三浦日記

音楽ライターの三浦智文が、日記のようにつらつらと書いていくブログ

Mr.Childrenのライブで感じた疑問―〈Against ALL GRAVITY〉東京ドーム公演 ライブレポート

幸いなことに、Mr.Childrenのドームツアー〈Against ALL GRAVITY〉の東京ドーム公演に行くことができた。野球好きの筆者としては、東京ドームといえば、4月のイチローの引退試合、さらには先日引退した上原浩治の本拠地球場である。そんなわけで、会場(グラウンド)に足を踏み入れた瞬間、ああ、ここでイチローが守ったんだな、とか、ここで上原が投げていたんだなといった具合に、勝手に感慨深い気分に浸ってしまっていた―。

 

開演時刻をすぎ、会場が暗転すると、ステージが白い照明で照らされ、ディレイが深くかかったギターの音が響き渡る。しばらくすると、朝もやのようにな空間を切り分けるように、メンバーたちが登場する。ドラムスJENのカウントから披露された一曲目は、「Your Song」。彼らの姿には、神々しさすらあった。モンスター・バンドの圧倒的な矜持。すごいものを見た、というように曲が終わると、ざわめきが起こった。そして、間髪を入れずに「Starting Over」~「himawari」と、近年のキラー・チューンとなった楽曲で、会場を一気につかんでゆく。

 

桜井は、「東京ドーム、めっちゃでかくて広いです。後ろの人、僕らがあまりに米粒みたいに小さくて、困惑してませんか? 僕ら、イチロー選手のレーザービーム以上の威力で、届けるからね。しっかり受け取って!」と、先日引退を決めたイチローの舞台となった"東京ドーム"ならではといった感じの粋な言い回しで会場を沸かせる。そして、「平成から、令和に変わりました。ここで、平成のヒット曲を、この令和にもう一回、もう一回…」と言って披露されたのは「HANABI」。サビの、〈もう一回 もう一回〉 の部分では、大合唱が起こり、この曲の持つ圧倒的な強さや、安心感みたいなものが改めて可視化されていたように思えた。続いて、2000年代を代表するバラードである「Sign」へ。「HANABI」もそうであるが、やはりこの時期の曲というのは、小林武史をアレンジャーに据え、ピアノ・サウンドを主体とした楽曲であるが、それが近年のバンド回帰的な路線の中で改めて披露されると、華やかさがより一層際立っていた。

 

桜井は、今回のツアー・タイトル〈Against All GRAVITY〉について、「すべての重力に対峙するという意味である」と語る。ただ、その重力というのは、「単なる重力ではなく、空を自由に飛び回りたいと思っている人にとって、対峙すべきものとしての重力でもある」という。そして、「逆に、地に足をつけたいと思ってる人にとっては、浮力の方がグラビティ―」である、と。なるほど確かに、新しいことや、別の世界に踏み出そうとしている人にとっては、"障壁"や、"大変なこと"があるよな、と思うし、安住を求める人、あるいは保守的な人にとっては、革新的なことが、重力になってしまう―。

 

だが、「ここで、僕らが直面すべきグラビティ―というのは、時間。楽しい時間というのは永遠に続けばいいな、と思っても、そういうわけにはいかないんですけど、たまに、心の中に永遠に刻まれるんじゃないかっていう時間があって」と、あれ…? グラビティーが今度は時間の話…? さっきの話はどこへ…? と思っている間に、「そんな一瞬の時間を今日は皆さんと作っていけたらいいなと思っています」という風に、何事もなかったかのように強引にまとめたのだった。そう、ここはMr.Childrenが支配する空間。少々の論理の破綻など一瞬にして、葬り去られてしまうのである…。

 

