三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

"大御所バンド"に求める魅力について—木々、森林のイメージと重ねて

 昨年の夏、白神山地に行く機会があった。ここは、秋田県青森県の県境にある、世界有数のブナの原生林の土地であり、1993年には日本初の世界遺産にも登録された。現在は、一部区域立ち入りが制限されてはいるものの、悠久の時を感じることができるスポットとして、毎年多くの観光客が訪れている。筆者が訪れたのは、世界遺産の区域内にある、"津軽国定公園十二湖"とよばれる場所。大崩という山の頂上から見るとちょうど12個の湖が見えることから"十二湖"と命名されたという。

 そこに入ると当然であるが、どこもかしこもブナの原生林があった。白と灰色の縞模様の幹に、濃い緑色の葉が枝を覆っている。木々は重なり合うようにして自生し、空までも覆うように、葉のカーテンが敷かれていた。実に壮観だった。その日は晴れ、しかも8月。じっとしているだけで汗が噴き出るほどであったが、その中では、ひんやりと潤いを持った空気が支配していた。手の加えられていない、自然が創り出した風景。そこだけ別世界だった。何百年、あるいは何千年という時間の中で積み重ねられてきた威厳。それを感じたとき筆者は、この上なく"美しい"と思ったのだった。どうやら人間というものは、歴史を感じられる自然の造形を見たとき、ある種の美しさを感じてしまうらしい。

 たしかに、世に言われるような絶景というのにも、どうもそうしたものが多いような気がする。たとえば、トルコにあるカッパドキアだってそうだ。硬さの異なる2種類の凝灰岩が、長年の雨で浸食されて出来上がったという奇妙な形の岩。円錐形で波打つように連なるものもあれば、キノコのように上の方が傘のようになった形のものもある。そして、その景色は息をのむほどに美しい。過去が積み重なったもの。やはり人間はそこにこそ美しさを見出すのでないだろうか。なんというか、その日に出来上がったものというのではいけない。それは木であっても同じで、樹齢が一年にも満たない若木にそれを感じることはできないし、やはり、威厳を持つためには、それなりの"樹齢"が必要になってくるのであろう。

 話は急に音楽に入るが、大御所バンドのバンドに求める魅力の一つには、まさにこうした森林の歴史的な重層性に似たものがある。1年目、あるいはデビューしたての若手には出すことができないような、"歴史"をもって、リスナーに伝えてゆくのである。世にいう"大御所バンド"、その中でもエレファントカシマシには、それが如実に感じられるのである。デビューしたてのころ、あるいは10代で作ったの曲の数々は、30年という月日を経て現在、ライブにおいては"キラーチューン"のような役割を果たしている。苗木は、やがて大きな木になり、今現在も年輪を重ね続けている。そして、その木は決して枯れてはおらず、腐敗してもいない。その大木からは、常に新芽が芽吹いているのだ。さらに、常に開拓心のある作品を世に送り続けるその様は、大木に追随、あるいは追い越すぐらいの木を植え続けているかのようである。

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 B'zのイメージは、エレファントカシマシとはちょっとだけ違う。映画の『アバター』で登場する"魂の木"や、屋久島にある千年杉のような、一本の大きな巨木が立っていて、それが倒れないようにメンテナンス、あるいは剪定を続けているイメージである。そこでは、雑草や、他の木々は一切寄せ付けることなく、その巨木だけに注視している。つまりは、時代の流行なんて言うのはお構いなしに、彼らのやりたい音楽をひたすらに続けるということである。そのおかげで、巨木はアイコンになり、一目見ただけでああ、B'zだ、ということがわかるようになってくる。いつでもそこにいる安心感というか、どんなことがあってもそこにいけばすべてを忘れさせてくれる、というような意味で、彼らの存在はまさしく"一本のご神木"である。

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 一方で、クロマニヨンズなんていうのは、ずっと同じことをやり続けている。もう、ひたすらにロックンロールをし続けている。それだけではなく、30年以上のキャリアの中で培ってきた威厳なんて言うのを、自らなぎ倒すかのようにして、消し去ろうとすらしている。けれども、伐採を続けた土地はいずれ肥えてゆく。そこで彼らは、それが飽和した瞬間に、新たな土地へと乗り換えてゆく。THE BLUE HEARTS、そして↑THE HIGH-LOWS↓、そこで築き上げてきたものを引きずることなく今現在は、クロマニヨンズという土地で新たに土を耕している。そのさわやかな様、これもある意味で大御所バンドの在り方の一つであるような気がする。過去に一切媚びない。彼らにとっては、「今この瞬間にロックンロールをしているか」ということだけが重要なのである。新作が出るたびに、若木へとアップデートされていくその森林の様子は、壮観である。

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 とまあこんな感じで、バンドを木々に例えるという、やや強引なことをやってみたが、そろそろ、もっとまじめに音楽について書いてみないとヤバいなと思う次第…。