三浦日記

音楽ライターの三浦智文が、日記のようにつらつらと書いていくブログ

春の憂鬱、そして日常―SASORI『Silver topaz / mellow』 レビュー

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左からMK(Gt.)、小杉真咲(Gt./Vo.)、中川ヒロキ(Dr.)。

 

 長い冬の頃には、春が待ち遠しい。けれども、いざ桜の季節になると、淡く美しい景色とは裏腹、出会いや別れに際し、どこか後ろめたく憂鬱な気分になりがちだ。SASORIの記念すべき1枚目となるシングル『Silver topaz / mellow』に収録された3曲は、まさに浮き沈みの激しい、春の憂鬱な気分がそのまま投影されているかのようである。今回は、そんなSASORIのシングルのレビューをお届けする。



 1曲目の「Silver topaz」は、1990年代のシューゲイザーのようなテイストを滲ませつつも、ポップな歌モノとして確立されている。なんというか、シューゲイズ(Shoe Gaze)しすぎていない、ある程度、前を向いて届けようとしているような印象がある。そのポップさを可能にしているのは、小杉真咲(Gt./Vo.)の歌い方にあるだろう。それぞれのパートで声色を変化させることによって、楽曲のコントラストがはっきりとし、聴きやすさが生まれている。

 また、小杉は日本語の"発音"よりも、"響き"の方を大切にしながら歌う。そのため、歌詞はキーワードのように点滅しながら、聴いている者の頭の中に浮かんでは消えるを繰り返す。そんな歌声の"響き"の中でも、ひと際ドキッとするようなフレーズがある。〈君の胃袋に潜りたい/君の胃袋が満たされる〉という部分、"胃袋"というリリックが2度使われる。この部分だけが妙に生々しく、脳裏に焼き付いてくる。楽曲を聴き終わった後の、爽やかながらも、どこか"トゲ"が残る感じ。それによってこの曲は、歌モノのメロディでありながらも、そこに傾倒しすぎない感じが演出されているのである。


 続く、「mellow」では、冷たさを内包した「Silver topaz」とは一転、柔らかい印象の楽曲になっている。ただ、その曲調とは裏腹に、センチメンタルな歌詞がちらほらとのぞかせ、それは情景をありありと浮かび上がらせる。冒頭部分、夕陽に髪が照らされながら、バスを待っている。これは少女だろうか。少女は、その夕陽が全身を覆いつくし、自分は消えてしまうのではないかとふと考える―。そして、夕陽に照らされながら、〈寄せては返す波間に歳をとる〉、〈あと50年先のわたしたちも/悩むよ、ぶつかっていくよきっと〉と、思いを巡らせる―。

 そんな歌詞は、なんともドラマチックなアレンジで彩られる。特に、それぞれの間奏で、MKのギターが表情を変えながら随所に入るギターのフレーズが印象的だ。それはまるで、曲が展開していく様子を知らせる"シグナル"のようでもある。そんなギターは、後奏の部分になると、とたんにピアノへと主体が変化する。それにより、だんだんとクールダウンし、曲が終わりに向かっているのがわかる。この曲を聴いた後には、夕日が沈んだ直後の、ぼんやりとした色合いの空に似た"mellow"な情景が頭の中で浮かび上がっていたのだった。


 そして、3曲目の「Unitbath」。先の2曲で冷たさと、暖かさの両極を示されているとすれば、この曲はそのどちらでもない。もっと言えば、何も起こらない"平凡な日の出来事"という感じである。作詞作曲の小杉は、曲の「Unitbath」というタイトルについて、"一人暮らし"の意味を持たせたという。そんな一人暮らしの家、あるいはバスタブの中で、ふと考える"母"という存在―。

 一番身近にいる存在ほど、想ったり、心配したりする機会というのは忘れがちだ。そして、離れたとき初めて、その尊さに気が付いたり、心強さを思い出したりするものである。この曲では、そんな感情が、リアリティをもった歌詞を通じて訴えかけてくる。それによって、この曲は、決して他人事の話ではなく、聴く人それぞれに大切な人の存在を思い起こさせるものとなっているのだ。(三浦智文)

 

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『Silver topaz / mellow』ジャケット写真

 

【リリース情報】

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