そして続けざまに、「平成から令和に、変わりました。変わったほうがいいものと、変わらない方がいいもの、あると思うんですが、我々はそのどちらなのかというのを、自問自答しながらこの曲をお届けします」といって披露されたのは、「名もなき詩」。冒頭、シンプルにアコースティックギターでかき鳴らされると、メロディが染み入るようにして入ってくる。そして何といっても、桜井の歌声の華やかさが際立っていた。彼の歌声は、まんべんなく会場を覆うのではなく、まるで、花火のようにパッと煌めいて、一瞬にして消えてしまうような感じだった。

 

そして、2005年リリースの『I ❤︎ U』から「CANDY」へ。桜井はこのアルバムが作られたときについて、サッカーに例えていたのが印象的だった。「僕は小学校のサッカーが好き。ぐちゃぐちゃーって、一つのボールに15人くらい集まる。でも、思いは一緒だよな、大人も子どもも、ゴールしたいっていう―。だけど、その表現方法がうまくいかなくて、思いの方が強くて、ぐちゃぐちゃーってなっちゃう」そんな感じを、トマトがぐちゃっと潰れたようなアートワークで表したのだという。続いて、キーボード・アレンジのイントロから、「旅立ちの唄」が披露され、やはりここでも、『REFLECTION』以前の雰囲気が会場を包み込んでいるように思えた。

 

「よく、今まで作った作品の中でどの曲が一番好きですか、みたいな質問には、どの作品も自分の子供のようなもので、優劣をつけられない、と答えています。でも実は、僕の中でこれ一番好きなんだよな、ってのがあって。その曲を、聴いてください」といって披露されたのは「ロードムービー」だった。この曲は、2000年の元旦に歌詞ができたという。この時期といえば、2000年"ミレニアム問題"が取り沙汰されていた頃である。機械に誤作動が起こるかもしれない、電気が、ガスが、水道が止まるかもしれない。ATMからお金が下せなくなるかもしれない―。桜井も、お金を下ろして、そして石油ストーブを買って年越しをしたというが、そんな時期、2000年の明け方、歌詞が溢れだしてきてそのままノートに書いた。自分でびっくりするくらい歌詞に感動し、泣いたという桜井。何より新しい世紀に歓迎されたような気分でうれしかったという。そんな桜井の思い入れのある楽曲は、令和の幕開けに静かに鳴っている"平成の残響"のようにも聴こえるのだった。

 

キーボードのアレンジに続いて披露されたのは、この日唯一のアルバム『HOME』からの楽曲である「SUNRISE」。そして、「tomorrow never knows」へ。90年代、もっといえば平成の名曲を当時にも増して、華やかに表現をする。この曲が披露されると、平成の様々な出来事が、まるで走馬灯のように浮かんでは消えていった。会場の5万人も恐らくそうだったのではないだろうか。それぞれの人生があって、そこにMr.Childrenという存在が"彩り"を加える―。桜井は、「いつもこのステージに立って思ってること。音楽っていう乗り物に、みんなを乗せて、悲しみや、寂しさや、退屈からできるだけ、遠い遠い場所に連れていきたい」と言っていたが、この曲では、まさに彼らが、そんな日常における"彩り"の象徴であるように思えた。

 

「まだエネルギーは残ってますか!」といって「innocent world」そして、『重力と呼吸』のエネルギッシュなビート・ロックの「海にて、心は裸になりたがる」で、ライブは一先ず幕を閉じる―。アンコール一発目は、こちらも最新アルバムから「SINGLES」~「World end」へと続く。最後の曲の前に、桜井はこんなことを言っていた。「最近の日課は、朝起きるとまず初めに、ネットニュースを見ること。ネットニュースを見ると目に飛び込んでくるのが、あの人お亡くなりになられたのかとか、あの人今大きい病気と闘ってんだとか、ちょっと前までバリバリに活躍してた、あのスポーツ選手が、引退してしまったんだとか。ついつい自分のことに置き換えて、自分ならあとどのくらい続けていられるんだろうかと考えてしまうんだけど。でも、考えて考えて出た結論は、もし明日、歌えなくなっても、バンドを続けられなくなっても、絶対後悔しないということ。なぜなら、結成してもう30年になろうというバンド、デビューして27年もたつバンドが、いまだに、こうやって長くやっていられるから」デビュー以来、トップを走り続けてきた彼らならではの、達観したような、そして何よりも自信を覗かせる言葉だった。

