三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

その歌声が最大限に生かされた作品―柴田聡子『愛の休日』レビュー

柴田聡子の歌声にはつかみどころがない。メロディーによって敷かれた"音程の道"を、正確に歩むのではなく、道草を食いながら、あっちこっち往来をする——。通算4枚目となった『愛の休日』(2017)では、そんな彼女の歌声の特徴が、見事"旨味"となって引き出されている。さらに、声の震えだとか、息継ぎをする音はまるで、すぐそばで歌っているかのように鮮明に聴こえてくる。

 

けれども、そうした主張が決して強すぎないのがいい。それはおそらく、各楽器の音のバランスがフラットになっているためであろう。ベースとアコースティック・ギターのバッキングは、どちらが目立つこともなく、おおむね同列なミキシングがなされており、歌声はあくまでそれに付随するような位置づけになっている。特にベースは、楽曲をしっかりと支えながらも、そのサウンドは非常にやわらかい。それによって、今作全体を内包する、綿飴のようにふわふわと、口に入れた瞬間すっと消えてなくなるようなサウンドを作り出すことに奏功しているのではないだろうか。

 

彼女の"つかみどころのない歌声"は、何の変哲もない日常の詞の繰り返しにも抑揚やリズムをつける。ただ、それは朗読や話し言葉のようなものではなく、音に合わせることに専念された抑揚やリズムであるために、その意味を積極的に伝えるというよりは、純粋な音としてのユーモラスの方が先行して伝わってくるのだった。今作を聴いた後、2019年にリリースされた『がんばれ!メロディー』を聴くと、その違いがはっきりとわかるはず。こちらの方は低音が強調され、同じアーティストとは思えないような趣を放っている。ぜひとも、比較をしてみてほしい作品である。

 

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