三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

最近のWeezerのセットリストはなぜ昔の曲ばかりなのか?


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 先日は、コーチェラに出演したWeezer。そこでWeezerは、最近の曲ではなく初期の曲中心に演奏していたのが、とても印象的に写った。初期の曲を中心にしたセットリストは、コーチェラに限ったことではなく、ここ数年の彼らのフェスでの鉄板といっていいくらいのスタイルだ。だから、おそらく今年の〈SUMMER SONIC 2019〉も、そんな感じのセットリストになるのではないかと、筆者は予想をしている。

 ただ、疑問に思うのは、別に彼らは最近作品を出していないというわけではないのに、わざわざ初期の曲をやるということだ。たとえば、ここ20年くらいアルバムを出していないで、かつてのヒット曲をフェスで演奏するしかない、というのならまだわかるが、彼らの場合はそうではないのである。2016年の『Weezer (White Album)』、2017年の『Pacific Daydream』、そして今年リリースされた『Weezer (Black Album)』は、近年のフェスのセットリストにおいては、10数曲のうち、1曲ないしは2曲という割合にとどまっている。

 そんな疑問の一介の助けとなるであろう記事が、ローリング・ストーン誌に載っていた。Inside Weezer's Set List Science (Weezerのセットリストの裏側)という記事では、Weezerのライブのセットリストについて、リヴァース本人のインタビューを引用しながらまとめられている。

www.rollingstone.com


 そこでは、「リヴァースは、Weezerのライブにおけるセットリストを、古風な感じ(かつてのヒット曲)で構成しようとしている。そして、2018年のミルウォーキーでのライブでは、まさにそのスタイルでセットリストを構成した」ということが書かれていた。

 たとえば、“Buddy Holly” (1994)のような代表曲はかつて、ライブの最後に演奏されることが多かったが、最近ではライブの最初の方に披露されることが多くなってきているという。それに対してリヴァースは、「この曲はエネルギーに満ち溢れていて、みんなが知っている、ポップ・ソング。だからこの曲で、俺たちが何者で、どこから来たのか、そして何より、このバンドが好きだっていうのをお客さんに証明できるんだ」と語る。

 “Beverly Hills” (2005)については、「年々、観客が進化していく様子を、この曲を演奏することを通じて見るのが面白いね 。というのも、心動かされたことの内の一つで、最近の若い子たちはとてもいいダンサーだなあ、というのがあって。この曲を演奏すると、最近の観客の反応を見るのが本当に楽しいんだ。とにかく、いい感じに揺れて、ノッてくれる。それによって、数時間前に何が起こったって、気分は高まるんだよね。」と述べている。

 『Weezer (Red Album)』の反抗的なアンセム・ソングである、“Pork and Beans” (2008)については、「ときどき、自分自身の悲しいストーリーを歌うんだけど、2008年の頃の曲にはそういう曲がないからこれは、ある意味観客を圧倒するためには十分な曲ではないといえる。けれども、若者の共感は呼べる曲だと思うよ。」であるという。

 “El Scorcho” (1996)については、「『Pinkerton』からは、ここ最近一曲も演奏していなかった。だから、そのことについて心配しているファンがいるんじゃないかということを確信したんだ。このアルバムのツアーの時は、観客の反応というのはクリケットの試合を見ているかのようだったんだ、落ち込んだよね。でも今は、ブライアンのギターソロと一緒に、みんなが歌ってくれるようになったんだ。」と述べる。

 そして、彼らの代表曲である、“Say It Ain’t So” (1994)をアンコールに据えたことについては、「俺たちのライブを通して観客は、様々な感情の移り変わりを体験することになる。そんな状況で、そしてそれがたとえ重苦しい雰囲気になっていたとしても、会場を成立させられる唯一の曲なんだ。」と語っていた。

 この記事からわかることは、リヴァースは少なくとも懐古主義には陥っていない、ということだ。あくまでフェスにおいては、最新曲をやるのではなく、かつての曲の演奏することで、その変化や、成長を楽しもうとする。そしてそこには、フェスの主役である若者に対する意識も決して忘れていない。彼らは、かつての曲であっても(いや、むしろかつての曲にこそ)、確実に今の若者に共感を得られる、という自信を持っているのではないだろうか。彼らがかつての楽曲を演奏する理由はここにある。そしてそこからは、フェスの在り方と自分自身の立ち位置(キャリア)を見据え、セットリストを構成するという哲学が垣間見えるのであった。

 

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