、全体のバランスを見ての久々の快作である。

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ユニコーン New Album『UC100V』全曲チョイ見せMusic Clip
 

5. SEKAI NO OWARI - Eye

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2019年、彼らのライブを初めて観た。会場は〈MIDNIGHT SONIC〉、目当てはMGMT。折角だからとりあえず、SEKAI NO OWARIも観ておこうという感じだった。折角、とりあえず観ておこう――そう思ってしまった自分を恥じたい。度肝を抜かされた。そのライブでも多く演奏された今作の楽曲群は、バンドという枠組みから軽やかに飛び出ている。楽曲を構成するビートはローを強調させた太い音色で、その余白を退屈にさせない。深瀬のファンタジックな歌声がそのギャップを演出し、低音が心地よく浮き彫りになる。「Blue Flower」はまさにその真骨頂といえるだろう。アコースティック・ギターやピアノ、ストリングスは、最低限の役割を果たしながら入り込んでいき、ビートが生み出す"ノリ"をアシストする。ダンサブルな要素はサウンドだけではなく、その構成にも表れている。例えば「Monsoon Night」では、ビッグバンドのスタイルを踏襲しながらも、EDMの要素が折衷的に入れ込まれる。ジャンルのクロスオーバー、ポップ・センス、どれも挑戦的でありつつ、そのバランスがうまく保たれた作品だ。

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SEKAI NO OWARI - Food