 

そして、桜井はこう続ける。「そして、僕ら続けてんのは、ふと、僕の中からメロディーが、生まれたりするからで。生まれたてのメロディーっていうのはまだ、歌詞もついていない。一体、何を伝えたくて生まれたのか、自分でもわからない。まるでクロスワード・パズルの穴を埋めるように、バンドと丁寧に音を作っていって、最後の最後に言葉がのっかったときに、こんなことを言いたかったんだって初めてわかる。そんなクロスワード・パズルを、解くために続けている気もするなって思っています。で、今思うことは、僕らができなくなるその日までの間に、あと1曲この5万人の心を一つにできるような、そんな曲を創りたいっていうこと。でも、1曲っていうのは、少し謙虚すぎるのかもしれない。10曲以上は作って、また、こんな5万人を相手にライブをしたいなと思ってます」曲作りとは、"クロスワード・パズル"を解くようなことである。その混沌と向き合い、さらなる探究心を持って良い曲を作る。そんな決意めいた言葉を最後に披露されたのは「皮膚呼吸」。ライブはなんとも華々しく終演した。

 

アルバムのツアーではないものの、1990−2000年代の名曲というよりかは、『重力と呼吸』を軸としたセットリストで構成されていた今回のドームツアー。けれども、どうしても、かつてのヒットソングに引っ張られてしまっているような印象を受けてしまった。というのも、大合唱が沸き起こっていたのはやはり、「innocent world」や「HANABI」であったし、歓声の大きさも段違いに大きかったように思えたからだ。また、そうした楽曲における大合唱や、一体感みたいなものはある意味で、"予定調和的"にも映ってしまった。なんというか、予想外の一回性の瞬間というよりは、全員でその幸福感みたいなものを"共有"し、"再現"をしている感じがしたのである。「すべての重力と対峙する」という意味の今回のツアー・タイトル。彼らが対峙しているのは果たして、「自由に空を飛び回ろうとするものに対する重力」か、それとも「地に足をつけ、浮かぼうとする力(桜井的にはこちらも重力)」の方か。少なくとも筆者には後者の方に映ってしまったのだった。

 

また、今回のライブのセットリストの軸となっていた『重力と呼吸』は、バンド・サウンドの回帰が謳われていた作品でもある。しかしながら今回は、むしろ『REFLECTION』以前の体制を彷彿させる、ピアノを中心に据えたポップなサウンドで構成されていて、"バンド・サウンド感"みたいなもの感じられなかった。なんというか、小林武史がプロデューサー、あるいはサポートをしていた頃に培ったようなアレンジのまま、変わっていないように思ってしまったのだ。このライブでMr.Childrenが伝えようとしたことは何だったのか。確かに、時代を象徴するような楽曲を随所に入れ込んでいて、その"残響"のようなものは感じられた。ただ、そこに"流れ"のようなものは感じられず、ただただ定番の曲を続けてやっているようにも思ってしまう。そして何より、アレンジの変わり映えのなさは、近年の彼らの求めている音楽から大きく乖離してしまっているようにも思えてならない。そして、もう一度言いたい。彼らは今現在、「地に足をつけ、浮かぼうとする力」と対峙してしまっている、と。

 

セットリスト

1. Your song
2. Starting Over
3. himawari
4. everybody goes ~秩序のない現代にドロップキック~
5. HANABI
6. Sign
7. 名もなき詩
8. CANDY
9. 旅立ちの唄
10. ロードムービー
11. addiction
12. Dance Dance Dance
13. Monster
14. SUNRISE
15. Tomorrow never knows
16. Prelude
17. innocent world
18. 海にて、心は裸になりたがる

アンコール
19. SINGLES
20. Worlds end
21. 皮膚呼吸

 

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