三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

エレファントカシマシという支配体制へのパンク・ロック―宮本浩次「昇る太陽」レビュー

長きにわたって第一線で活動してきたバンドには、"大御所"だとか"ベテラン"という枕詞がつけられがちである。時にそれは大きな足かせとなって、バンドのイメージを固定化させるものとなったり、新曲を出しても新鮮味をもって聴かれなくなったりしてしまう。では、それを打開するにはどうすればいいのか。デビュー32年目に突入したエレファントカシマシのフロントマン兼通称"総合司会"、宮本浩次が出した答えは大胆にも、"バンドからの解放"であった――。

 

今年1月、宮本は突然"宮本、散歩中"と銘打ち、52歳にしてソロ活動の開始を宣言し世間を驚かせた。思えば、その伏線のようなものはそれ以前にもあった。昨年10月、椎名林檎の「獣ゆく細道」にて客演をし、さらに11月、東京スカパラダイスオーケストラの「明日以外すべて燃やせ」では、ゲストボーカルとして参加を果たした。そのときに感じたのは何より、バンドのフロントマンとしての宮本ではなくソロ・アーティストとしての宮本の器量の善さだった。"代表曲"や"キャリア"によって見えにくくなっていた部分が、エレファントカシマシという大きな看板を一先ず置いたことで、改めて浮き彫りになったのである。そんなわけで、この機に及んだソロデビューというのは、ある意味必然的な流れだったのかもしれない。

 

さて、そんな宮本浩次の記念すべきソロデビュー・シングル「昇る太陽」。冒頭、ミドルテンポのギター・アルペジオに乗せられる艶やかな歌声に恍惚としていると突然、歪んだ末に潰れ切ったギターの音と激しいドラムビートに華やかなストリングスが入り乱れ、混沌としたパンク・ロックへと変貌を遂げる。そしてサビの部分は、限界まで張り上げられた高音で、さらに攻め立てるように曲を尖らせていく。ただ、そこに乗せられる歌詞はとことんシンプルだ。暗雲立ち込める社会情勢や、政治的な失墜などが取り沙汰されている今日。パンク・ロックといえば、そうしたことに対して疑問を呈したり、異議を唱えるべく歌にするのが一つの定石でもある。

 

だが、この曲はあくまでも宮本浩次という人間を取り巻く昨今の状況が、ノンフィクション物語のように吐露されているにすぎない。ただ、言い換えればそれは、"純度100パーセント"、現時点での宮本の思いが込められているということでもある。デビュー以来30年、有名曲・代表曲多数の"ベテランバンド"からの解放を果たしたことで、今一度真っ新な気持ちで音楽と向き合うことができた――。つまりこれは、エレファントカシマシという支配体制からの解放を宣言する、パンク・ロックなのである。 

 

 

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この曲を聴いた時に感じたのはアメリカのパンク・バンド、グリーン・デイの「Bang Bang」。宮本は「Easy Go」(エレファントカシマシ『Wake Up』収録)を制作するにあたって、彼らのベスト盤(『God's Favorite Band』)を聴いたというが、この「昇る太陽」も少なからず影響を受けているにちがいない。

 

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MVで驚いたのは、撮影場所が沖縄であるらしい、ということだ。生粋の東京生まれ、東京育ちの宮本はこれまで、バンドにその土地柄を反映させてきたが、その作法でいったらかなり掟破りな感じである。"東京からまんまで沖縄へ"行くとは、ソロになる以前は到底考えられなかったことである。

 

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