三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

エレカシの宮本の歌声、そしてライブへのススメ

エレファントカシマシのボーカリスト、宮本の歌声。それはどこで最も映えるかというという問いがあれば、間違いなくライブであると答えるだろう。ライブが音源と異なるのは、空間的な反響の音を感じられるということだ。宮本の、ライブでの歌声を例えるならば、"地響き"である。宮本の歌声は空間のすべてを振動させ、隅から隅までまんべんなく広がってゆく。そして会場を一瞬にしてかっさらっていく。

 

では、その感覚をライブの音源(CD/DVD/Blu-ray)で感じられるのかといったら、またそれも難しい話になってくる。『Wake Up』の限定生産盤のライブCDの出来について以前、記事にも書いたように、その音源では、それぞれの音が混ざり合わず、独立して聴こえてきてしまうのだった。おそらく、マイクをそれぞれの楽器のアンプに設置し、録音する通称"ライン録り"で、音源を録音したように思えるが、残念なことに空間的な音の広がりを感じることができなかったのだ。

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一方、先日リリースされた、東京スカパラダイスオーケストラの『2018 Tour「SKANKING JAPAN」" スカフェス in 城ホール" 2018.12.24』に収録されている、「明日以外すべて燃やせ」ではしっかりと会場の反響の音が再現されていて、まるでその場にいるような感覚になった。こちらの方は、先ほどのライン録りではなく、どちらかというと空間をそのまま録音したような、"エアー録り"のような音に近い仕様になっていた。ただ、会場のような音ではあるけれど、やはり何かが違うのである。あくまでも、それっ"ぽい"音にすぎないのだ。

 

宮本はライブの時、マイクを口がくっ付くぐらい近くにして歌う。マイキングの位置は基本的に、遠ければ遠いほど空間の音を拾うことができ、逆に近ければ近いほど本来の音に忠実な音を出すことができる。たとえば、アメリカの世界的シンガーソングライターであるブルーノ・マーズなんかは、マイクをかなり離して歌うために、強く歌っていてもかなり柔らかい感じに聴こえてくる。音源で宮本の歌声を処理しにくいのは、一つにはこのマイキングの位置にあるように思えてしまう。つまりは、空間的な再現が難しいのである。テレビの収録で聴くと、たまに肩透かしを食らったように聴こえてしまうのも、その処理が難しいゆえなのかもしれない。

 

そんな宮本の歌い方で面白いのは、マイクの位置をほとんど変えていないのにもかかわらず、高音と低音の歌声のバランスが変わらないということだ。しかも、口の大きさも低音と高音であまり変わることはない。マイクの位置や、口の大きさで高低のバランスをとるアーティストが多い中で、この歌い方はかなり異質であるといえる。椎名林檎は、宮本の声を"名器"であると称していたが、まさに言い得て妙、宮本自身が人間コンプレッサーのようになって、マイクの力に頼ることなく、自分自身でその音圧を調節できるのである。

 

そして、それを一番に体験できるのは最初の方にも書いたように、ライブなのである。宮本の独特のマイキングの位置。そして、ライブ会場特有のリアルな反響。それらが合わさったときに、何らかの化学的な反応が起き、あのブワーっと押しつぶされるような感覚に至る。こうなってくるともう、声紋や声の周波数と反響の親和性を、科学的に調べる必要があるのかもしれない。そんなわけで締めとして。エレファントカシマシを知ったそこのあなた、まずはライブを観に行ってみましょう!

 

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